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※紙面抜粋
※2023年8月25日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
「聞く耳」どころか、国民の神経を逆なで(岸田首相)/(C)日刊ゲンダイ
誰のための政治決断なのか。24日午後1時過ぎ、福島第1原発の敷地にたまり続ける「処理水」の海洋放出が始まった。
今回は約7800トンの処理水を海水で薄め、17日間かけて放出する。海洋放出は今年度中に計4回、3万トンあまりが海に流される予定だ。これが今後、30年以上も続くわけだ。
処理水などが入ったタンクはすでに敷地内で1000基を超え、汚染水は今も日々発生していて、来年早々にもタンクが満杯になる見込みだ。そういうタイミングでの海洋放出である。
政府や東京電力は、タンクを減らさなければ廃炉作業に必要な設備を敷地内につくれないと説明する。海洋放出は「廃炉に向けた大きなステップ」と言うのだが、そもそも廃炉の見通しもまったく立っていないのに、地元の思いを無視するような形で、いま急いで処理水を海に流す必要があったのか。
2015年に安倍政権と東電が福島県漁連と文書で交わした「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分も行わない」という約束は、完全に反故にされた。
20日に福島第1原発を視察した岸田首相は、地元の漁業関係者とは会おうともせず、21日に官邸で全国漁業協同組合連合会(全漁連)と会談するセレモニーで24日からの海洋放出を決めてしまった。全漁連会長も「放出には反対」「科学的に安全だからといって風評被害がなくなるわけではない」と懸念を表明したのに、政府は「一定の理解を得た」とか言って海洋放出を強行したのだ。
カネで解決しようとする傲慢
「ハナから関係者の声を聞くつもりはなく、スケジュールありきで拙速・性急に進めた印象です。岸田首相は7月に、この夏は全国各地を回って車座対話などを行って国民の声を聞くと表明したのだから、福島の漁業関係者と地元の水産物でも食べながら車座対話を行って、せめて直接話を聞く機会をつくろうとは思わなかったのか。
地元に寄り添う姿勢がまったくないし、海洋放出を決断すればまた苦しい思いをさせてしまうと悩み抜いた様子もない。かつて自慢していた『聞く力』はどこへ行ってしまったのでしょう。風評被害対策や漁業支援に基金を積めばいいだろうと、カネで解決しようとする態度はあまりに冷酷で傲慢に映ります」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
処理水の海洋放出を受け、全漁連の坂本雅信会長はこうコメントを発表した。
<本日、ALPS処理水の海洋放出が開始された。我々がALPS処理水の海洋放出に反対であることはいささかも変わりはない。国家的見地から国が全責任を持って放出を判断したとはいえ、今、この瞬間を目の当たりにし、全国の漁業者の不安な思いは増している。我々漁業者は、安心して漁業を継続することが唯一の望みである>
地元の豊かな海、仕事のやりがいと誇り、大漁を喜ぶ家族の笑顔……。そうしたものは、カネに換算できるものではない。いくら補償金を積まれても、取り戻せないものだってある。国家的見地からどうしても海洋放出が避けられないというのなら、少なくとも地元の理解を得るための努力はするべきだ。
安倍政権あたりから怪しくなってきたが、歴代政権はたとえポーズだとしても、犠牲を強いる地元との対話をおろそかにはしなかった。本気で寄り添おうとする政治家もいた。ところが、岸田はそういう懊悩と無縁なのだ。強権的に決めて、なぜかヘラヘラしている。
国会での議論もスッ飛ばして独断を国民に押し付け
処理水の海洋放出について、岸田は「今後数十年にわたろうとも、全責任を持って対応する」と言うのだが、どうやって数十年後まで全責任を持つのだ。いつまで首相でいるつもりなのか。
「早ければ来年には退陣する首相が、数十年後まで責任を持つなんて言うこと自体が無責任です。たとえ100歳を越えて長生きしても、何か起きた時に岸田首相はどうやって責任を取るんですか。結局、“今だけ、カネだけ、自分だけ”のその場しのぎで、大ウソつきということですよ。民の声を聞き、国民の声を政治に反映させるのが為政者の務めなのに、岸田首相は独断で国民の神経を逆なでするようなことばかり押し付ける。
昨年末には防衛費43兆円や敵基地攻撃能力の保有といった戦後日本の平和主義からの大転換も勝手に決めて、『安倍元首相にもできなかったことをやった』と胸を張っていたというからおぞましい。処理水の放出もそうですが、国会での議論も経ずに一方的に表明するという乱暴な手法で、国民は黙って従えと奴隷扱いなのです。官僚におだてられていい気になり、米国の機嫌を取っているだけの首相は、もはや日本国民の敵と言っても過言ではありません」(政治評論家・本澤二郎氏)
17日の訪米直前に処理水の放出について聞かれた岸田は「具体的な時期、プロセスは決まっていない」と言った。それが、18日にバイデン米大統領と会談して処理水放出について了承を得たら、急に「判断すべき最終的な段階」とか言い出し、帰国して早々に海洋放出を始めた。バイデンさえOKと言えば、日本の漁師を泣かせても構わないのだ。
空虚な操り人形は使い勝手がいい
訪米でネジを巻かれたのか、帰国するなり武器輸出の解禁も急ぐようハッパをかけている。
自民・公明両党は「防衛装備移転三原則」の見直しに向け協議を続けてきたが、7月時点では合意に至らず、議論再開は「秋以降」に先送りしていた。それが、23日に急きょ再開されたのだ。
政府の側から、国際共同開発・生産した装備品について「第三国に直接移転できるようにすることが望ましい」として、「警戒」「輸送」など戦闘にあたらない5類型については殺傷能力がある武器を搭載することも可能だとする見解を提示。この政府見解を踏まえて、与党案をまとめるという。
これまた結論ありきの茶番だ。岸田は先日、外遊先の米国で、中国やロシア、北朝鮮が開発を進める極超音速兵器を迎撃するための新型ミサイルを米国と共同開発すると発表。43兆円に増やす防衛費が米国での武器開発に使われ、それを直接、第三国に輸出できるような仕組みを国会での議論はスッ飛ばして政府・与党で決めてしまうのだ。
「岸田首相の国会軽視は常軌を逸しています。何でも自分の好きに決められると勘違いしているのではないでしょうか。国民の合意を得るプロセスを省いて決めることが実行力だと思っているのなら、それは独裁者であり、民主主義国家の看板を下ろさなければなりません。省益優先の官僚から『これをやれば歴史に名が残る』『他の人にはできない』などとおだてられて、時には国民の反対も押し切って進めるのが大宰相の役目だとヒロイズムに浸って高揚しているのなら、ただのバカ殿です。
国家ビジョンがなく、やりたいこともなく、首相になりたかっただけの権力亡者は、官僚や米国からすれば使い勝手のいい操り人形なのでしょう。その結果、汚染水の海洋放出や武器輸出、マイナンバーカードのゴリ押しなど、国民無視の暴走が続いているのです」(本澤二郎氏=前出)
岸田はよく「長年の課題に答えを出す」「先送りできない課題に取り組む」と言う。それは経産省にとっては処理水の海洋放出であり、財務省にとっては増税で、防衛省にとっては防衛費増額や武器開発ということになる。それら役人の思惑に導かれ、敷かれたレールに乗っているだけなのだが、「オレがやった」と悦に入っている。
こういう能天気なボンクラ首相は、米国や官僚に踊らされれば何をしでかすか分からないから危うい。30%前後の低支持率に居直ったらなおさらだ。国民の声を届けるには、自民党内がアワ食って倒閣に走り出すほど圧倒的な不支持を突きつけるか、選挙で国民が引きずり降ろすしかない。
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