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あまりに強引な保険証廃止、医療の混乱は不可避
マイナカード一本化で"無保険状態"発生か
東洋経済 2023年05月13日号
https://toyokeizai.net/articles/-/672263
従来の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに一本化することなどを盛り込んだ「マイナンバー法等一括法案」が5月19日にも参議院で可決・成立する見通しだ。
デジタル庁や厚生労働省は「デジタル(DX)化によって重複投薬などが減り、医療の質向上が見込まれる」とメリットを強調する。だが、認知症高齢者の家族や介護施設の関係者などから、「マイナカードへの一本化には無理がある」といった声が上がっている。
保険証が廃止された後もマイナカードを取得していない場合、医療機関の窓口では健康保険の資格確認ができなくなる。その場合、後で払い戻しはあるが、いったん窓口で医療費の全額の支払いを求められる。
厚労省は「やむを得ない理由がある場合」に限って保険証に代わる「資格確認書」を新たに交付することで、こうした”医療難民”の発生を防ぎたい考えだ。ただ、資格確認書の交付対象は介護が必要な高齢者など一部に限られるうえ、従来の保険証とは違って健康保険の加入者自身による申請が必要だ。
政府は2024年秋に保険証の廃止を目指すとしているが、混乱が危惧されている。
厚労省によれば、マイナカードの累計の申請件数は4月23日時点で約9650万件、全人口に対する割合は76.6%に達している。2兆円以上の巨費を費やしてポイントを付与したことで申請が急増したためだ。しかし、全国民に行き渡らせることについては、事実上困難であることが明確になってきた。
介護施設は「カードを管理できない」
医師らで構成される「全国保険医団体連合会」(保団連)は3月24日から4月10日にかけて「健康保険証廃止に伴う高齢者施設等への影響調査」(特別養護老人ホームや老人保健施設、グループホームなどが対象で、有効回答数1219施設)を実施。保険証廃止に反対する意見が59%と多数を占めた。
回答した施設のうち83%で、利用者や入所者の保険証を家族に代わって管理していることが判明。マイナカードを本人に代わって申請することについては、全体の93%が「対応できない」と答えている。その理由としては「本人の意思確認ができない」(83%)、「手間・労力がかかり対応できない」(79%)などが上位を占めた。
また、利用者や入所者に代わってマイナカードの管理をすることについては、全体の94%が「管理できない」と答えた。その理由としては、比率の高い順に、「カード・暗証番号の紛失時の責任が重い」(91%)、「カード・暗証番号の管理が困難」(83%)、「不正利用、情報漏洩への懸念」(73%)などとなった。
保団連は医療現場に混乱をもたらすことや、患者の不利益になるなどとして、保険証の廃止とマイナカードへの一本化に反対している。
京都市内の特養ホーム「原谷こぶしの里」施設長の介山篤氏は東洋経済の取材で、「保険証を預かることと、暗証番号も含めてマイナカードを管理することでは責任の重さが格段に異なる。私個人としては、今まで通りのやり方で保険証の交付を続けてほしい」と危機感をあらわにした。
「認知症の人と家族の会」の鈴木森夫代表理事は、「認知症の症状が進んだ人がマイナカードを取得するのは容易ではない」と指摘する。同会のある支部のヒアリングによれば、顔写真の撮影の難しさや暗証番号設定の手続きなどさまざまな苦労があったことが報告されている。
「施設の職員が手伝い、やっとの思いで撮影した写真について、正面を向いていないとか背景が無地でないといった理由で役所の窓口で2度もだめ出しをされたケースもある」(鈴木氏)。
マイナカードを取得できたならばまだしも、「一人暮らしの高齢者などで取得せず、資格確認書の交付も申請しなかった場合、制度から落ちこぼれる可能性がある」と鈴木氏は危惧する。
サラリーマンは資格確認書交付の対象外?
混乱が生じるのは、もともと「任意」とされてきたマイナカードの取得を、保険証を廃止して代替させることで、事実上「強制」しようとしていることに原因がある。健康保険証の廃止とマイナカードへの一本化は2022年10月、河野太郎デジタル担当相の鶴の一声で決まった。
しかし、あまりにも急な政策決定に、高齢者団体や医療現場から危惧の声が上がった。そこで政府は専門家によるワーキンググループを急きょ開催。指摘された意見を反映させたとして2月に「マイナカードと健康保険証の一体化に関する検討会中間取りまとめ」を公表した。
そこでは「マイナカードがすべての国民に行き渡るように全力を尽くす」としつつも、介護が必要な高齢者などでマイナカードによる資格確認ができない人を対象に資格確認書を交付することが盛り込まれた。
ただし、あくまでも申請が原則であり、有効期限も1年に限定されているため、毎年申請手続きが必要になる。厚労省は最後の手段として地方自治体などに職権での資格確認書の交付も認める方針だが、どのような場合にそれを行ってよいかは法案には明記されていない。
サラリーマンなどは資格確認書の交付対象にならない可能性もある。厚労省の担当者は「法案成立を踏まえて今後の運用方針を決めていきたい」と語っている。
こうしたいきさつについて知っている国民は少ないと見られる。先行した衆議院でも法案の審議日数はわずか4日、審議時間は約13時間と短かったためだ。
4月27日の衆議院での可決に際しては、「マイナカードの取得を強制しないこと」「資格確認書の申請漏れ等により、保険診療を受けることができない者が生じないよう措置を講じること」など11項目にものぼる附帯決議がなされた。与野党問わず、保険証廃止に不安を抱く議員が少なくないことを物語る。
その後、法案は参議院に送られ、5月12日に審議が始まった。衆議院で指摘された問題点が解決できないまま可決・成立となれば、今後の混乱は避けられないだろう。
https://toyokeizai.net/articles/-/672263
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