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世界も日本も民主主義の危機 独裁者に抗う政治とは 東大・宇野重規教授に聞く
東京新聞 2022年6月15日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/183366
<民主主義のあした>
ロシアがウクライナに侵攻してから間もなく4カ月。子どもを含む市民の犠牲は増え、故郷を追われた避難民らは厳しい生活を余儀なくされている。ただ、問題の根はそれ以上に深い。
「世界の民主主義が崩れかねない事態が引き起こされている」。こう指摘するのは、民主主義に詳しい東京大社会科学研究所の宇野重規教授(55)だ。
冷戦終結とソ連崩壊後の約30年間、世界では「遅かれ早かれ、すべての国は民主的な国家へと向かう」と信じられてきた。その流れに沿って形づくられた国際秩序に急ブレーキをかけたのが、国連安全保障理事会の常任理事国でもあるロシアのプーチン大統領の暴挙だった。
1人の独裁者が暴走すると民主主義の力では止められないー。世界ではこんな受け止めも広がっている。それでも、社会を形づくる一人一人が議論を重ね、力を結集させる民主主義こそ最善かつ最強の制度ではないのか。今回の事態が突きつけた問いは、私たち自身にも向けられている。宇野教授とともに、民主主義を根本から見つめ直した。
◆ごく普通の人が主役の民主主義が危機に
Qそもそも民主主義とは何ですか。
「2500年前の古代ギリシャに源流があります。英語でデモクラシーと言われますが、デーモス(民衆)とクラトス(支配)という言葉に由来しています。当時は1つの場所に集まってみんなが平等に話し合い、あらゆるルールを決めました。王様や貴族ではなく、ごく普通の人々が主役として、社会の大切なことを自ら決定する。そんな政治のあり方や政治体制を指す、というのが私の見解です」
Q民主主義を取り巻く世界の現状をどう見ますか。
「崩れ落ちる危機に陥っています。2016年に英国が欧州連合(EU)の離脱を決め、米国ではトランプ大統領が誕生したことを思い返してください。どちらも国民投票や選挙という民主的な手続きを経ましたが、英国は欧州を混乱させ、トランプ氏の過激な言動は外国人の排斥や報道の抑圧につながりました」
Q危機を招いた要因はそれだけですか。
「新型コロナウイルス禍も逆風になりました。中国では度重なるロックダウン(都市封鎖)で国民の行動を制限し、感染拡大を抑え込もうとしました。一時は成果を上げたように見え、『危機時に民主主義は機能しない』という受け止めが広がりました。さらに、近年ではロシア以外にも独裁的な権威主義国家が増えています」
◆日本、国民の半分だけの低投票率「最も深刻な危機」
Q日本ではどうですか。
「国民が政治に参加していないことが、最も深刻な危機です。19年の前回参院選の投票率は選挙区で48.80%、昨年秋の衆院選も小選挙区で55.93%と、歴史に残る低さでした。国民の半分しか投票しない選挙で、民主主義が実現できていると言えるでしょうか」
Q低投票率の背景には何があるのでしょうか。
「自分の1票が、政治を変えるという実感を持てないことが関係していると思います。緊張感を持った政治を実現するには本来、野党が一定の役割を果たす必要がありますが、『政権交代』は現実味がなくなっている。政治権力の集中だけが進み、その中身を外部からチェックしにくくなる恐れも強まっています」
◆政権運営の検証、不十分な状態が習慣化
Q政府・与党にも責任があるのでは。
「過去10年余り、選挙に勝てるタイミングで衆院解散が繰り返され、勝った後は『みそぎが済んだ』とばかりに、政権運営の評価や検証、反省や修正が十分になされない状態が習慣化しました。例えば安倍晋三元首相が進めた『アベノミクス』は本当に良かったのか。その検証がないまま菅義偉前首相に代わり、反対論も根強かった東京五輪・パラリンピックを開催。さらにその検証もないまま、岸田文雄首相は『新しい資本主義』を掲げています」
Qどうすれば事態を打開できるのでしょう。
「政治には『情報開示』を求めたいと思います。財務省による公文書改ざんなど情報開示に逆行するような問題もいくつかありましたが、権力者がどんな情報に基づいて政治的な決定を行っているかをオープンにさせ、説明責任を果たさせることがとても重要です」
◆身近な課題から関心を持って「参加と責任」を
Q有権者に呼び掛けたいことはありますか。
「『参加と責任』です。1人の独裁者に政治を委ねるのではなく、多くの人の政治参加を通じて、一人一人の力を引き出せるのが民主主義の良さだからです。まずは買い物にも困るお年寄りや学校の統廃合、ごみ処理など、身近な課題に関心を持ってみてはどうでしょう。それが同心円状に広がっていけば、日本や世界の問題にも目を向けることにつながっていきます」
Q「責任」という言葉は敬遠されがちです。
「責任は参加とセットの言葉です。自分たちの問題を自分たちの力で考えるからこそ責任も持つ。夏の参院選を含め、政治は私たちの命や暮らしに大きな影響を及ぼします。だからこそ、その決定に自分もかかわりたい。そのように考えるべきではないでしょうか」
うの・しげき 1967年東京都生まれ。東京大大学院博士課程修了。法学博士。専門は政治哲学、政治思想史。仏社会科学高等研究院や米コーネル大法科大学院での研究を経て、2011年から東京大社会科学研究所教授。21年に著書「民主主義とは何か」(講談社現代新書)で石橋湛山賞を受賞。16年から本紙コラム「時代を読む」を執筆中。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/183366
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