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※紙面抜粋
※2023年11月1日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
「岸田おろし」の萌芽も見える自業自得政権(岸田首相=左)/(C)日刊ゲンダイ
岸田首相は大した危機感を抱いていないようだが、政権に暗雲が立ち込めている。のみ込まれるのは時間の問題だ。
政権の命運を暗示するように、31日の参院予算委員会はグチャグチャだった。東京都江東区の木村弥生区長の陣営が4月の選挙期間中、有料のネット広告をユーチューブに掲載した公選法違反事件をめぐり、関与が報じられた自民党衆院議員の柿沢未途法務副大臣がいきなり辞任。与野党は朝の理事会では柿沢出席でいったん合意したのに、開会中に柿沢が辞表を提出してドタキャンした。
「柿沢隠し」に激怒した野党の抗議で、審議は約2時間も中断。再開後、岸田は「辞職願を正式に受理する前に、国会の要請に応じず柿沢副大臣が出席しなかったことを申し訳なく思う」と頭を下げ、小泉法相は「出席させない判断は事務方が独断で行った。いわば越権行為で、厳しく指導する」と釈明したが、額面通りに受け取れない。柿沢は木村陣営にネット広告利用を勧めたと認めている。予算委に出れば火ダルマになり、岸田に延焼するのは必至。それを回避するため、逃がした疑いが濃厚なのだ。
違法行為を指南するような人間を法務行政に深く関わらせていたことで、岸田の「適材適所」の異常性が際立ってきたが、副大臣を辞めて片がつく問題ではない。議員辞職が筋だ。先週はパパ活疑惑で自民の山田太郎参院議員が文科政務官を更迭された。
政権浮揚を期待した9月の内閣改造・自民党役員人事以降、政務三役の不祥事辞任はこれで2人目。統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との癒着や、「政治とカネ」で大臣が立て続けにクビになった昨年の辞任ドミノを彷彿とさせる展開だ。内閣支持率はつるべ落としとなり、3割前後をうろうろ。昨年と違うのは、大手メディア調査の複数ですでに政権維持の「危険水域」とされる2割台に沈んでおり、軒並み過去最低を記録していることだ。
大義ない減税の先の大増税を警戒
それもそのはずで、岸田に対する国民の視線はどんどん冷たくなっている。浸透した「増税メガネ」を打ち消さんがため、あからさまな世論対策で「税収増を国民に還元する」と打ち出した所得税などの定額減税と現金給付措置は、わけがわからな過ぎて大不評。全国の消費者物価指数は25カ月連続で上昇し、実質賃金は17カ月連続でマイナスだ。足元のインフレ対策ならスピード勝負なのに、減税実施は来年6月。事務手続きが比較的容易で、年内に配れる一斉給付を求める声は多い。
しかし、岸田が30日の党役員会で言ったことは、「国民全般に現金を一律給付する手法は、新型コロナウイルスと自然災害級の国難とも言えるような事態に限るべきだ」。非課税世帯は人数に関係なく給付は7万円。一方、1人4万円の減税では多子家庭ほど恩恵がある。これでは所得再配分ではなく、単なるバラマキだ。
当然、31日の予算委でも野党は岸田に詰め寄った。1回の給付と減税で家計が助かると考えるのか、減税は1回で終わらない可能性はあるのか、国民の評価は悪いじゃないか──。
答弁に立った岸田は「来年に向けて、可処分所得をしっかりと増やし、物価高に負けない支えを用意することが重要」「1回で終われるように経済を盛り上げていきたい」「どう評価するかは国民の判断だ。大変重要な時期であり、経済対策を用意する必要がある」などと、万事あの鈍い調子でのらりくらり。ワイワイ騒いでいるうちに気分が乗ってくる地域の祭りじゃあるまいし、政府の旗振りひとつで景気が上向けば世話はない。
国民は大義のない減税の先に待ち受ける大増税を警戒している。岸田が強行した安保政策の大転換によって、防衛費は倍増。2027年までの5年間で約43兆円に膨張し、財源に所得税、法人税、たばこ税の増税分などを充てることになっている。来年度からの増税が浮上していたが、岸田は先週の衆院予算委で「24年度から実施する環境にはなく、定額減税と同時に実施することにはならない」「27年度に向けて複数年かけて段階的に実施するという枠組みのもとで、景気や賃上げの動向などを踏まえて判断する」と先送りを明言。
「増税メガネ」が「増税クソメガネ」に進化し、「偽装減税」と罵られているとはいえ、このいい加減さ、朝令暮改には国民の方がビックリだ。案の定、付け焼き刃の減税のいかがわしさを国民に看破され、少子化対策の財源もひた隠し。「サラリーマン増税」と非難された退職金への課税制度の見直しについても25年度以降に見送るという。
インフレなのかデフレなのか、ハッキリさせろ
減税と給付を目玉に据える経済対策は2日の閣議決定後、岸田が会見で説明する予定だ。規模は17兆円程度と見込まれている。経済評論家の斎藤満氏はこう指摘する。
「岸田首相は経済対策の目的について〈物価高に対応する〉と言いながら、〈デフレ脱却が必要〉とも言う。インフレを抑え込みたいのか、デフレを退治したいのか。足元の経済状況をどう認識しているのか、まずはハッキリさせろと言いたい。
曖昧にしているのは、人気取りのバラマキが真の目的だからでしょう。減税を言い出したのは、衆参ダブル補選の告示目前で選挙対策なのはアリアリ。来年実施の減税にこだわっているのは、解散・総選挙を見据え、バラマキ効果をできる限り引っ張りたいのがミエミエです。5兆円もの財源を一体どこから捻出するつもりなのか。増税で穴埋めするならそれこそ偽装減税ですし、国債発行は次世代へ借金をつけ回すことになる。
にもかかわらず、無責任な大盤振る舞いがまかり通るのは、米国のように政策と財源をセットで議論しないから。議会と国民が審議を共有すれば、財政に見合った政策に着地するものです。中曽根政権や橋本政権も減税しましたが、同時に財政再建についても議論がなされた。岸田減税はかつてない酷さです」
そもそも、最も効果的で低コストの物価対策は、円安要因のアベノミクス脱却だ。日銀は31日の金融政策決定会合で異次元緩和を再修正。長期金利を低く抑え込むYCC(イールドカーブ・コントロール)の事実上の上限としてきた年1.0%を「めど」に柔軟化、1%超えを一定程度容認する。
「マーケットは日銀の再修正を織り込み、31日午前の外為市場の円相場は1ドル=149円台前半まで円高が進みましたが、植田総裁の会見を経て再び円が売られた。一時は約1年ぶりの151円台に下落。体面を気にした植田総裁のプレゼンが下手すぎました。現状追認とはいえ、金融政策の弾力化に向けてさらに踏み込んだのに、マーケットは大筋で大規模緩和に変更なしと受け取った」(斎藤満氏=前出)
自滅の道を進む首相にニンマリ
党最大派閥の安倍派の顔色をうかがう岸田が脱アベノミクスに動く気配はゼロ。それで矛盾だらけの経済対策を打つのだから、政権浮揚するわけがない。税で迷走する政権は必ず破綻する。アイドル的人気だった橋本元首相ですら、金融不安の中で迎えた参院選で特別減税をめぐる発言がふらつき、大敗して退陣に追い込まれた。ましてや岸田だ。偽装減税で総辞職が現実味を帯びてきた。
政治評論家の野上忠興氏はこう言った。
「財務官僚の〈総理のためになります〉なんていうささやきを真に受け、振り付け通りに動いた結果がこの顛末なのでしょう。少し考えれば、増税と減税が同時並行するデタラメに世論が反発するのは想像できそうなもの。起死回生の材料は見当たりませんし、年内解散は無理筋。来年の党総裁選での無風再選を狙ってライバルを閣内などに封じ込め、敵なしと踏んでいるのでしょうが、イザとなれば総裁候補が出てくるのが自民党。岸田政権のジリ貧は避けられそうになく、再選戦略は破綻したと言っていい」
いまだ国民人気が高い石破元幹事長は「所得税、法人税、消費税が増えたのは成長の果実でも何でもない。物価が上がっただけの話だから、それを還元しますと言っても私は正しいと思いません」と岸田を真っ向批判。安倍派の世耕参院幹事長の代表質問も辛辣だった。
「1年で政権を奪われた菅前首相、気脈を通じる二階元幹事長はいずれ動く。ただ、今は時機ではない。岸田首相はすでに自滅の道を進んでいる。黙っていても、いずれつまずくと見ているのです。党内からは〈解散よりも総辞職が先だ〉という声が上がり始めています」(自民中堅議員)
党内で「岸田おろし」の萌芽が見えてきた自業自得政権の行く末は真っ暗だ。
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