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※紙面抜粋
※2023年㋆8日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
アベ路線を邁進する岸田首相(成仏を邪魔するかのような「留魂碑」=右)/(C)日刊ゲンダイ
8日は、横死した安倍元首相の一周忌だ。葬儀が行われた東京・芝公園の増上寺で法要が営まれ、ジャーナリストの櫻井よしこ氏らが呼び掛け人となった追悼集会も都内で開催。昭恵夫人をはじめとする親族、岸田首相夫妻ら政府・自民党関係者が一堂に会した。これに先立ち、奈良市の銃撃現場から約5キロ離れた三笠霊苑に慰霊碑「留魂碑」が建立され、1日に除幕された。保守派による故人の英雄視には、気味の悪さがつきまとう。
この1年でより鮮明になったのは、憲政史上最長のアベ政治によって、この国がズタズタになったという事実だ。弱肉強食の新自由主義が跋扈。身内やオトモダチをえこひいきする縁故主義が蔓延。少数者に対する差別を政府与党が容認する醜い国であることをさらけ出した。安倍が掲げ、保守派が喝采を送っていた「美しい国」が聞いて笑う国柄だ。
目下、国民の政治不信を増幅させているマイナンバー制度を導入したのも第2次安倍政権だ。別人の情報が登録された一連の問題をめぐり、政府の第三者機関である個人情報保護委員会は制度を直接所管するデジタル庁に立ち入り検査をする方針。リスク管理と対策ができていないズサンな運用を問題視し、マイナンバー法に基づく行政指導も視野に入れているとされ、前代未聞の展開になっている。
2013年の法案審議では、当時の民主党など野党の反対を受けて利用対象は「税・社会保障・災害対策」に限定されたが、主眼は徴税強化と社会保障費抑制にあった。もっとも、富裕層の資産隠しを暴く仕組みはなく、標的はもっぱら一般市民。「税収というのは国民から吸い上げたもの」と国会答弁していた通り、安倍にとって身内でもオトモダチでもない庶民は搾取の対象でしかなかったのだ。米国隷従を貫き、米軍と一緒に戦争のできる国に作り替えるため、特定秘密保護法、安保法制、共謀罪法の戦争3法を強引にまとめた男だ。戦時体制を念頭に個人情報の一元管理を狙っていた可能性は十分にある。
「安倍元総理の魂はまだこの世に」
昨年末、安保関連3文書を改定し、敵基地攻撃能力の保有を閣議決定した際、岸田は「俺は安倍さんもやれなかったことをやったんだ」と高揚感を隠し切れない様子で周囲に語ったというが、ずいぶんな思い上がり。事の善し悪しは横に置くとして、前のめりでアベ政治に乗っかっただけのことだ。
本来なら、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)と自民党の半世紀を超える癒着が引き金となった銃撃事件を契機に、アベ政治を断ち切るべきであり、それが筋だった。しかし、現実は真逆で、ぐんぐん推進。安倍の子飼いだった高市経済安保担当相が「安倍元総理の代わりになる方は、誰一人いないと思っている。史上最長の首相としての在任期間を務め、日本の国力を強くするために大変な貢献をされた方だった」「日本人として日本を思う心、安倍元総理のその魂というのは、まだこの世にとどまっているんだろうなと思います」と言っていたのが象徴的だ。元経産官僚の古賀茂明氏の言葉を借りれば、今なお安倍的な妖怪支配が続く不気味さである。
古賀氏は著書「分断と凋落の日本」で安倍の最大の「功績」を岩盤右翼層を固めたことだと指摘し、こう書いている。
〈私は、この状況を「妖怪に支配された自民党」と呼んでいる。“昭和の妖怪”と呼ばれた岸信介元首相。その孫が安倍晋三氏だから、安倍氏は“妖怪の孫”である。そして“妖怪の孫”亡き後もなお、得体のしれない安倍的なものが政界に漂っている。まさに妖怪は滅びずいまもなお自民党を支配しているのだ。
そして、これがまた極めて重要なのだが、マスコミが安倍派忖度から抜けきれないのは、彼らも妖怪に支配されているからではないかということだ。特にテレビ局では過剰なまでの安倍派忖度があると聞く〉
〈さらに困ったことがある。
それは、私たち国民の心にもこの妖怪が忍び寄っていることだ。
10年前には議論されることさえなかった敵基地攻撃能力、防衛費倍増、憲法9条改正、原発新増設などの問題に賛成する層が拡大している。安倍氏よりさらに過激な政策を岸田氏が異様な勢いで進めているのに、それを国民が本気で止めようという動きが見えない〉
アベ政治離脱を阻む「呪文のような言葉」
一周忌でまたぞろ安倍礼賛や、愚にもつかない安倍派(清和会)の跡目争いをめぐる報道が目立っている。100人超を抱える党内最大派閥にもかかわらず、幹部連中は決め手にかけ、OBの森喜朗元首相がしゃしゃり出てきてキングメーカー気取りで差配。とりあえず派閥運営を仕切ってきた塩谷元文科相と下村元政調会長の両会長代理と、「5人衆」と呼ばれる萩生田政調会長、松野官房長官、西村経産相、世耕参院幹事長、高木国対委員長が主導権を争っている。週明けにも再度幹部会合を開く予定だが、決着の見通しは立たない。自壊すればシメシメではあるが、コトは安倍派にとどまらない。問題は負の遺産が今も脈々と続いていることだ。時事通信の〈残した言葉が「重し」に〉と題した記事(7日配信)で、国会で追悼演説をした立憲民主党の野田元首相もこう話していた。
〈影響力のある人だったので、残した言葉などが「重し」となり、なかなか変化させることができない状況を生み出している。例えば、異次元の金融緩和から正常化していかなければいけないが、「アベノミクスは道半ばだ」という呪文のような言葉がまだ続いている〉
右派カルトが牛耳る清和会に服従
戦後日本の平和国家としての歩みを止める安全保障政策の大転換、あの過酷事故を黙殺する原発回帰。岸田はいずれも国会で議論せず、閣議決定だけで決めた。足元では防衛装備移転三原則の骨抜きも進められている。第2次安倍政権で武器輸出三原則を改悪したのに飽き足らず、米国の手先となって国際紛争を助長しようというのである。岸田は年頭にブチ上げた異次元の少子化対策の財源をめぐり、「実質的に追加負担は生じないことを目指す」と言っているが、虚言だ。そういえば、首相秘書官だった長男の所業についても嘘を繰り返していた。アベノミクスによる円安物価高で実質賃金は14カ月連続でマイナスである。
説明拒否の密室横暴政治、憲法破壊の軍拡加速、その場しのぎの嘘横行、金融緩和という麻薬、インフレ国民負担増、富裕層優遇、米国隷従、今だけ金だけ……。この国の転落はまだ底が見えない。
政治評論家の本澤二郎氏はこう言った。
「第2次安倍政権で露骨になった国民無視の政治がなぜ連綿と続いているのか。それはアベ路線を踏襲すれば大所帯の清和会を懐柔でき、政権は安泰だからです。そして清和会のバックには戦前回帰を目指す右派カルトがいる。神社本庁の政治団体『神道政治連盟』や『日本会議』です。森元首相が現職時に〈日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知していただく〉と言って大騒ぎになりましたが、発言したのは神政連国会議員懇談会だった。小泉元首相は退任間際の終戦記念日に靖国神社を公式訪問。G7伊勢志摩サミットでは伊勢神宮を、広島サミットでは厳島神社を訪問した。どれもこれも、右派カルトの意向に応じたのです。防衛費を倍増し、マイナカードで国民に首輪をかけ、少子化対策で『産めよ増やせよ』。岸田首相の暴政の根源は保身のための米国隷従、カルト服従なのです」
民主主義はどんどん形骸化し、大半の国民は置き去り。ブレーキをかけるもかけないも、世論次第、選挙次第だ。
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