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※紙面抜粋
※2023年8月19日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
人事の窓口を決めただけ(座長に就いた塩谷会長代理)/(C)日刊ゲンダイ
「安倍派新たな運営体制へ」「対立回避を優先」「集団指導体制に」──。
自民党最大派閥の安倍派(清和政策研究会)が新体制に移行する、と大マスコミがこぞって報じている。
派閥会長だった安倍元首相が昨年7月に死去して以降、新たな会長を決めることができないまま1年以上にわたって漂流してきた清和会は、17日の総会で塩谷会長代理が「座長」に就く新体制を了承。派閥の運営を行う「常任幹事会」を新たに設置することも決まった。メンバーは塩谷に一任というが、派閥OBの森喜朗元首相が推す「5人衆」が選任されることが既定路線だ。常任幹事会は松野官房長官、高木国対委員長、西村経産相、萩生田政調会長、世耕参院幹事長の5人を中心に、閣僚経験者などで構成し、塩谷はその座長という立て付けである。
「事前に塩谷さんと5人衆との間で話がついていた。塩谷さんと同じく会長代理を務める下村博文さんは、総会でも『座長ではなく会長を置くべきだ』などと主張していましたが、同調者は広がらなかった。塩谷座長といっても実態は5人衆が主導する集団指導体制で、塩谷さんのリーダーシップに期待する声があるわけでもない。森さんが毛嫌いしている下村さんを外すためのデキレースのようなものです」(安倍派関係者)
実際、森は総会後に地元紙「北國新聞」の取材に応じて、「ようやく石段を一つ上がった。一段ではあるが、下村さんを外したという大きな一段だ」と話していた。安倍の死去以来、安倍派の跡目争いは塩谷会長案や5人衆による集団指導体制、萩生田・世耕による共同代表制などが浮かんでは消えた。森の意向には、会長は萩生田で総裁候補は西村という分離案もあったとされる。塩谷を座長とする集団指導体制は中途半端な決着ではあるが、まずは忌み嫌う下村を外すことに成功し、森もご満悦なのだろう。
派閥後継問題を先送りしただけ
20日から2日間の日程で安倍派の派閥研修会が長野県軽井沢町で行われる。その後には内閣改造・党役員人事も控えている。人事で他派閥に後れを取らないためにも、このタイミングで新体制らしきものを決めておく必要があったという“駆け込み決着”の格好だが、これは問題を先送りしただけとも言える。
座長に就いた塩谷は当選10回のベテランだが、前回の2021年衆院選では静岡8区で立憲民主党の源馬謙太郎に敗れて比例復活。しかし今年73歳になり、自民党が内規で定める衆院比例代表の「73歳定年制」に引っ掛かって今後は重複立候補ができない。次期衆院選では落選濃厚なのだ。
塩谷座長がバッジを失えば、誰が次の取りまとめ役を務めるかで、また安倍派はひと悶着だ。なにより、「塩谷派」は名乗らず、会長は空席のままで「安倍派」の名称を使い続けるというところに、この派閥の混迷ぶりが表れている。
「結局、1年以上たっても新会長を決められない派閥のだらしなさを露呈しただけに見えてしまいます。9月にも行われる内閣改造・党役員人事で、岸田首相側と交渉する窓口役が塩谷座長になることを決めたに過ぎない。1人の会長の下に100人規模の派閥がまとまっていれば、岸田首相にとって脅威でしょうが、これでは最大派閥の威力を発揮できるかも分かりません。塩谷座長は便宜上のトップだし、森元首相が指名した5人衆にしても、お互い牽制し合って、分裂覚悟で『自分が会長になる』と手を挙げる気概は誰にもない。最大派閥の混迷は、安倍元首相がきちんと後継者を育ててこなかったツケとも言えるでしょう」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
国民生活を顧みない内向きな自民党派閥の論理
安倍は3度目の登板を自分が狙っていたから、首相を辞して派閥会長に就任しても、あえて後継を育てることはしなかったという見方がある。最大派閥の「数の力」を自らの権力維持に利用することしか考えていなかった。
だから、21年の総裁選でも自派閥からは候補を出さず、後足で砂をかけるように派閥を飛び出した高市経済安保相を支援したのだといわれている。自己評価だけは高くて安倍派から総裁選に出たがっている議員もいたが、安倍は自分以外の総裁候補が派閥内から出てくることを全力で阻止したのだ。
「天下国家を論じ、国民のために汗をかく政策集団という派閥の意義は完全に失われています。今回の安倍派の“新体制”だって、内閣改造を見据えた急ごしらえに過ぎません。最大派閥がまとまっているように対外的に見せることで、それなりのポストが舞い込んでくるという計算です。派閥は保身と利権あさりの温床になり、『今だけ、カネだけ、自分だけ』という烏合の衆となっている。それを批判しない大マスコミもどうかしています。安倍派の醜いボス争いや、ポスト目当ての恥知らず決着をまるで一大事のように報じて、共犯関係に陥っている。とっくに政界引退した森元首相がシャシャリ出てきて人事にあれこれ口を出すことも異常だと思わないのでしょうか。そもそも、歴史的なガソリン高などの物価高に苦しんでいる国民生活に目を向けず、派閥の影響力行使や党内抗争に明け暮れている場合なのか。旧態依然の自民党派閥ムラ社会が、自分たちの利害で首相を決めるおかしさを疑問に感じないとしたら、大マスコミの記者もムラ社会の一員ということです」(政治評論家・本澤二郎氏)
安倍派の騒動は日本政治の縮図
第4派閥で党内基盤の弱い岸田派は最大派閥の安倍派に配慮せざるを得ない。有力ポストをどう配分するのか。安倍派が会長を決めれば強力な総裁候補が誕生する。どこどこの派閥と協力すれば多数派を得て総理総裁になり得る──。大マスコミの政局報道は、ポストだの派閥だの国民生活に関係のない視点ばかりだ。内輪ネタなのである。
「安倍派が新会長を決められないのは、衆目の一致する派閥会長、すなわち総裁候補にふさわしい人材がいないためだといわれます。それは日本政治の縮図でもある。自民党内にも、衆目が一致するリーダー候補がいない。だから岸田政権がどんなに無能だとしても、長期政権になるとみられている。自民党の人材払底は甚だしいし、それを見せつけたのが最大派閥の安倍派のゴタゴタです。かといって、野党にも国民が希望を託せるようなリーダーはいない。そうなると、やはり官僚任せの政治になりかねません。官僚も政治家も自分たちの保身やポストが何より大事で、国民不在の政治が続いてしまう。いつまでたっても進歩せずに、利権がんじがらめのムラ社会政治が続くのでは、不幸なのは国民です」(山田厚俊氏=前出)
リーダーも決められない派閥なんて、政策集団でも何でもない。ただの利権グループだ。そんな派閥にくっついて、派閥の論理で政局報道する大マスコミもどうしようもない。そんな内向きの発想で、激動の時代を乗り越えられるのか。
今回の岸田の訪米も、米大統領の別荘「キャンプデービッド」で日米韓首脳会談が行われるのは「異例の厚遇」だとか御用メディアは持ち上げているが、過去には中曽根元首相や小泉元首相も当地を訪れているし、民主党政権の野田元首相だって招かれた。そして、そこではロクでもない条件をのまされてくるのが歴代首相の通例だ。そういう裏側は報じずに、どうせ首脳外交は成功したとはやし立てるのだろうが、そんな大マスコミは誰のための報道機関なのか。派閥も、派閥記者も、国民感覚から乖離しすぎている。
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