<■119行くらい→右の▽クリックで次のコメントにジャンプ可> 望月衣塑子記者が振り返るジャニーズ会見 記者席から見た現場の状況は、「NGリスト」に名前はあったのか…(東京新聞) 2023年10月5日 21時36分https://www.tokyo-np.co.jp/article/281981 https://www.tokyo-np.co.jp/article/281981/2 https://www.tokyo-np.co.jp/article/281981/3 故ジャニー喜多川氏による性加害問題を巡り、ジャニーズ事務所が開いた記者会見で、特定の記者らを質問の指名から外す「NGリスト」が作成されていたことが明らかになった。会見に出席した東京新聞社会部の望月衣塑子記者が、現場の様子を回想しながら、背景を分析する。 ◇ ◆「1社1問」「2時間限定」…漂う異様さ 10月2日の会見は、いま振り返っても異様なものだった。「1社1問に限る」「会見時間は午後2時から4時までの2時間だけ」「関連質問はさせない」などの制限が多く、9月7日にジャニーズ事務所が開いた前回の会見とは全く異なっていた。しかも司会の元NHKアナウンサーの松本和也氏が質問者を選別していることは、その場ではっきり分かった。ジャーナリストの鈴木エイト氏やYouTube番組「Arc Times」の尾形聡彦編集長、そして私など、特定の記者は指名されない。たとえ目が合っても、だ。 会見では、冒頭の30分ほどが、東山紀之社長や関連会社社長の井ノ原快彦氏らによる、ジャニーズ事務所の社名変更や、芸能事務所機能を移す新会社の説明、藤島ジュリー景子前社長のメッセージの代読などに費やされた。残り1時間半というところで質疑が始まると、私が座っていた最前列では、私を含め10人ほどが挙手。同僚によれば、後列に座っていた多くの記者も手を挙げていたという。 ◆最前列で手を上げ続けたが「無視」 私は質問させてもらいたいと思い、記者会見の開始2時間半前から会場前で待ち、記者では2番目に会場入りして最前列を確保していた。司会の松本氏は、まず私の左隣の東洋経済新報社の記者を指名、次に芸能リポーター、フリーランスの柴田優呼さんと続いた。 柴田さんは「被害の全体調査をしないのか」と尋ねた。事務所の外部有識者による再発防止特別チームは、2カ月で23人の被害者にしか調査していない。だがこの日の説明では9月以降、325人が補償を求め、そのうち150人がジャニーズ事務所に在籍していたと確認できたという。それならば、調査対象を広げるべきだと私は思った。 そこで「関連で!」と声を上げた。この点を深堀りする質問をアピールしたつもりだった。だが無視された。その後、TBS、フリージャーナリストと続く。被害者補償の質問と回答が出たので「関連で!」と再度、声を上げたが、松本氏に無視された。 ◆指されずに声を上げると、東山紀之氏は… 仕方なく「元裁判官しか(補償チームに)入っていないことも問題視されている。見直さないのか」と大声を上げた。すると東山氏らが「僕らも考えた。でもまずは心のケア。傷ついたものをしっかり癒やしていく、その上で補償を考えたい」と答えた。この時は、9月の会見と同様、関連質問には司会者の指名なしでも答えるのだと受け止めた。ならば、テーマごとに深掘りできると思った。 しかし違った。最前列中央で手を挙げ続ける「Arc Times」の尾形氏を、松本氏は指名しない。尾形氏が抗議すると、松本氏は「関連質問は1問とカウント」とすると言い、尾形氏に質問を許さなかった。その前に関連質問として声を上げたことが原因らしい。井ノ原氏も「先ほど、ご質問(関連質問)されたのを聞いちゃったんですよ」と松本氏に追従した。 ◆「これは茶番だ!」周囲の記者の反応は 関連質問とは本来、本人がまず聞きたい質問とは違う。その後も無視され続けた、尾形氏が「これは茶番だ」と批判すると、松本氏は「茶番ではない」と否定。こうしたやりとりが何度か起きるうち記者席から「ルールを守れ」「司会はきちんと仕切れ」などの怒号が飛び、幾度か騒然とした雰囲気になった。その中で私は「関連質問をきちんとさせてください」と声を張り上げ続けた。 すると井ノ原氏は「全国の子どもたちが見ている。僕にも子どもがいる。皆さん落ち着いて」と私や尾形氏を諭すような口ぶりで言った。質問をまともに受けないことがおかしいと思うのだが、質問の仕方が悪いと言わんばかりだった。相手の態度などを否定して論点をずらす「トーンポリシング」ではないか。 この井ノ原氏の発言の後、最前列に座る芸能リポーター陣から拍手が湧きおこった。これまで数々の会見に出てきたが、責任を問われるべき側が会見で「1社1問」「2時間のみ」などと制限をかけている中で、記者側が会見者側に拍手を送るのを初めてみた。一体なんのために会見に来ているのかと疑問を感じた。 司会者が立つ位置に近かったためか、松本氏とは何度も目が合った。だが松本氏が私を指すことは結局なかった。しかも松本氏は「だんだん顔が覚えられなくなってきた」と言いながら、後ろの方の記者を指したこともあった。 ◆私の名前は「リスト」にあったのか?ジャニーズに聞いた その言葉の意味が分かったのは、会見を仕切ったPR会社が記者たちの顔写真入りの「NGリスト」を作成し、会場に持ち込んだと知ってからだ。フライデーのネット配信によると、そのリストには鈴木エイト氏や私の名前と顔写真が載せられていた。事務所やPR会社に質問したところ、5日午後9時現在、回答がない。 ジャニーズ事務所の説明によると、PR会社が会見2日前にNGリストを持ってきた際、井ノ原氏は「絶対に当てないとダメ」と忠告したとされる。だが井ノ原氏は、実際の会見では「全国の子どもたちが見ている」などと言って、質問を遮った。本当に「当てないとダメ」と思っていたのだろうか。結果的にPR会社の「NGリスト」と歩調を合わせる形になっていたのではないか。そして会見は、当初の宣言通り2時間で終わった。 今回、発覚した「NGリスト」問題は、9月にジャニーズ事務所社長に就任した東山氏の進退が問われる問題だ。事務所が5日にウェブサイトで公開した説明で「誰か特定の人を当てないで欲しいなどと言うような失礼なお願いは、決してしておりません」などと記しているが、この問題の責任をPR会社に求めるだけではなく、改めて記者会見を開き、一連の経緯を詳細に説明するべきだ。 こうした不祥事の説明すら及び腰なら、少なくとも数百人はいる性被害者への補償がきちんと行われるのか、という疑念も湧く。芸能界に君臨してきた事務所が、力ない被害者一人ひとりに向き合えるのか。「法を超えた補償」という言葉は聞こえはいいが、会見では補償の具体的なスケジュールすらはっきりしなかった。 ◆ジャニーズ事務所がこれからやるべきことは 喜多川氏の性加害が長年続いた背景には、私を含めた「メディアの沈黙」があったと反省している。実態解明と被害者救済のため、今からでも取材を尽くすのがせめてもの罪滅ぼしだと思う。だが、井ノ原氏のトーンポリシングに拍手で同意するようでは、メディアが反省していないように映る。 一方、9月の会見に続き、今回もジャニーズ事務所の白波瀬傑・前副社長はいなかった。ジャニー喜多川氏との付き合いが長い上、在職時は報道対応を引き受け、事務所の番頭とも目された人物で、9月の会見で何人もの記者が出席を求めていたのに。そして9月の会見には姿を見せた藤島氏もいなかった。会見直後、ハワイの別荘に行き、長女とショッピングしていたことなどが週刊誌に書かれており、批判が集中するのを避けたのではと感じた。藤島氏が翌10月3日には「ジャニーズ性加害問題当事者の会」との2時間弱に及ぶ対談に出席しているだけに、なおさらそう思う。 こうした状況を踏まえた上で、もう一度指摘したい。ジャニーズ事務所には、藤島氏と、現在も嘱託職員として残る白波瀬氏を同席させた上で、喜多川氏の性加害と事務所の関わりに加え、今回のNGリストについて質問を受ける記者会見を開いてほしい。(望月衣塑子) 【関連記事】「後半で当てる」が消えた…記者指名「NGリスト」 ジャニーズが説明を一部修正、「容認」批判を意識? 【関連記事】私たちは反省します 東京新聞はジャニー喜多川氏の性加害問題に向き合えていませんでした 【関連記事】ジャニーズ「廃業します」 東山紀之社長が驚いた補償希望の人数、語った今後【詳報】
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