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※紙面抜粋
※2023年8月7日 日刊ゲンダイ
※文字起こし
外遊から帰国した際も不穏な雰囲気。秋本真利衆院議員は説明ナシの速攻辞任では済まされない(特捜部は地元事務所も家宅捜索=右)/(C)共同通信社
政務官をあっさり辞任、自民党も離党したが、自らの疑惑については何ひとつ説明しないまま。幕引きは許されない。
前外務政務官の秋本真利衆院議員(47)が風力発電会社「日本風力開発」から計3000万円もの不透明な資金提供を受けたとされる「政治とカネ」の問題で、東京地検特捜部は4日、秋本の事務所などを収賄容疑で家宅捜索。5日には日本風力開発の東京本社と塚脇正幸社長(64)の自宅を贈賄容疑で捜索した。
連日の強制捜査で贈収賄事件に発展するのは時間の問題だが、驚くのは贈賄側の言い分だ。塚脇社長の弁護人によると、秋本とは馬主仲間で、2021年秋ごろに共同出資して馬主組合を設立した。21年10月〜23年6月に支出した計3000万円はほぼ全てが馬の購入費や厩舎代などの経費に充て、提供先も共同運営する組合で秋本個人に渡したわけではないと主張。賄賂性を否定している。
一方で特捜部は、組合を実質的に管理していたのは秋本とみているもようで、資金は秋本個人への提供とみて捜査。そもそも、国会議員が利害関係にある会社社長と巨額の資金を要する馬主仲間という事実だけで、国民に疑念を抱かれても仕方がない。
しかも、秋本は提供された資金のうち約1000万円は議員会館の事務所で一度に現金で受領した疑いまで浮上。6日付の朝日新聞によると、秋本が事前に塚脇社長に「馬を買いたいので金を出してほしい」などと携帯電話のショートメールで連絡。社長は要求に応じて現金を事務所に届けたというから、ズブズブである。
2人とも国政の拠点である議員会館で1000万円もの現ナマを受け渡しすることに、ためらいはなかったのか。
国会で露骨な利益誘導を求めた脱原発男
秋本は12年の衆院選で千葉9区から出馬して初当選。現在4期目で“魔の4回生”のひとりだ。自民党内では珍しい「脱原発」の急先鋒で、河野デジタル相の“懐刀”として知られる。20年出版の著書「自民党発!『原発のない国へ』宣言」には、河野が「自民党一の『脱原発』男だ」と推薦文を寄せていた。
そんな秋本が熱心に取り組んだのは、再生可能エネルギーの推進だ。著書でも自ら「再エネの『族議員』」と名乗るほどで、代表を務める政党支部は過去3年間で日本風力開発は含まれていないが、再エネ関連企業や経営者から計約2500万円の献金を受け取っていた。
17〜18年には国交政務官を務め、洋上風力発電事業を促進するための「再エネ海域利用法」(19年施行)の起案に関与。四方を海に囲まれた日本で、洋上風力発電は再エネ拡大の「切り札」だ。政府は20年度にほぼゼロだった洋上風力の発電能力を30年度には570万キロワット、さらに40年度には3000万〜4500万キロワットまで増やす目標を掲げている。4500万キロワットは実に原発47基分の発電量にあたる。
秋本は昨年2月の予算委員会分科会で質問に立った際、「安倍総理、菅官房長官にお願いをして、この洋上風力の法律をつくるため、国交省に政務官として行った」と振り返っていた。特捜部が注目するのは、まさにこの時の国会質問である。
のっけから「この質問を通じて2回目の公募から、評価の仕方を見直していただきたい」と切り出した秋本。「公募」とは海域利用法に基づき、洋上風力発電事業者を選定する入札を指す。落札した事業者は最長30年間、その海域での洋上風力発電を独占できる“うまみ”のある事業だ。
21年12月、「第1ラウンド」と呼ばれた秋田、千葉の計3海域を、三菱商事を中心とした事業体が「総取り」。決め手は圧倒的な安さで、価格重視の評価基準にライバル企業たちは反発した。入札には日本風力開発も参加していたという。
この日の質問で秋本は第1ラウンドの入札では運転開始時期の早さに関する配点が低かったと指摘。「少なくともここだけでも見直すべきだ。それこそが国民の利益」と発言するなど33分の持ち時間のうち、25分を費やしてスピード重視のルール変更を求めたのだ。2回目の公募には日本風力開発も参加の意欲を示していたという。
下っ端議員の提案だけでルール変更できたのか
当時の萩生田経産相から「ご提案をよく踏まえて検討してみたい」との答弁を引き出すと、秋本は「大変ありがたい。力強い答弁に感謝を申し上げたい」と大喜び。すると翌3月、経産省などは見直しを表明。10月には秋本の要望通り、第2ラウンドから運転開始時期にも重点を置くようルールを改めた。
“お友だち”企業が有利になるようなルール変更を国会質問で願い出て、利益誘導の見返りに賄賂を受け取った──特捜部はそう見立てているようだ。国会での質問権は議員の職務権限。懇意な業者から利益供与を受け、意向をくんで質問したケースでは過去に収賄罪に問われた例もある。
ただ、秋本は自民の「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」の事務局長を務めていたとはいえ、まだ副大臣経験さえない下っ端だ。しかも、経産省がルールを変更した際、第2ラウンドの入札は既に公募を開始。新ルール適用のため、わざわざ公募期間を延長する異例の経過をたどった。
秋本の質問に萩生田も当初「試合のルールを決めて公示をしちゃって、そこに参加している人たちがいる以上、途中でルールを変えるのはどうかな」と答弁で難色を示したほど。たかだか、当選4回のチンピラ議員ひとりの提言で大それたルール変更は可能だったのか。
秋本は菅前首相を支える無所属議員のグループ「ガネーシャの会」に所属。秋本は菅の威光をかさに着ていたようで、読売新聞(5日付)は「官僚が『出来ません』などと言うと、『(当時の)菅官房長官に言うぞ』と権力を振りかざしていた」との国交省幹部の証言を伝えていた。
首相在任中に「2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」目標をブチ上げ、再エネ拡大の機運を高めたのも菅だ。再エネ議連の顧問には菅や河野、甘利前幹事長の名前が並ぶ。
国の許認可権あるところに利権アリ
政治評論家の本澤二郎氏はこう言った。
「エネルギー事業はすべて国の許認可事業。許認可権あるところに利権アリで、有象無象が群がる癒着の温床です。関係業者は自分たちに有利な状況になるよう官僚や政治家に近づき、意をくんだ族議員たちが政治力を行使して利権を差配する。今回の事件は氷山の一角。腐敗構造のウミを出し切らなければいけません」
はたして捜査は「上」まで伸びるのか。それにしても政府が普及を急ぐ再エネには太陽光発電も含めて怪しい輩が跋扈。今年3月には関係会社の資金計4億2000万円を着服したとして、特捜部は業務上横領の疑いでメガソーラー事業を手掛けるコンサルティング会社「トライベイキャピタル」の代表だった三浦清志氏を逮捕するなど、事件化も相次いでいる。ちなみに、清志被告の妻は菅政権時代に「成長戦略会議」のメンバーだった国際政治学者の三浦瑠麗氏だ。
再エネを巡る事件のたびに大マスコミはバカ騒ぎするが、その裏でヌクヌクしている連中がいることを忘れてはいけない。
「相次ぐ不祥事で再エネ拡大の機運がしぼめば、岸田政権の原発回帰路線で、やりたい放題の“原子力ムラ”の思うツボ。立地地域への巨額の補助金の差配など原子力利権のスケールは、はるかに大きい。腐敗構造は厳しく糾弾すべきですが、再エネ拡大そのものとは切り分けて考えるべきです」(原発行政に詳しいジャーナリスト・横田一氏)
大マスコミも特捜部も、原子力に群がる巨悪を眠らせてはいけない。
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