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※2023年11月13日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年11月13日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
発言が意味不明(岸田首相)/(C)日刊ゲンダイ
1人4万円の「定額減税」をめぐって、岸田政権の方針と首相の発言が朝令暮改でクルクル変遷。11日の朝日新聞が舞台裏について報じていたが、どうにもフザケている。
岸田首相は9月25日に「成長の成果である税収増を国民に適切に還元する」と宣言した。この「国民に還元」とは何を意味するのかで議論百出になったことは記憶に新しい。与党内が「給付金だ」「いや、所得税減税だ」「消費税減税だ」と大騒ぎだったのだが、実際、首相ら官邸幹部のなかでは最初から「還元=減税」が既定路線だったらしい。内容をわざと曖昧にしたのは、<効果的なタイミングで首相が自ら公表する作戦を立てた>からだった。
「首相の指導力」を演出するため、約1カ月後の10月20日に、岸田はようやく「所得税」という言葉を使って与党幹部に減税の検討を指示。岸田本人としては“満を持して”減税を打ち出し、国民から「岸田さん、ありがとう」と感謝されるはずだった。ところが、さにあらず。人気取りや選挙対策なのが世論に見透かされ、むしろ裏目。内閣支持率が2012年の自民党の政権復帰後の最低にまで沈んだのだ。
減税の評判が悪すぎて、岸田は減税する理由についても、苦し紛れの「新説」を繰り出す始末だ。
当初は「物価高対策」だったはずが、10月23日の自民党役員会で「デフレ脱却を確実にする」「国民の可処分所得を下支えする」と言い出し、ついには同26日の政府与党政策懇談会で「子育て支援の意味合いを持つ」とわけのわからない理屈まで持ち出した。今月2日の記者会見では「過去に例のない子育て支援型の減税」とアピールしていたから驚いてしまう。
物価高対策はどこへ行ってしまったのか? もう支離滅裂のめちゃくちゃ。「新説」どころか、もはや“珍説”の類いである。
首相は「当事者意識」欠如
こんなお粗末な事態を招いたのは、最初から「還元」なんてまったくの幻想だったからだ。
岸田の言う「2年分の税収増分」は既に使ってしまって「原資ナシ」なのを鈴木財務大臣と宮沢自民党税調会長にバラされた。それどころか、財務相は「減税策を実施すれば国債発行額が増える」とも明言。つまり、「還元」は借金で行われるのだ。
「物価高に苦しむ国民生活を支えるために、緊急避難的に国債増発は避けられない」などと真摯に説明でもしてくれるなら、まだ国民に理解されたかもしれないが、岸田から透けて見えるのは、ただただ「増税メガネ」の汚名払拭と国民愚弄の人気取りだけである。
そして、先週10日に閣議決定された、経済対策の裏づけとなる13.1兆円の補正予算案。その67%にあたる8兆8750億円は国債の追加発行で賄う。実はこれには、岸田肝いりの「防衛費増額」の影響が色濃く出ている。
通常、補正予算には前年度の決算剰余金が充てられるが、今年度から剰余金は防衛費に優先的に回されることになってしまい、経済対策にはほとんど使えないのだ。
一方で防衛費については、来年度はやらないとしても、27年度までには「所得税、法人税、たばこ税の増税分」を充てることになっている。「次元の異なる」少子化対策も、財源として公的医療保険料の上乗せになりそう。
「国民に還元」などと甘い言葉をまき散らし、結局は借金で減税して、防衛費は増税、少子化対策も負担増という意味不明。いったい、この首相は自分が何をやっているのか理解しているのだろうか。国民の血税を、目先の人気取りのために私物化するのはやめてもらいたい。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。
「岸田首相としては、『財務省の振り付け通りやっていたのに、なんでこんなに批判されなきゃいけないんだ』と不満なんじゃないですか。『還元の原資はない』という話も、財務省がハシゴを外したわけですから。国民に対しても『こんなに減税してやっているのに』とすら思っている。しかし、国民からすれば『いい加減にしてくれ』です。岸田首相は国民生活を守るトップリーダーとしての当事者意識が欠けています」
今こそ日本は「人間の安全保障」を訴えるべきなのに…
支離滅裂は外交でも、遺憾なく発揮されている。
直近では、上川外相が仕切ったG7外相会合の共同声明は酷かった。イスラエルによる連日のパレスチナ自治区ガザへの空爆で1万人以上が犠牲になり、4000人を超える子どもたちが命を失っている。今や世界の多くが「ジェノサイド」だとして「即時停戦」を求めているのに、G7の結論は戦闘を一時的に止める「人道的休止」だった。
G7は今年5月の広島サミットの首脳声明で、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持・強化する」と表明している。当時は、ウクライナに侵攻するロシアを念頭にしていたが、だったらイスラエルによるパレスチナ人虐殺は「法の支配」に基づいているのかどうか。イスラエル擁護の“二重基準”に対して、アラブ諸国だけでなく、グローバルサウスと呼ばれる新興国も反発している。
日本は、長年パレスチナに人道支援を行い、一方でイスラエルとは良好な関係を築いてきた。パレスチナ問題の元凶をつくった欧米諸国とは違う歴史と立場があるのに、岸田外交は法の支配を無視した米国追従の「二枚舌」なのである。今月上旬のフィリピン外遊時に岸田は、「最も重視しているのが『人間の尊厳』という理念です」と演説していたが、よくぞ言えたものだ。
国際ジャーナリストの春名幹男氏が言う。
「戦争の『休止』は英語では『pause(ポーズ)』でしかなく、『ちょっと休む』程度です。『cease-fire(停戦)』ではないので、人道回廊をつくれず、一般市民を救うことは難しい。イスラエル人の人質も人間の盾にされてしまいます。岸田首相はあれだけ長く外相をやっていたのに、結局は米国に追随するだけで、情けない。本来は、今こそ日本政府は『人間の安全保障』を訴えるべきなのです。
故緒方貞子さん(元国連難民高等弁務官で元JICA理事長)らが国連で提唱し、取り組んできた概念で、外務省も重視していました。最近はあまり言わなくなっているようですが、罪のない人々が安全に暮らせる環境を回復するために、『人間の安全保障』は重要なフレーズです。G7でも議長国の日本は主導権を握れるチャンスだったのに、本当に情けない」
まさに政権末期の様相
9月の内閣改造で岸田が選んだ政務三役も、不祥事が所管業務と密接に関わる「不適材不適所」続出のデタラメだ。不倫パパ活疑惑を報じられた文科政務官と公選法違反を犯す法務副大臣が辞任したのに続き、税金滞納“常習犯”の財務副大臣までいることがわかった。早晩、3人目の辞任は必至だろうが、どうしてこれほど政治家以前のゴロツキばかりなのか。
「順法精神の最も高い人が政治家になるものです。ところが最近は『そんなの関係ない』というような、次元の違う人が増えている」(角谷浩一氏=前出)
まさに政権末期の様相だ。岸田は来年9月の総裁選での再選戦略を描いているとされるが、それまで持つのか。誰が見ても、もう持たないのではないか。
岸田が年内の解散総選挙を断念したことで、自民党内では、二階元幹事長と菅前首相が会食するなど非主流派がうごめき出した。茂木幹事長は「令和の明智光秀にはならない」と岸田を支える考えを示しているが、「オレが、オレが」の茂木のことだ。「岸田政権は長くないとみて、自ら転ぶのを待つ戦略じゃないのか」(自民党中堅)なんて見方も出ている。
もっとも、ゴロツキだらけの自民党が派閥の論理で首相をたらい回しする政治が続いていいのかどうか。増減税に振り回される有権者の多くが、今そうした思いを強くしているのではないか。
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