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政府も国民も福島第1原発「処理水放出」問題をあまりに他人事と捉えていないか 永田町の裏を読む
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/326206
2023/07/19 日刊ゲンダイ ※後段文字起こし
福島県漁業協同組合連合会を訪れた西村経産相(右)。野崎哲会長(左)は海洋放出への反対意見を述べた(C)共同通信社
最新の共同通信の調査で、「福島第1原発処理水放出に関する政府の説明は十分だと思うか」との問いに、「不十分だ」と答えた人は80.3%、「十分だ」は16.1%にとどまった。
「処理水を海洋放出した場合、風評被害が起きると思うか」の問いには、「大きな風評被害が起きる」「ある程度の風評被害が起きる」合わせて87.4%に達する。ところが「海への放出に賛成ですか」との問いには、「どちらとも言えない」が43.1%、「賛成」が31.3%、「反対」が25.6%で、つまり風評被害は出るに決まっているけれども、他に方法がないなら放出するしかないのかなと思っている人が相対的には多数ということである。
しかし政府も国民も、これをあまりにも他人事と捉えていないか。トリチウムが基本的に無害で、世界中で放出が行われていて、IAEAもわざわざ調査に来てこの程度なら大丈夫とお墨付きを与えた。「科学的データ」で見ればその通りだが、世の中が「合理」で割り切れるなら世話はなくて、実際には「非合理」の感情とか生き方とか魂とかいった要素で突き動かされている部分が小さくない。
考えてみていただきたいのだが、福島原発事故の後、福島の漁民たちは一時は全面的な操業・出荷停止に追い込まれ、それから一部制限付きで漁業を行えるようになったものの、その細々とした営みも吹き飛ばすような風評被害という情報の津波に襲われた。それをなんとか押し返そうと、県のモニタリング調査に加えて「試験操業」という仕組みをつくって自分らで放射能測定をして「科学的データ」で福島の魚が安全であることを必死で訴えた。
試験操業は事故から10年で終わったが、その後も漁協は「自主検査」としていわき、相馬双葉の両地区での魚のデータを公表している。例えば14日発表のデータを見れば、同日に四倉沖で取れたイシガレイの生が放射能不検出であったことなど、同日分だけで40件のデータが示されていて、彼らの涙ぐましいほどの努力がうかがえる。しかし、そこまでしてこの12年間闘ってきた漁民たちが直面しているのは、他都道府県向けの出荷はいまだに事故前の「2割」にとどまっているという過酷な現実である。
それを知った上で、新たな風評被害の波を引き起こすに違いない放出を強行するなど、人間のすることではない。「科学的データ」の名において漁民たちの魂を押しつぶすことはできない。
高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。
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