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保団連会長が警鐘「保険証廃止を強行すれば閉院ラッシュ、地域医療は崩壊します」 注目の人 直撃インタビュー
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/327001
2023/08/07 日刊ゲンダイ
住江憲勇(全国保険医団体連合会会長)
全国保険医団体連合会会長の住江憲勇氏(C)日刊ゲンダイ
マイナンバーカードを巡って次から次へと起こるトラブルに岸田政権は右往左往。国民の不信は募る一方だ。とりわけ、健康保険証廃止への反発は強く、世論調査では来年秋の廃止について「反対」が7割を超える。にもかかわらず、政府はマイナ保険証への一本化方針にいまだに固執。このため全国の医療機関では大混乱が生じている。この間、医療現場の実態を調査し、問題点を明らかにしてきた保団連会長に思う存分、語ってもらった。
マイナ保険証「必発3トラブル」は解決しない
──医療現場で何が起きていますか。
マイナ保険証を使うとまず、受け付け時点で混乱が生じる。オンライン資格確認がうまくいかず、患者が列をつくり、時間も手間もかかる。スタッフに対しクレームも出る。医療情報は古い上に、他人の情報かもしれないと考えると診療では怖くて使えない。マイナ保険証はほとんど活用されていないのが実態です。
──マイナ保険証の根本的な問題は何ですか。
避けられない、必発のトラブルが3つあります。公金口座や年金などでも発覚しているが、1つはマイナ保険証へのひも付けの誤りによる危険です。重大な医療事故につながりかねません。2つ目は、資格者全員に交付する保険証と違い、マイナ保険証や資格確認書は申請主義なので、どうしても申請漏れや遅れが生じ、保険資格情報の誤りが避けられないことです。3つ目は、オンラインにつきもののシステム障害の発生リスクは当然あります。
──実際に3つとも多発しています。
これだけの不具合が起きれば運用を全面停止し、万全の改善策を講じるのが常識です。富士通子会社の証明書交付サービスのトラブルの際はシステムを停止しました。ところが政府は、立ち止まることなく、走りながらの対応を続けている。次々生じるトラブルに対し、ほころびを縫うがごとく対策に追われるから、シッチャカメッチャカの状態に陥っている。
──受け付けで無保険扱いが続出し、10割請求が問題になった時、加藤厚労相は窓口負担を「3割」とするよう医療機関に求めました。
窓口でいったん3割とするが、後で正しい資格情報を確認する必要がある。それを担うのは社会保険診療報酬支払基金です。無資格扱いとなるトラブルは70万件以上起こるとの推計を発表しましたが、それくらいの規模で資格を確認する作業が毎月、発生するのです。当然、積み残しが起き、支払いの遅延や不能が起きるでしょう。
終戦直後の支払い遅延時代に逆戻り
──医療機関の経営に影響も出る。
終戦直後、支払い遅延が常態化し、適切な医療提供が難しい事態に直面しました。そこで、1948年に支払基金が設立された経緯があります。このままでは終戦直後の支払い遅延の時代に戻りかねません。これまでは患者から保険証の提示がない場合、窓口では10割の負担を求め、後で資格が確認できれば、差額を返金し、そうでなければそのまま、という運用をしてきた。病院と患者の間でコンセンサスがあったのです。医療従事者と患者の信頼関係まで壊れかねない事態です。
──マイナ保険証の登録は6500万人で足踏み状態です。
マイナ保険証の普及を前提に、資格確認書の交付はごくわずかと想定し、申請に基づいて毎年交付としていました。ところが、人口の半分近くに送付となると、そうはいかない。毎年でなく、保険証に準じた期間にするとか、職権で全件交付という案も浮上しています。これでは、ほとんど保険証と変わりません。保険証を廃止する意味は薄らいでいる。
「問題の先送りではなく撤回に追い込むことが重要」
廃止に固執(河野太郎デジタル相と加藤勝信厚労相=右)/(C)日刊ゲンダイ
──保険証廃止についてはメディアの批判的報道も盛んですが、保団連は以前から警鐘を鳴らしていました。
今年4月からのオンライン資格確認義務化の進め方は極めて強引でした。昨年6月に義務化方針を閣議決定し、ろくな審議もせずに3カ月後には省令を発令した。昨年8月の厚労省の説明会で、保険局の水谷忠由医療介護連携政策課長は、義務化に応じない医療機関について「保険医療機関・薬局の指定の取り消し事由となり得る」と恫喝までした。こうして環境を整え、同10月に河野デジタル担当相が保険証の廃止を表明したのです。
──オンライン資格確認の義務化について、医療機関はどう受け止めましたか。
昨年10月のアンケートによると、セキュリティーへの懸念や経済的負担などの理由で15%が「対応できない」と答え、10%が閉院を検討すると回答しました。資格確認システムの導入という、医療とは無関係な理由から病院を閉じるのは、医療従事者にとって忸怩たる思いだと思います。
──4月からの義務化による閉院は起きたのですか。
全国の地方厚生局に提出された保険医療機関の廃止数を見ると、今年4月は約1100件に上っています。少なくとも昨年5月以降で最多となっています。4月からのオンライン義務化の影響も考えられます。
──閉院が相次ぐのは地域医療の維持を揺るがします。
全国には中山間地域があります。限界集落とならず、持ちこたえているケースはかろうじて医療機関が存在しています。例えば、高齢の先生が診療を続けてくれている。そうした地域で唯一の医療機関が閉院してしまったら、住民の医療はどうなるのか。地域医療への影響は今のところ、顕在化していません。しかし、政府が保険証の廃止方針を貫けば、判断を迷っている医療機関が閉院を決めかねない。閉院予定の医療機関はオンライン資格確認を導入せず、来年9月までは続けられるが、その後はない。来年秋に向けてさらなる閉院ラッシュが起きてもおかしくありません。
──自民党幹部から来秋の廃止について「延期論」が出ています。
与党からそういう声が出るほど事態は深刻だということでしょう。ただ、延期でガス抜きされないように注意が必要です。当面は延期でいいとしても、撤回に追い込むことが重要です。延期したところで問題が先送りされるだけです。この先、マイナ保険証の登録が飛躍的に伸びるとも思えず、数千万人がマイナ保険証を持たない状況は続きます。また、廃止時期を後ろ倒しにしても、先に挙げた3つの必発トラブルがなくなるわけではない。これまで同様、マイナ保険証に一本化するスキームの中で解決しようとすれば、延期した期間にトラブルが続くだけなのです。保険証を存続させれば、一気に解決する話です。
──マイナ保険証と健康保険証の併用については?
かつては併用を主張していました。というのも、ITに強い医師もおり、進めることのメリットも一定分あるからです。だから、マイナ保険証に絶対反対とは言いません。ただ、トラブルがここまで起きている以上、あまりにも危険すぎて、マイナ保険証を使いたい人に「どうぞ使ってください」とも言えなくなった。それほど深刻な事態だと認識しています。
──来秋の保険証廃止について反対の世論は7割を超えていますが、政府は鈍感です。
例えば、河野デジタル担当相は自主返納について「微々たる数」だと切り捨てました。信頼されていない事態に向き合おうとしていない。保険証廃止を政府は譲らない構えですが、国民の運動に加え、メディアの報道もあり、廃止についての危機意識は共有できていると思います。
──「医療のデジタル化」と言えば聞こえはいい。
「医療のデジタル化のためには、多少のリスクやデメリットがあっても立ち止まらずに推し進めるべきだ」と言う人がいますが、軽い発言です。マイナ保険証では、機微に富む情報がずさんに扱われ、地域医療の崩壊にもつながりかねない。保険証廃止の撤回に向けて引き続き奮闘します。
(聞き手=生田修平/日刊ゲンダイ)
▽住江憲勇(すみえ・けんゆう) 1948年、大阪府生まれ。関西医大卒。病院勤務を経て81年、交野市に住江眼科を開業。91年、大阪府保険医協会理事。2006年から現職。
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