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泥船化する大阪万博・カジノ構想 海外からもそっぽ向かれ 国に泣きつく大阪維新 膨らむのは公的負担のみ
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/27615
2023年9月20日 長周新聞
「これだけはっきり言っておきます。IR、カジノには一切税金使いません」(2016年12月22日、都構想説明会にて当時の松井一郎大阪府知事)――そう断言して「大阪維新」が進めてきた大阪IR関連事業の公費負担が、ここに来て青天井の膨張を続けている。大阪府市が誘致を目指すカジノを含む統合型リゾート(IR)は、開催日が1年半後(2025年4月)に迫る関西万博の会場・大阪市此花区夢洲の人工島を舞台に進められている。本来「民設民営」であるIRを万博開催と一体化させることで公金を投入する大義名分を得られるからだ。しかし、その万博も工事が間に合わず、大阪府市が国に泣きつくなど、時代錯誤の“ハコモノの祭典”は泥船化している。
時代錯誤のハコモノ至上主義
整備がおくれる万博開催の「機運醸成」を呼びかける吉村大阪府知事と横山大阪市長
コロナ禍で世界情勢が激変したこともあり、万博とIRの構想は当初から大きく崩れている。これらの誘致を唯一の成長戦略に位置づけてきた大阪維新は、コロナ禍前につかんだ利権を手放してなるものかといわんばかりに、抜本的に再考することもなくコロナ前の計画をゴリ押しし、そのしわ寄せが公的負担増大という負のスパイラルとなって地方財政にのしかかっている。
万博については、海外の参加国が乗り気ではなく、“万博の華”といわれるパビリオン(展示館)の建設が一向に進まず、このままでは歯抜け状態で開催日を迎えることが現実味を帯びている。海外パビリオンがなければ万国博覧会ではなく、単なる大阪博覧会になりかねない。
そもそも万博とは、かつての先進国が自国の技術力を内外に見せつけるために始めた国際博覧会で、戦前には列強各国が国力誇示と植民地気運(後進国を近代化させたことを示して植民地化を正当化する)を高めるために東南アジアなどの植民地で競って開催した。
高度成長期には国家の威信を賭けておこなっていた万博だが、インターネットの普及でボーダーレス化が進み、ハードよりもソフト、エコが重視されるようになった現在は、巨大なハコモノを作って人や資金を呼び込むという万博の開催形態そのものが時代遅れになって関心は低下した。今回の万博の開催をめぐって、日本と招致レースを争った相手がロシア(エカテリンブルク)とアゼルバイジャン(バグー)であったことを考えても、その立ち位置がわかる。
しかも、世界が認めるような先端技術や革新的な構想が打ち出されるならまだしも、いまや日本の産業は空洞化し、技術力においても発想力においても立ち遅れが甚だしい。第2次ベビーブームだった大阪万博の時代(1970年)と比べても、いまや出生率は世界最低レベルにまで落ち込み、世界で唯一、30年続くデフレ不況で若者が結婚して子どもを産み育てることすら難しい国になってしまった。それを糊塗するかのように開かれる万博に何かを期待する声は少なく、民間シンクタンクの世論調査でも「行きたい」と答えた人は3割程度にとどまっている。
また、世界の反対を押し切って原発汚染水を海洋投棄するなど、大迷惑をかけながらも開き直っている国で開催される万博(ちなみにテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」)に世界の注目が集まるはずもない。
万博 海外パビリオン建設申請なし
大阪・関西万博会場のイメージ図
現在、大阪・関西万博に参加する約150カ国・地域のうち、56カ国・地域がパビリオン(自前で設計して建てるAタイプ)の建設を希望しているが、建設工事に必要な「基本計画書」を大阪市に提出したのは、韓国、ブラジル、チェコ、モナコ、ルクセンブルグなどの6カ国のみ(7日現在)。開催を1年半後に控えながら、ゼネコンとの工事契約締結後に大阪市から得る「仮設建築物許可」の本申請に至ったものは1件もないという惨憺たる状態となっている。
パビリオンは、各国が技術や文化を紹介する展示施設で、万博協会の資料によれば、当初計画では建設許可の申請から建設完了までの期間は4カ月、建物本体の工事は来年7月までに終える想定となっている。このままでは開催までに間に合わない。
パビリオンには、参加国が万博協会から敷地の提供を受け、建物の形状やデザインを自由に構成する「タイプA」、参加国が万博協会が建てた建物を借りて使う「タイプB」、同じく万博協会が建てたものに複数の国が共同で間借りする「タイプC」の3つに分かれているが、もっとも時間がかかる「タイプA」を希望する56カ国のうち、建設申請に進んだ国は一つもないという状態だ。
要因には、セメント、生コン、鋼材などの建設資材価格の高騰や深刻な人手不足、さらに工期が極端に短いなどの問題に加え、言葉の通じない海外との取引となるため受注に二の足を踏む業者が多いことがあげられている。
日本建設業連合会(日建連)によると、2023年7月の鋼材や生コンなどの建設資材の価格は、2021年1月と比べて約3割も上昇。建設業の現場で働く人の賃金(公共工事設計労務単価)は2020年度に比べて足元では9%以上も上がっている。しかも来年4月からは、国の労基法改定で残業時間を制限する「2024年問題」が始まり、建設業界では人員確保がさらに難しくなることが予想されている。
ホスト国の日本が建てるメイン施設(テーマ館)の建設費も、国・大阪府市・財界で3分の1ずつ負担することになっているが、すでに当初予算の1250億円から1850億円に大幅に上振れしている。昨年から始まった入札では予定価格超過や参加者ゼロなどの理由で入札不成立が続き、先月、予定価格を引き上げてようやくゼネコンが引き受けた有様だ。そのためさらなる公的負担の増加は避けられない。
海外パビリオンについては、開催までに竣工が間に合わないため、大阪府市や財界でつくる万博協会は、各国にかわってプレハブ施設(タイプX)を作る代行発注を提案。だが、申請締め切りの8月末時点で関心を示したのは5カ国のみだった。
さらに万博協会は8月下旬、2024年4月から始まる建設業界への時間外労働の上限規制(年360時間をこえる時間外労働の禁止)を、関西万博関連の工事に限って適用しないよう政府に要請。労基法を無視した過密労働を承認せよというものであり、建設業界では「万博工事だけは“無限に働け”などと、とても社内にも社外向けにも説明できない」「“いのち輝く未来社会”をテーマにしながら、現場で働く人間のことを何も考えていない。ブラックジョークではないか」と波紋を広げている。
ついに、さじを投げた維新は、「(万博は)国のイベントなので、大阪の責任ではなく、国を挙げてやることだ」(8月30日、日本維新の会・馬場伸幸代表)と責任の丸投げをはじめ、岸田首相も恩を売るように「万博成功に向けて政府の先頭に立ってとりくむ」と明言。国はパビリオン建設を促すため、国内建設業者を対象に「万博貿易保険」の創設を決めた。発注元の参加国から工事代が支払われないさいに保険で穴埋めするための措置だが、それほど各国の万博開催への関心が低いことを物語っている。
万博協会は、大阪・関西万博の経済波及効果を2兆円と見積もっているが、マスコミ各社の世論調査でも、関心が「ある」は2〜3割、「ない」が6〜7割となっており、地元でさえいっこうに盛り上がっていない。
それでも採算をとるため、万博協会は6月、当初6000円と想定していた入場券の基本料金(大人)を7500円に値上げした。東京ディズニーリゾート(TDL)やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)など人気テーマパークとほぼ同程度であり、万博の入場料としては最高水準となる。
この入場料は、万博開催期日の2025年4月〜10月までに2820万人が来場するという予想に基づき算出している。昨年のTDLの年間入場者数は1200万人、USJは1235万人で、それらの2倍以上集客するというものだ。
わざわざ7500円払って開発途上の「空飛ぶクルマ」(大型ドローン)を誰が見に行くだろうか? と揶揄されているため、万博協会は東京五輪と同じく小中高生を「学習」と位置づけて学校ごと動員することも模索している始末だ。東京五輪も開催経費が最終的に3倍以上(1兆7000億円)に膨らみ、電通やパソナ、メディアなどの関連企業が“濡れ手で粟”の暴利を貪ったあげく、国や東京都の公的負担は1兆円をこえた。
カジノ・IR 膨大な税金で支える博打
そもそも万博開催は、インフラ開発に公費を注ぎ込むための隠れ蓑に過ぎず、本来の目的は万博開催後の夢洲に建設するカジノを含む統合型リゾートにある。
大阪府市は現在、誘致するIRの事業者を米国に本社を置くカジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの合弁会社(大阪IR株式会社)に決定し、国は国内候補地で唯一、整備計画を承認した。
大阪府(吉村洋文知事)と大阪市(横山英幸市長)は5日、IR開業への工程などを定めた実施協定案を承認したが、初期投資額は当初比約2割増の約1兆2700億円にのぼり、開業時期は当初想定の「2029年秋〜冬ごろ」から、「2030年秋ごろ」にずれ込むことになった。
IRは本来「民設民営」の事業であり、他のホテルなどと同じく事業者側が施設やインフラを整えるのが常識だ。誘致を進めてきた大阪維新も、「IRは民設民営事業ですから、この1兆円規模の投資というのも民間が出すお金になる。公でお金を出すものではない」(吉村大阪府知事)、「民間が投資する話なので、みなさんの税金はIR・カジノには一切使いません」(松井元大阪市長)と明言してきた。
だが、大阪市は早くも2021年12月、「液状化リスクのある土地での大規模開発は極めて困難」とする事業者の求めに応じ、液状化対策費に約410億円、汚染土の処分費に約360億円、地中残置物の撤去費に約20億円の合計788億円を上限に全額の公費負担を表明。市議会も、維新や公明党などの賛成多数でそれを認めた。大阪市は、これまで大阪湾の埋め立て用地の売却や賃貸に関して液状化対策費を負担した例はなく、たとえ問題が生じても責任を負わないことを原則としてきたが、カジノ・IRに限って原則を覆した大盤振る舞いとなる。
基本協定書では、IR事業者が、@地中障害物の撤去、A土壌汚染対策、B液状化対策を実施する、としながら、これらの費用負担については大阪市が(債務負担行為の議決を条件として)負担することを明記しており、もし大阪市が事業者側が望むような措置をとらなければ、事業者は違約金ゼロで撤退できる「解除権」も与えている。今回の実施協定案では、この解除権を3年間延長し、契約的に不安定な状況がさらに続くことにもなった。
大阪湾に浮かぶ夢洲は、産業廃棄物や海底の浚渫(しゅんせつ)土で埋め立てられた人工島であり、地震発生時には液状化のリスクが高いうえに、発がん性物質のダイオキシン、中毒性のあるヒ素などの有害物質が基準値をこえて検出されている。
さらに埋め立てた土砂の重さで約50年後に2bの地盤沈下が予測される「軟弱地盤」でもある。同じ大阪湾の軟弱地盤につくられた関西国際空港は、数千本の杭打ちをして造成しても13〜16bも沈下している。もともと産廃最終処分場であった夢洲は杭打ちすらされていない。
事業者との賃貸契約にあたる「契約書案」では、今後予測を上回る地盤沈下が発生した場合や、IR開業後にホテルや展示場の施設を増築した場合の対策費についても大阪市が負担すると明記。増築の場合、大阪市の負担は最大約257億円とも想定している。市の追加負担の額は見通せず、公費負担がさらに膨らむ可能性をはらんでいる。
税金を投入した大盤振舞で商業用インフラ整備が保証されるIRカジノ業者や、大規模開発工事を請け負うゼネコンにとってこれほど好条件な事業はない。
さらに関連費をみると、夢洲へのアクセスとして使う高速道路の整備では、液状化対策で工法の見直しが迫られたことで工費が二度増額され、当初1162億円だった整備費は2957億円へと2・5倍以上に膨らんでいる。国が55%を負担し、残り45%の1330億円を大阪市が負担する。
夢洲に繋ぐ大阪メトロ(地下鉄)中央線延伸部の整備費では、軟弱地盤対策や地中障害物の撤去などに96億円の追加費用が必要となり、整備費は250億円から1・4倍の346億円に膨らんだ。これも大阪市が4分の3に当る260億円を負担する。
「一銭も税金は使わない」どころか、万博関連費も含めた事業費全体として、4000億円が追加負担として加わり、総額は7500億円にも膨らんでいる。そのうち大阪市の負担は3000億円程度になるとみられている。
大阪市来年度収支は赤字へ
それでも、推進役を担ってきた松井・大阪市長(当時)は「カジノをやめて福祉に回せというが、カジノをうまく利用してもうけて、それを福祉に回すのだ!」と豪語してきた。大阪府市による整備計画では、IR業者からの毎年740億円もの納付金のほか、入場料収入320億円も得られ、別に120億円の税収も入るため、年間1180億円もの利益が懐に舞い込んでくるというバラ色計画だ。
だが、そのバラ色計画は、年間2000万人(そのうちカジノに580万人)が来場することを前提としており、USJや東京ディズニーランドをこえる来場者が国内外から押し寄せ、年間6兆円もの賭け金をカジノの遊興のために注ぎ込むというものだ。その営業実績の想定自体、カジノ大国のマカオやシンガポールをこえるもので、コロナ禍を経てオンライン化が加速する世界のカジノ業界の趨勢から見ても極めて非現実的なものだ。
大阪府市は、そのような恣意的な想定をあげながらも、万博やカジノのために莫大な公費を注いで土壌改良した夢洲事業の累積残高がプラスに転じるのは「2076年以降」と見込んでいる。50年以上も先の話である。
IRカジノ事業実施期間は、35年(30年延長可能)という異例の長さとなっている。夢洲のインフラ整備費や土壌改良に注ぐ公的負担の3000億円があれば、大阪市の水道代半額(約300億円)が10年間、大阪市内の小学校給食費無償化(約60億円)が50年間可能であり、300床の病院施設(67億円)が四四棟建設できるとの試算もある。
地方行財政の専門家たちは、「維新は“二重行政による税金の無駄遣い”といってハコモノ事業を批判してきたが、万博もカジノもハコモノ行政の最たるものだ。大阪市の財政で長年問題になっていたのは、あべの再開発事業(天王寺区)の損失2000億円だったが、夢洲開発はそれでは済まない。歴史上かつてない財政負担が大阪市にのしかかることになり、大阪市自身の息の根を止める事業になりかねない」「最低35年、延長期間を考えると半世紀以上の長きにわたり、大阪府ひいては関西の地域社会は、カジノという巨大な収奪装置がもたらす“負のスパイラル”に巻き込まれることになる」と指摘している。
将来への不安が膨らむ矢先、大阪市が8日に示した来年度の通常収支の概算は338億円の赤字となり、今年2月時点の試算から赤字幅が2倍に膨らむことになった。
ギャンブル中毒対策などを云々する以前に、コロナ禍や経済不況で落ち込む地方経済を食いものにして海外企業が利潤を吸い上げるだけの事業にほかならないカジノを唯一の成長戦略に位置づける時代錯誤の発想に疑念が渦巻いている。「第二自民党」といわれる維新の迷走ぶりを象徴している。
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