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紙面抜粋
※2023年7月25日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
因果は巡る(岸田首相と菅前首相=左)/(C)J M P A
うんざりするほど猛暑日が続き、急速に日が暮れる秋の気配は遠いのに、岸田政権の支持率はもう「つるべ落とし」だ。
先週末(21〜23日)に実施した読売新聞の世論調査だと、前月から6ポイント下落の35%。2021年10月の内閣発足以降、最低だ。毎日新聞の調査(22、23日実施)は2カ月連続下落の28%。2カ月間で17ポイントも減り、3割を切るのは2月調査(26%)以来5カ月ぶり。同じ毎日調査で、菅前政権が退陣直前の21年8月に記録した26%を下回るのも、時間の問題となってきた。
どの調査でも直近の支持率は岸田政権の最低水準を記録。5月の広島G7サミットの開催前後から軒並み10ポイント以上下落しても、岸田首相は強がっているらしい。
「(支持率は)上がったり下がったりするものだ。いずれ上がる」
岸田は20日、自民党の遠藤総務会長と官邸で会談した際、支持率続落について、そう語ったと共同通信が伝えた。配信記事の見出しには「首相、続落に強がり見せる」とあった。
「世論調査の支持率には一喜一憂しない」と言うのは常套句ではあるが、「いずれ上がる」とは岸田は国民をナメている。政府の政策で生活の影響を受ける国民が、時の政権への評価を示せるのは選挙以外には、内閣支持率の上下しかない。岸田の強がりは、主権者たる国民の意思表示を「考慮しない」と軽んじているに等しい。
ましてや、岸田は21日に栃木県足利市の障害者支援施設を訪れ、国民と意見交換を行う「全国行脚」を始めたばかり。秋までに全国6〜7カ所を回る予定だが、しょせんは単なるパフォーマンス。国民の機微に寄り添うつもりなどさらさらないことは「そのうち上がる」発言でハッキリした。こんな首相が「聞く力」をアピールとは笑止だ。
命まで切り捨てる棄民政策の数々
大体、「支持率が上がる」と言える自信は、どこからわき上がってくるのか。岸田の自己評価の高さは不思議でならない。相次ぐマイナンバーカードを巡るトラブルに加え、政府税調の答申はサラリーマン世帯を狙い撃ち。「退職金の増税」や「通勤手当の課税」などの検討に、SNS上では怨嗟の声が渦巻いている。「サラリーマン増税」への怒りが燃え広がれば、支持率はいよいよ、目も当てられないレベルまで下がるに違いない。
首相就任から、間もなく1年10カ月。今まで国民のために何か良くなることをした実績も岸田にはカラッキシありゃしない。世論調査でも、やることなすこと全ての政策が全く評価されていないのが現状である。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言った。
「これまで岸田政権が推進したのは『棄民政策』です。昨年末には国民に意見を聞かず、国会審議もすっ飛ばし、安保関連3文書を閣議決定。『反撃能力』と言い換え、敵のミサイル発射基地などを事前にたたく『敵基地攻撃能力』を勝手に保有し、専守防衛の国是を捨て去り、憲法の精神を大きく踏み外しました。それも国民の安全のためではない。あくまで政権維持のために米国のバイデン政権に媚を売り、防衛費も倍増するのです。かつてないほど、米国ベッタリの隷従路線で、防衛費倍増の恒久財源探しに国民から搾り取る将来の増税メニューを示唆。生活保護や給付型奨学金への課税まで検討しているのですから、血も涙もありません。国民皆保険制度をおびやかすマイナ保険証の強制を含め、この政権は国民の命まで切り捨てようとしています」
驕る首相は国民を「支配の対象」としか見ない
下げ止まらない内閣支持率に岸田が「いずれ上がる」と言い放ったのは、それだけ国民をみくびっている証拠だ。もっと言えば、上から目線の特権意識の表れである。
「今年3月、訪問先の福島県相馬市で、中学生に『なぜ首相を目指したのか』と聞かれると、岸田首相は『日本で一番権限の大きい人なので』と明言しました。普通は嘘でも『この国を良くしたい』『国民の暮らしを豊かにしたい』とか、答えそうなものですが、権力志向を隠そうともしない。岸田首相も結局、世襲3代目のボンボン議員で『自分は支配層の一員であり、偉くなって当たり前』という強い意志を感じます。首相秘書官だった長男への身内びいきはさもありなんで、特権意識丸出しです。かような人物にとって一般庶民は『支配する』対象でしかない。強権的だった『安倍・菅路線』と違って、岸田首相には何となくソフトなイメージがありましたが、騙されてはいけません。岸田政権のやっていることは、安倍・菅両政権以上に独裁的です」(金子勝氏=前出)
岸田の思い上がった本性が多くの国民に見透かされてきたのは、世論調査の結果にも如実に表れている。読売の最新調査では内閣を「支持する」層に限り、その理由を聞いても「他によい人がいない」という消極的な答えが49%にも上り、「首相が信頼できる」はたったの9%しかなかった。
前任者の菅前首相は内閣支持率が初めて3割を切ってから、約1カ月ほどしか政権を維持できなかった。しかも、菅を退陣に追い込んだのは、岸田その人だ。「因果応報」という言葉もある。支持率が3割を割り込んだ岸田さんはさあ、いつまでやるのか、やれるのだろうか。
今が「聞く力」発揮の絶好のチャンス
2年前の8月末ごろを思い出してほしい。当時首相の菅は翌月に控えた自民党総裁選での再選を目指し、立候補を模索。そこに割って入り、党役員任期を「1期1年・連続3期」とする党改革案を引っ提げて立候補を表明したのが、当時は無役だった岸田である。
岸田の出馬表明時点で、菅はまだ負けるとは思っていなかったはずだ。しかし、岸田が放った党改革案の“ジャブ”が、思いのほか菅のダメージとなった。党の実力者として安倍政権時代から重用されてきた当時の二階幹事長を切るかどうかの“踏み絵”を迫られ、菅は岸田に先手を打つつもりで“二階外し”を決断。「人事を一新して今後に臨みたい」という菅の申し出に二階は「遠慮せずにどうぞ」と応じた。
菅は「二階さんはすごい政治家だ」と褒めちぎったそうだが、直後に「菅首相9月中旬に衆院解散の意向」とのニュース速報が流れると一気に暗転し、奈落の底へ。菅は記者団に総裁選前に解散する意向を否定したが、「総裁再選のための解散などもっての外」との党内の批判を拭えず、総裁選への立候補断念、首相退陣に追い込まれたのだ。
岸田の党総裁任期満了は来年の9月。衆院議員の任期満了は再来年の10月と、まだ2年以上ある。当時の菅が置かれた政治状況とは大きく異なるとはいえ、「因果は巡る」だ。2年前、岸田に散々振り回された菅や二階は今も党内で「非主流派」と位置づけられている。下げ止まらない内閣支持率にほくそ笑み、「岸田おろし」に手ぐすね引いていても不思議ではない。
「時の権力者は『いずれ支持率は上がる』などと根拠のない楽観論に支配されている時こそ、その座を失うものです。内閣支持率に引きずられ、自民党の政党支持率も下落傾向だけに、なおさら危うい。岸田首相は自分に取って代わる適当な人材がいないことに、あぐらをかいているようですが、その評価は実際に首相が代わらなければ分からないし、それを判断するのは首相ではなく、国民です。“驕る者久しからず”で、民意を真摯に受け止められない政権に上がり目ナシ。岸田首相はノーを突きつける民意に従い、潔く身を引くべきです」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
岸田は今こそ「聞く力」を発揮する絶好のチャンスである。
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