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※2023年10月23日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年10月23日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
参院徳島・高知補選は野党系が圧勝(当選を決めた広田一氏=右)、岸田自民は屈辱的な負け方(岸田首相)/(C)JMPA
見え透いた選挙対策は案の定、裏目に出た。自民VS野党の一騎打ちとなった「衆参ダブル補欠選挙」が22日、投開票。フタを開ければ自民の1勝1敗に終わり、国民が岸田政権に抱く不信、不満、不安が表れる結果となった。
補欠選挙が実施された参院徳島・高知と衆院長崎4区はもともと、2つとも自民が持っていた議席だ。それだけに当初は、自民の楽勝ムードで「2勝は確実」とも予測されていた。ところが、参院徳島・高知は、投票箱が閉まった夜8時と同時に野党候補の当選確実を許す大惨敗。いわゆる「ゼロ打ち」に沈み、岸田自民にとって屈辱的な負け方となった。
参院徳島・高知は、前職の自民議員が元秘書への暴行で辞職。不祥事で補選となった経緯もあり、実に無党派層の9割以上が野党候補に流れた。長崎4区の苦戦も岸田自民には大誤算だ。保守の地盤が強いだけでなく、前職議員の弔い合戦であり、しかも世襲である自民候補は親から盤石な地盤を引き継いだ。通常なら圧勝して当然のはずが、野党候補にあと一歩のところまで追い込まれたのだ。
2勝確実が一変。自民の1勝1敗で岸田首相が痛手を負った背景に、有権者愚弄があったのは間違いない。投開票日の2日前に突然、与党幹部に期限付きの所得税減税と低所得者向けの給付金をセットで検討するよう指示したことである。
それまでも岸田は人気取りに躍起だった。内閣改造で女性閣僚を5人も登用し、ガソリン補助金も延長。その上、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の解散命令請求という「荒業」まで仕掛けたのに、一向に支持率は伸びない。逆に報道各社の最新世論調査では軒並み、過去最低を記録するありさまだ。
SNSで拡散する「増税メガネ」なるあだ名も相当、気になるようで、不人気の岸田が補選の投開票日直前に「窮余の一策」に選んだのは、増税イメージ払拭の「減税主導アピール」だった。
タネがバレているのにイキった手品師同然
岸田官邸が動いたのは、17日だ。
経済対策の取りまとめを表明した9月の会見で、岸田が「成長の成果である税収増を国民に還元する」と打ち出してから1カ月近く。与党幹部から所得税減税を求める意見が続出していたが、この日、自公両党がそれぞれ岸田に提出した経済対策の提言には「所得減税」の明記は見送られた。官邸側が「盛り込まないように」と待ったをかけたという。
与党からの提案を受け入れるのではなく、岸田は自ら与党幹部に「減税」を指示するポーズを演出するのに強くこだわったのである。不人気首相の見え透いた田舎芝居で、選挙目当ての減税主導はミエミエ。ロコツな人気取りにもほどがある。政治評論家の本澤二郎氏が言う。
「税収増の『還元』をうたったところで、補選直前に減税を打ち出し、票を買おうとした卑しさを有権者はとうにお見通しです。とっくにタネがバレている手品師が『まだ騙せる』とイキってマジックを披露しているようなもので、有権者をシラけさせるだけです。岸田首相はなぜ自分が国民に嫌われているのか、理解できていないのでしょう。国民生活のことを全く考えていないクセに、見え透いた人気取りに走る。ひたすら総理の座にしがみついていたいだけの薄気味悪さに、国民はもう辟易しているのです。大衆はちゃんと見ています。愚にして賢なのです」
岸田の周辺には、有権者の気持ちを理解できる側近がいないのだろう。自宅と愛人宅での二重生活を送る木原誠二・幹事長代理兼政調会長特別補佐が厚遇され、「首相の知恵袋」と呼ばれている時点で、国民の意識と大きく乖離していることは歴然である。
後に必ず増税が待つ減税詐欺をお見通し
そもそも、岸田の「税収増を還元する」は、ハッキリ言ってインチキ。詐欺みたいな話だ。
2022年度の税収は71.1兆円に上り、決算剰余金は2.6兆円に達した。しかし、余った税金の使途はすでに固まっている。剰余金の半分は財政法に基づいて国債償還に充て、残る半分は、今後5年間で43兆円に増やす防衛費増額の財源に充当する方針である。
いくら岸田が力んでみせても、所得税減税の財源に回す余裕はないのが現実だ。「還元」の財源を赤字国債の発行などで捻出すれば、目先の人気取りのツケを将来世代に回すことになる。
また、岸田は所得税減税の狙いについて「急激な物価高から国民生活を守る」と強弁するが、減税には法改正が伴う。実現までには与党の税制調査会で年末に方針を決め、年明けの通常国会を経る必要がある。実施は早くても来年夏とみられ、足元の物価高対策にはならない。税収増の「還元」は生活苦の国民をバカにした「甘言」に過ぎない。
減税する期間も「1年が常識的」(自民の宮沢税調会長)で、恩恵を受けられるのはホンの短い間だ。所得税減税の検討を踏まえ、「これから減税策を考えるのに、国民に全く分かりづらい話」(自民の萩生田政調会長)として来年度の防衛増税を見送る方針だが、裏を返せば「減税の後には必ず増税が待っている」ということだ。
「防衛費増額の財源の一部として、法人、所得、たばこの3税の増税は先送り。岸田首相肝いりの『次元の異なる少子化対策』も、24年度からの3年間で年3兆円台半ばの追加予算確保が迫られているのに、安定財源は曖昧なままです。いくら人気欲しさに、ごまかし続けても近い将来、増税がのしかかってくることを国民は察しています。目先の減税よりも、きっと将来の増税分の方が規模が大きくなるに違いないだろう、とまさに岸田首相の『減税詐欺』を見破っているのです」(本澤二郎氏=前出)
絶対王政の頃と変わらない税制の私物化
それにしても、ただ票が欲しいゆえに国の税制を弄ぶなんて、岸田はメチャクチャだ。それも消費税、法人税と並んで「基幹税」とされる所得税を、補選に勝って政権基盤を盤石にしたいという手前勝手な理由で、いじくり回すとは、かなり異常な発想である。
20日に召集された臨時国会は、今週から与野党の本格論戦が始まる。防衛財源確保の「増税」と所得税「減税」を同時に議論することになりそうだが、はたして岸田に整合性を持った答弁は可能なのか。
岸田は「増税メガネ」のあだ名を気にする余り、完全に自分を見失っているとしか思えない。唐突に所得税減税を指示したのも「増税クソメガネ」の悪名払拭が狙いで、自身のプライド回復のためであり、補選勝利を目指した人気取りでしかない。要はヨコシマな下心がにじむ税制の私物化にほかならない。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言った。
「自分勝手な理由で税制をねじ曲げようとするのは、議会の同意ナシに、王様が好き放題、徴税が可能だった『絶対王政』の頃の発想と変わりません。しかも、岸田首相は与党からの提案をわざわざ断って、減税主導をアピールしており、『税の議論は国会で』という民主主義の手続きを踏みにじっています。恐らく岸田首相は民主主義のルールを理解していないのでしょう。ひたすら首相であり続けたいという理由だけで減税を打ち出すのは、あまりにも姑息です。財政民主主義の原則を根幹から打ち破る暴挙と言っていい。首相を続けさせるには、あまりにも危険な人物です」
いずれ岸田は「増税」と「減税」を同時に議論するむちゃに苦しみ、立ち往生するのは目に見えている。衆参補選の自民苦戦の結果からも「減税詐欺メガネ」に天罰が下るのは、時間の問題である。
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