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大将失った安倍派の瓦解 長門でも下関でも顕在化 長門市長選では内部分裂【本紙記者座談会】
https://www.chosyu-journal.jp/yamaguchi/28164
2023年11月12日 長周新聞
前列左から、山口県選出国会議員の林芳正、江島潔、北村経夫(4日、下関市、捕鯨母船日新丸引退セレモニーにて)
長門市長選の告示が12日に迫っている。安倍晋三代議士亡き後、選挙区内で初の首長選となる同選挙は、現職の江原達也(安倍派)が再選を目指しているのに対して、前市長の大西倉雄(安倍派)や県議の笠本俊也(安倍派)らが擁立した南野佳子(長門市役所出身)が自民党推薦を受けて、辻立ちやミニ集会などを展開している。人口減少が進み、産業の衰退を懸念する有権者は多いが、そうした市民の問題意識を置き去りにして白熱しているのが自民党同士のバトルであり、選挙区のトップに君臨してきた政治家亡き後の混迷を映し出したものになっている。長門や下関で「安倍晋三逝去後」にどのような変化があらわれているのか、その特徴について記者たちで論議した。
◇ ◇
A 前回の記者座談会の紙面が長門界隈でも随分と読まれていて、とくに自民党関係者が複数部買い求めに来るという特徴があった。陣営に関係なく読まれていたようだ。書かれていることは自分たちのバトルのことなんだが、当事者としても脳味噌が整理されるようで、「わかりやすい」という感想が意外に多かった。「第2弾もやってほしい」という要望が多数寄せられたため、告示ギリギリではあるが近況について座談会という形で論議することにした。
長門市長選の立候補予定者のパンフレット
まず第一にはっきりしておきたいのは、長門市長選については、江原が勝とうが、南野が勝とうが知ったことではないし、それは長門市民が決めることだ。むしろ興味があるのは、今回の選挙で安倍派vs安倍派という頓珍漢な様相に発展しており、そこに林派が牛耳りつつある自民党山口県連が首を突っ込んだり、傍から見ても「何やってんの?」と思うほど自民党同士が亀裂を深め、はちゃめちゃな選挙をくり広げていることだ。政治構造が変化しつつあるのなら、それがくだらない仲違いや権力争いであってもしっかりウォッチングしておく必要がある。
C 選挙が近づくにつれて、なんだか活字にするのがはばかられるような品のないネガティブキャンペーンがくり広げられているし、互いの陣営がヒートアップしている。小さな街でそれをやるものだからたちまち噂の類いは広がるし、嘘かホントかも知ったことではないが、とにかく“品がない”の一言に尽きる。
現職の江原は市議会の定例会中だが、南野が江原の地元である日置町内も一軒一軒回ったりしている。林芳正と南野の顔写真が入った「時局講演会」のポスターはこの半月ほどで街中に格段に増えた。運動員に対して1人7枚というノルマがあるそうで、「不在者宅にも貼っていた」とか、「黄波戸漁協にまで貼っていた」(江原現市長のお膝元の日置地区)とか、とにかく目立つものだから、これをめぐってもいろいろ悶着があったようだ。黄波戸漁協で問題になったので、漁協関係では会議が開かれて「統括支店は中立」と決めたとか、「でも○○支店は絶対に南野だ」「○○支店は江原に違いない」「どちらかの支援をはっきりさせたら、負けたときには冷や飯を食らうのではないか」などと気を揉んでいる人たちもいる。自民党の支持母体が股裂きみたくなっている。
現職に比べて知名度で劣る南野陣営にとっては、新たに新3区の代議士になるであろう林芳正の後ろ盾をアピールするためのポスターだが、じつは林芳正の支援者のなかでも「なんで林先生の写真が南野の下なのか」と、このポスターが不人気なのだそうだ。南野支援に回った人たちもそれには頭を悩ませていて、効果のほどは未知数だ。そして、林派としてはあまり前面に出ると江原陣営を支えている自民党支持者たちを敵に回すことになり、いまになって自分の選挙にとって不利になることを心配し始めている有り様だ。今回のような保守分裂の選挙では、上手にすべてを生暖かく丸めて自らの支持基盤として取り込んでいくというのが選挙区の代議士の振る舞いとしては定石だろうが、自民党県連の尻馬に乗ったのか、早々に「南野支持」をうち出してしまい、江原陣営に集う自民党関係者から怨みを買っている。ほんとうにいつも間が悪い。
B 前回の座談会(10月13日付)でも話になったが、今回の長門市長選では、長門市役所の教育部長だった南野が8月に市役所を退職して自民党に入党し、それから1カ月もたたないうちに自民党山口県連が現職・江原の推薦願いを蹴って南野の推薦を決めた。江原陣営からすれば、「両方に推薦を出さないならまだしも、自民党歴も浅く、なんの実績もない南野にどうして推薦が出るのか」と思うのは当然だ。
それだけでも江原支援者の怒りに火をつけたのに、事務所開きに林芳正を筆頭にして県選出の国会議員本人が4人も駆けつけて、「自民党公認候補は南野だ」とやったものだから、火に油を注ぐ結果になった。その後、連合山口も公明党も自民党に右へ倣えで南野推薦を決めたので、組織だけを見れば、与野党すべての組織から支援を受ける南野に対し、自民党安倍派の一部に支えられた江原はなんの後ろ盾もない候補者という体になっている。当たり前に考えると南野が圧勝しなければならない選挙構図なのだが、果たしてそうなるか? なのだ。
C 自民党の推薦をめぐっては、地元の自民党支部が推薦候補を決定して山口県連にあげ、県連が決定した――ということになっているが、そのうち三隅支部の党員から「どのような経緯で南野氏への推薦を決めたのか説明してくれ」という要請書が出されて、支部党員の総意とはいえない決定だったことが露呈した。
この質問状に対して、10月20日付で自民党三隅支部長(元三隅町長)から回答書が出た。それを見ると、「今年4月にあった山口県議会議員選挙で、笠本俊也が自民党公認候補者だったのに、江原が対立候補を擁立して動いたから」という一点にしぼられている。「地元選出の元総理である安倍先生からも、党として、支部として、一丸となって党が決定した『公認』、『推薦』の候補を全面的に支えるよう、重々お話をいただいてきたが、一枚岩になれない市長選、県議選が続いている」「安倍先生の亡き後、国や県と地元を繋ぐにあたり、安倍先生が任せた笠本県議は4期目、その強いパイプ役として地元ではなくてはならない存在。その県議を変えることに動いた反対の立場を取られた方々の行為は、安倍先生が地域のために築いた国、県、党との繋がりをないがしろにする行為だ。これまで安倍先生の下で育てた県議と、しっかりタッグが組める人物を推薦すべきという結論に至った」という内容だった。安倍晋三はもうこの世にはいないのだが、「安倍先生が!」「安倍先生が!」と錦の御旗にしているのに特徴がある。
B 南野陣営が「現職は県とのパイプがない」と訴えているのは、要するに笠本と仲が悪いということのようだ。南野支援者や陣営の人たちに話を聞いてみると、市長と県議が同じ方向を向いて、県に対して要望をすることで県の優先度が上がるのに、長門市はそれがうまくいかないから県の優先度が低いのだと話していた。南野自身も「だれもやらないんだったら自分がやるしかない。4年は待てないという思いで立候補した」と訴えている。確かに市民の頭ごしで大きな話が決まるケースが多いという指摘は方々で聞かれる。
最近でもセンザキッチンの敷地内にアメリカの世界的なホテルチェーン「マリオット・インターナショナル」がホテルを建設する前提で積水ハウスなどが出資する都内の企業と協定を結んだというニュースが流れた。これも関係者は寝耳に水だったそうだ。「江原の政策自体は悪いことではないが、順番がある」というのが南野陣営の主張だ。あと、土木関係は公共事業が減って「仕事がほしい」と切望しているという話もあった。
A 安倍派の関係者は、そういった主張について「本当に長門のために自分が県から予算を引っ張ってこれるというなら、笠本がみずから市長選に出て正々堂々とたたかったらいいじゃないか」という声もある。回答書も笠本がかかわったに違いないといっていて、「亡くなった後まで安倍先生の名前を使って品がない」と激怒している人たちもいる。「このままでは安倍さんが成仏できない」とか、安倍代議士の墓に参って「天罰が下れ」とお祈りしている人がいたり、相当感情的になっている。
結局のところ、「笠本は県議4期目の席は失いたくないから、今回ワンポイントリリーフで南野を立て、次期市長選に自分が出ようと考えているのではないか」という評価がもっぱらだ。江原とそりの合わない笠本と大西が県の退職者など複数人の女性に声をかけまくって断られ、最後に南野が承諾したという話は、事実かどうかは別としてだいぶ広まっている。南野の支援を決めた人たちも「絶対に南野でなければ」というより、「林先生に泥を塗ってはいけない」とか、「笠本に世話になっているから」という感じで、なかなか熱を込めるには難しい選挙になっているようだ。
私怨も絡み合う泥試合 分裂する安倍派
B 現職に対する対抗馬擁立は「県議選で江原が自民党を裏切ったから」というのが表向きの理由になっているが、その後ろに前回市長選で江原に引きずり下ろされた大西の恨みがあることも周知の事実になってしまった。しかし大西の評価については、江原陣営に限らず、南野を支援している人や一般市民も含めて「嫌われたから落とされたんだ」ということで落ち着いているように見える。
長門の外から見ていると、大西と安倍がタッグを組んで星野リゾートを誘致して湯本温泉の再開発を進めたり、センザキッチン(道の駅)をつくったり、プーチン・安倍会談の舞台になったりと、なにかと話題になることが多かった。下関でも前田市長がそれをまねて星野リゾートを誘致したところだが、市民に支持されていたかというと、そうでもないようだ。「湯本なども全部、殿様の後ろ盾があってできたこと。独断専行だった」とか、「女性たちが日常的に使っていた大衆浴場を星野のためにつぶしたから、女性たちがみんな怒ったのだ」とか、「箱物三昧だった」などと語られている。ちなみに星野リゾートは地元から醤油一本買わないのだと語られていた。そういう話を聞くと、下関もそうなるのではないかと思う。
C 市議会は「安倍総理の意向だ」ということで押し通し、議員たちはそれに従う関係だったともいわれていた。議員のなかに「大西さんのときはよかった」という声があるところを見ると、大きな権力の下で考えなくてもいいから居心地がよかったのかもしれない。
一方で同じ安倍派の江原陣営は、「安倍総理に相談もせずに、安倍総理の名前を使っていた」と批判している。前回市長選の期間中に、江原の支援者が「利権が一部の者に集中する市政はおかしい」と発言したことに対して、名誉毀損で訴えて学校給食からも締め出そうとしたエピソードが象徴的だが、「安倍先生」の威を借りて力で抑えるタイプだったようだ。そんな経緯もあるから、南野がなにを訴えても「結局、大西の恨みじゃないか」という話に収斂(しゅうれん)してしまう空気が漂っている。そういう好き嫌いの類いで揉めているのだとしたら、ほんとうにくだらないなぁ…とも思うのだが、人間、どの世界でも合う合わないは当然ある。まあ、同じ日置出身の大西と江原、地元企業のF社とY社の因縁はかなり古くからあるものらしく、今回の長門市長選に連なるもつれ方は複雑なのだと地元の関係者はぼやいていた。
今さら「決断」というが… また揺らぐ?林芳正
下関市内で目立つ林芳正のポスター
A 小さな街で「あそこは○○のいとこ」「あの人は実家が林派なのに江原の支援で火になっている」などといわれるほど濃密に入り組んだ地縁血縁のなかで、感情が激しくぶつかりあいながら市長選が展開されている。養子戦略をとった林家も長門市内にけっこう地縁血縁があるそうだが、それらが二分しているところに林芳正が片側に全面的に肩入れしたことで自民党内の対立をヒートアップさせてしまった。
先程も話になったが、「林芳正としては安倍後援会に鎖をつけ、安倍派を丸ごと飲み込みたかっただけ。そして、地元が擁立したのが南野だった」とその経緯を表現する人たちもいる。事情を聞けば聞くほど、林芳正は新3区の選挙のために乗り込んだものの、地元の事情を読み違えたのではないか? とも思える。その後、「林事務所の秘書は長門に入らないことにしている」という話も出てきた。深入りしたらヤバいという判断が動いているのだろうか。南野との二連ポスターをあれだけ貼っておいて何を今更とも思うが、亀が首だけ引っ込めるみたいなことをしている。
C 安倍晋三亡き後、「笠本と平岡(油谷町出身、安倍事務所秘書から下関選出の山口県議に)が真っ先に柳居俊学のパシリになっていた」という話も地元の自民党関係者のなかでされていた。「望ちゃん(平岡)も節操がない」と。そうして、今回の市長選で自民党県連が首を突っ込んで現職パージを動かしているなかで、林芳正としては笠本と柳居のいうことを信じていれば長門地域をまとめられると思っていたのではないか? しかし、現実の矛盾関係はそう単純ではなかったということだ。
今さら引いたところで、ここまでなると、仮に南野が敗北したときは林芳正の敗北とみなされる関係だし、腹を立てた江原陣営の安倍派のみならず、南野陣営からも中途半端に出てきて最終的に日和って逃げていった林芳正というレッテルを貼られることにもなる。どっちに転んでもドジを踏んでいる格好だ。下手すると「間が悪い男」の象徴みたくなりかねない。南野を支持すると「決断」したくせに、その「決断」が揺らいでいるようにも見える。
こうなったら腹を括って南野支援に乗り出せば「おっ、林芳正も度胸があるな」という人はいるかもしれないが、どっちも自分の支持基盤に取り込みたい願望にかられて中途半端をした場合、二兎を追う者は一兎をも得ずを地で行くことにもなりかねない。
B 長門はもともと中選挙区時代には土木・漁業が林派、農業が安倍派という棲み分けがあったそうだ。地元のドンといわれるK社(元港湾事業者)を中心にした林派にとっては「長門市は安倍に飲み込まれた。やっと林にとり戻せる」という心情もあるそうだ。安倍派の方も、安倍晋三はもういないのだから、次は林芳正にという流れにはなっているところではあったが、そんな最中の今回のバトル勃発で、この市長選が残す禍根は相当に深いものになりそうだ。
林芳正は最近貼っている新しいポスターに「決断」とか書いているが、万年参議院議員という立場に押し込められて「決断」せずに来たのに、なにが今更決断なのだろうか? と話題にしている人も少なくない。安倍晋三が山上某に射殺されたおかげで転がり込んできた新3区というだけだ。林芳正の決断によって動いた話ではない。はっきりいってしまうと、山上某の「決断」が回り回って林芳正の棚ぼたにつながっただけなのだ。まるで自分が決断したかのように、指を突き立てて「決断」とかポスターでどや顔されても、安倍派が失笑するのは当然だろう。
見苦しい浪人のバトル 市民要求とは無縁
C このなかで、一番オロオロしているのが吉田真次(安倍後継で代議士に成り上がった元下関市議)だともっぱらの話題だ。南野の事務所開きに行くかどうか迷って安倍後援会の御大にも相談したそうだ。でも自民党県連ボスの柳居俊学(県議会議長)の顔色も窺わないといけないから、結局おそるおそる参加したのか、候補者である南野とのツーショット写真は撮らずに帰ったそうだ。
まあ、南野が当選して林派市長としてポストを掴んだ場合、より林派の地盤固めになるわけで、新3区から追い出された吉田としては居場所もない。既に家亡き子状態なのだ。柳居俊学に睨まれるのも怖いが、江原陣営についている安倍派から恨まれるのも怖い。これまた度胸がないのだろうと話題になっている。
B そんなこんなでヒートアップしているが、それもあくまで自民党内のことだ。一般市民に様子を聞いてみると、「殿様が殺されていなくなり、敵討ちをする相手がいなくなった自民党内の浪人同士の闘いじゃないか」「リーダー不在で国も市も、大将がいなくなって右往左往しているあらわれだ」「自民党の過熱も前市長と現市長が長門市や市民にとってどうかという話じゃなく、気に食う、気に食わないの話にしか見えない」など、冷めて見ている人は多い。「今の時代、女性市長もありだとは思うけどバックが大西さんじゃあね…」という声も多かった。
現職・江原陣営についても、支援者が「南野さんになったら長門がめちゃくちゃになる」といっているそうで、「現職なんだから新人に胸を貸すくらいの選挙をしてほしい」と話す市民も少なくない。最初にいったように品のない噂も流れていて、自民党と関係のない市民はネガティブキャンペーンには嫌気が差している印象だ。
選挙結果はどっちに転ぶかわからないが、安倍晋三亡き後の林芳正や自民党県連の思惑、地元のいがみ合いが絡み合って展開されている。要するに自民党が内部崩壊している。一般市民からするとこの連中のいがみ合いなどどうでもよい話で、それよりも選挙を経て長門市はどうなっていくのか、産業振興の課題であったり、衰退著しい郷土をどのように運営していくのか、生活はどうなっていくのか、市政への要求は様々あるだろうに、そうした関心とは別次元で自民党同士がバトルをしている。「夫婦げんかは犬も食わない」とはいうが、まるで何もなかったかのように長門自民党は元さやに収まるのか、はたまた離婚してしまうのかは未知数だ。
どこへ転がる?前田市長 溢れ出す承認欲求
「安倍晋三元総理を偲ぶ日和山の竹あかり」の会場となった日和山公園(4日、下関市)
C ところで、大将を突然失った長門市の自民党も混迷をきわめているが、それは下関も同じだ。先日、安倍晋三の一周忌ということで「安倍晋三元総理を偲ぶ日和山の竹あかり」なるイベントがあったが、これもひどかった。黙ってジッとしていれば可視化されないのに、わざわざ集まって現状を披露したようなものだ。安倍派の崩壊を象徴的にあらわしていた。
下関の統一教会の人々が集うのではないかと話題になっていたので見に行ってみたが、どちらかというと近所の高齢者などに声をかけたのかなという雰囲気で、お年寄りばかりだった。それで、「安倍晋三を偲ぶ」と銘打ちながら、安倍晋三を偲んだのは、生前の動画が流れた午後6時すぎまで。大半は市議の星出恒夫(創世下関)の「ほっしーバンド」が安倍家の家紋の前であいみょんの「マリーゴールド」とか、オレンジレンジの「花」とか、ビートルズの「レットイットビー」とか、まったく無関係じゃなかろうかという歌を熱唱して終わった。安倍晋三がいなくなって重しがとれたのか、なんだかはじけていた。公の場とスナックのカラオケとの区別がついていないんじゃないかとも思ったが、これらがはしゃぎ回っていた。
下関市の島崎副市長が一緒にバンドチームに入っていたのも驚きだし、音響の世話を立憲民主党県議の酒本哲也がせっせと担っていたから、これまたびっくりだ。経営する豊前田のライブハウスで音響装置を扱っているとはいえ、安倍晋三を偲ぶイベントの世話を立憲民主党の県議会議員が請け負うってどうなの? とは思う。もともと前田晋太郎とはバンド仲間でもあるし、政治的節操よりも友だち感覚の方が勝るのだろう。それでいて選挙では自民党と戦う立憲民主党などといわれても拍子抜けする。茶番もいいところだ。
B 70歳にもなろうかという星出の「マリーゴールド」も大概きついが、前田晋太郎は「転がり続ける俺の生きざまを〜♪」と、尾崎豊の「シェリー」を熱唱していた。林芳正の国政報告会に行って「総理大臣を目指して頑張って下さい」といった発言が報道されたことについて、安倍派のなかから「前田も寝返った」みたいな批判があったのを気にしているのか、冒頭の挨拶で「安倍先生のことを一秒たりとも忘れたことはない」「信じてほしい」と弁明していたこともあって、「俺は誤解されてはいないかい」「俺はまだ馬鹿と呼ばれているか」「俺はまだまだ恨まれているか」「いつになれば俺は這い上がれるだろう」「どこに行けば俺はたどりつけるだろう」とか、意味深な歌詞を熱唱しているのを聞いていると、なんだか前田晋太郎の悲哀を感じてしまった。確かにこの調子では転がり続けるほかないし、転がった先に何が待っているのかは知ったことではない。
「転がる」というと、転落とか転向とか様々な言葉があるが、「転がり上がる」なんて聞いたことがない。本人が熱唱していたように「転がり続ける前田晋太郎の生き様を〜♪」を刮(かつ)目しといたら良いというのだろうか。
安倍家の家紋を背に熱唱する前田晋太郎(4日、日和山公園)
A 星出については人様の前で歌うならもっと練習して出てこいとは思うし、ちょっとあれはない。ひどすぎた。本人に遠慮して誰も指摘しないならはっきりいう。公衆の面前で披露するレベルではない。周囲もなぜあんなことをさせたのかだ。イベントに統制というか、規制が効いておらず、それ自体安倍派の面汚しではないかと思うものがあった。スナックか何かと勘違いしているのではないか。前田もなぜ安倍晋三一周忌で「シェリー」なのかは意味不明だが、集まっていたのはお年寄りだ。その日、一番盛り上がっていたのは最後の「ふるさと」の大合唱だったくらいで、これが次期市長選で市長ポストを窺っているともっぱらの香川昌則(下関市議会議長)なら間違いなく「バスストップ」を歌っていただろう。
集まっている人や世代を喜ばせる選曲よりも、「俺、格好いい!」「デビューを目指していた俺」みたいな欲求が勝ってしまい、自分に酔っているのがありありだった。この辺は安倍派の御大たちも、ちょっと教育が足りないのではないか。安倍派崩壊の過程で幹部たちはみな手を引き、これらのちびっ子世代が飛び出してはしゃいでいるとはいえ、まるで好き放題ではないか。安倍晋三一周忌と銘打ちながら「俺を見て」「ボクを見て」の承認欲求を爆発させて、一周忌とはまるで関係のない低俗なドンチャン騒ぎをしているわけだ。傍からそんな様子を見ていると、むしろ安倍晋三を冒涜していると思うのだが、どうだろうか?
「安倍晋三元総理を偲ぶ日和山の竹あかり」のパンフレットに記載された安倍晋三の経歴。追悼セレモニーとは思えないレベルの間違いが目立つ。
B 当日配られたパンフレットにもそれは如実にあらわれている。安倍後援会の伊藤元会長の会社の広告は社名を間違えて上からシールで訂正文字が貼り込んであるし、安倍晋三の経歴にいたっては、昭和29年に生まれて、昭和29年に外務大臣秘書官になって、昭和29年に第96代内閣総理大臣に就任したことになっている。安倍派としてそのようないい加減な印刷物でも構わないというなら知ったことではないが、経歴を間違えるなど親分に対して失礼も甚だしいのではないだろうか。校正校閲が利いていないし、恐らくそんな経歴などどうでも良いという人間が担当したのだろう。これまた、安倍派として威張り散らすくせに、肝心な安倍晋三をまるで冒涜しているのだ。いい加減なものだ。
仕切ったのは市議の井川典子(創世下関)らしいが、結局何がしたかったんだろうか? 外側から見ると一周年を記念して馬鹿どもが飛び出してきて、その馬鹿さ加減をお披露目しただけにしか見えない。少なくとも人が一人亡くなって一周忌という割には「厳粛」ではなかった。見る人が見れば、それは統制が利かぬ残党どもの宴みたいなものだった。
来賓も衆議院議員の吉田真次、参議院議員の江島潔は来ていたが、県議は高瀬利也だけだった。下関の安倍派だったはずの友田とか平岡の姿はなく、市議も創世下関のメンバー(関谷博を除く)がスタッフで、公明党が来ていただけ。林派についたみらい下関の市議たちは一切姿を見せず、喧噪のなかで安倍派の時代の終焉をそこはかとなく印象づけていた。安倍事務所の筆頭秘書だった配川の人相がまるで力ないものに変貌していたのも人を驚かせた。
そこで「俺は負け犬なんかじゃないから♪」「俺はまだ馬鹿と呼ばれているか♪」「転がり続ける俺の生き様を〜♪」とか熱唱してしまうと、ほんとうにシュールになってしまう。まず馬鹿と呼ばれるようなことを自分がやっているし、前田晋太郎はどこに転がっていくつもりだろうか? と真顔で思ってしまうのだ。下手すると次の市長選で林派は仕掛けるだろうし、バンドで大騒ぎしたあの連中と選挙が戦えるというなら、やってみればよいのだ。第三者としては、あの日和山でのイベントで安倍派瓦解を肌で感じた感がある。
A このようにお膝元で安倍派なり自民党の崩壊が進んでいる。長門にしろ下関にしろ、人口減少もすさまじいものがあるし、産業の衰退も深刻だ。いったんこの権力構造が崩壊した方が、むしろ地域の活性化にとってはいいのではないだろうかとも思う。紆余曲折を経ながらも自民党支配の基盤が溶け出しているし、その変化をとらえていくことは大切だ。郷土がより良い方向に政治的にも変化していくことが求められるからだ。
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