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児玉晃一弁護士「改悪入管法は廃止すべき」 審査はデタラメ、立法事実はいい加減なまま 注目の人 直撃インタビュー
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/325276
2023/07/03 日刊ゲンダイ
児玉晃一(弁護士)
弁護士の児玉晃一氏(C)日刊ゲンダイ
先週閉会した通常国会では改正入管法が強行採決で成立した。2年前に廃案に追い込まれたシロモノと大枠は同じ。国内外から人権侵害を指摘される希代の悪法が、さらに悪質になった。「改悪入管法の廃止を諦めない」と闘い続ける弁護士に、入管・難民行政の問題を聞いた。
◇ ◇ ◇
──岸田政権がゴリ押しした改正入管法の問題点を教えてください。
政府にとって最大の肝は、彼らが言うところの「難民申請の乱用者」、すなわち難民認定の申請3回目以降の外国人について、難民審査中であっても強制送還できるようにしたことです。改悪前は、難民申請中は送還できない「送還停止効」が例外なくすべての申請者に適用されていました。政府としては「乱用者」を速やかに帰国させるため、「送還停止効」の例外だけは何としても通したかったのだろうと思います。
──難民申請3回目以降の外国人を強制送還可能にした入管側の立法事実は、2005年から難民審査参与員を務める柳瀬房子氏(「難民を助ける会」元名誉会長)の国会での発言に依拠していました。21年4月の衆院法務委員会参考人質疑で「難民の認定率が低いというのは、分母である申請者の中に難民がほとんどいないということ」などと答弁しました。入管の審査で不認定とされ、不服を申し立てた外国人の審査を担う参与員の発言は非常に重いです。
柳瀬氏の主張を勘案すると、1年半の間に1人で500件の対面審査を行っていたことになります。斎藤法相は先月30日の会見で「1年半で500人は可能」と発言しましたが、その日の夜になって「あれは不可能の言い間違い」と訂正。翌31日の野党ヒアリングでは入管側が「年120件がせいぜいだろう」という言い方をしていました。
つまり、1年半で可能な対面審査は180件程度なのです。入管は柳瀬氏の発言に依拠して「本当の難民はほとんどいない」と言い張ってきたわけですが、そもそも柳瀬氏の審査そのものがデタラメだった疑いがある。立法事実がいい加減なまま法改正したのだから、審議をやり直す必要があります。願わくは、改悪法を廃止してほしい。
クルド人の認定率、ドイツでは9割超え
──いい加減な審査が、日本の難民認定率1%未満という異常な低さにつながっているのでは。
例えば、「国を持たない世界最大の民族」とも呼ばれるクルド人の場合、トルコ国籍の人はドイツでは90%以上が難民認定されている一方、日本では直近30年で男性1人しか認定されていません。ただし、認定されたのも、その方が難民不認定処分取り消しを求めて争った裁判で国が負けたからです。
昨年5月の札幌高裁の判決を受けて、クルド人のコミュニティーや支援者は「これで国が考え方を変えてくれる」「今まで不認定にされた人も認めてくれるのでは」と期待していたのに、この半年間1人も新たに認定されず、状況は変わっていない。国はたまたま負けてしまったぐらいにしか考えていないのでしょう。
新設された「監理措置」は憲法違反です
強行採決=8日、参院法務委員会(C)共同通信社
──難民認定率の低さが、入管による全件収容や長期収容につながっていると思わざるを得ません。韓国や台湾では無期限収容が違憲判決を下されていますが、日本は収容期限すらない惨状です。
改悪法で新たに〈収容に代わる監理措置〉が設けられ、入管はできるだけ収容せずに、収容施設から出した上で手続きを進めると説明をしています。国連が指摘しているように、本来なら収容に関しては入管だけの判断によらず、事前の司法審査、もしくは効果的な司法救済が必要です。
ところが、監理措置の可否は、入管の主任審査官の判断に委ねられています。逃亡や不法就労の恐れに加え、〈その他の事情〉も考慮要素とされます。つまり、〈その他の事情〉を加えたことにより、収容か監理措置かの要件はより曖昧になってしまったのです。これでは要件が存在しないも同然で、主任審査官の裁量で決まってしまう。極端なことを言えば、国籍や肌の色すらも考慮していいことになります。収容できる場面は限定されておらず、入管の掌中にあることは変わりがないのです。
──一時的に身柄拘束を解いて収容施設から出す「仮放免」よりも、「監理措置」の方が厳しい監視下に置かれるといわれています。
従来の「仮放免」は実務上、身元保証人を必ず付けることになっているのですが、入管が収容者本人の申請なく外に出す「職権仮放免」は保証人を付けない場合がありました。一方、監理措置は監理人が必ず必要。監理人が途中で立場を放棄したり、亡くなったりした場合、監理下に置かれていた元収容者は再び収容されてしまう。さらに監理人には、被監理人に定期的な出頭などの条件を守るよう指導する義務が課せられます。主任審査官が必要と認めたときには、元収容者の生活状況を入管に報告する義務も課され、それを怠った場合には10万円以下の過料の制裁があり得ます。
──収容者を助けたいと思っていても、監理人を引き受ける心理的ハードルは高そうです。
これまでは身元保証人に資格などの制限はなかったのですが、監理人に関しては入管が「元収容者を指導・監督できる」、あるいは「報告義務が課された場合に順守できる」という人を指名する仕組みです。つまり、「入管の手先」になることを拒絶する私のような弁護士や支援者は指名されないでしょう。「入管の手先」になって被監理人の生活状況を報告できるような人でなければ、そもそも監理人になれないのです。シビアなのは、収容者の家族です。例えば、配偶者が収容された場合、「監理人になれ」と言われて断れる人がいるでしょうか。きっと、苦しい思いをしますよね。
──家族や親族に監視の役割を負わせると。
端的に言って、監理措置は憲法違反です。憲法18条は〈犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない〉としています。つまり、意に沿わない苦役を課してはいけないと定めている。しかし、監理人は苦役を強いられる。したがって、「監理措置は原則収容主義からの脱却であり、人権に寄り添った制度である」という入管の宣伝とは全く異なる。
今までは仮放免中に逃亡した場合、入管に預けていた保証金を没収されるだけで罰則はありませんでした。しかし、監理措置中に元収容者が逃げれば3年以下の懲役を科せられます。仮放免中の就労がバレると仮放免取り消しで収容、保証金没収でしたが、監理措置ではそれらに加えて1年以下の懲役という刑罰が付いてくる。
入管は現在でも仮放免中の人の自宅に行ったり、近所に聞き込みをしたりしています。そして本人を尾行して、働いていたら身柄を押さえて収容する。そうした監視の役割を、監理人は入管に代わって背負わされてしまう。家族や近隣住民による相互監視の目を強める独裁国家のような制度です。
仮放免者めぐる訴訟を準備
──状況を変えるためには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。
国の制度を変えるには、司法・立法・行政によるアプローチが考えられますが、行政である入管に正面から訴えても絶対に変えてくれない。では、どうするか。私は弁護士なので、ホームグラウンドは法廷です。裁判を通じて変えていきたいと思っています。喫緊の課題は、仮放免者の生存をいかに守るか。入管は仮放免中の就労を禁じる一方、最低限の生活保障すらしない。つまり、仮放免者に「死ね」と言っているに等しいのです。いずれ仮放免者の生存に関わる問題を司法に訴えていきたいと考えています。
──残るアプローチは立法です。
改悪法を成立させるぐらいですから、今の政治の勢力分布からすると、いきなり現状を変えるのは当然難しい。選挙を通じて変えていくしかありません。そのために、入管や難民の問題を多くの人に知ってもらう。入管法をめぐっては、廃案になった2年前よりも、はるかに広く問題意識が共有された実感があります。審議の過程で何人も自民党議員にお会いしましたが、強硬な方もいれば、実態をよく知らないだけの方もいる。
日本で生まれたのに日本国籍を持てない、在留資格がなく中高生になってもオーバーステイの状態など、実情を知ってびっくりしている方もいます。入管の主張をうのみにしている政治家も、きちんと問題を知れば変わる可能性があると思っています。「日本の未来は……」と憂える政治家なら、難民・移民政策をきちんと考えてほしいですね。
(聞き手=高月太樹/日刊ゲンダイ)
▽児玉晃一(こだま・こういち) 1966年、東京都生まれ。早大法学部卒業後、94年に弁護士登録。95年から入管問題、難民問題に取り組む。マイルストーン総合法律事務所代表弁護士。「全件収容主義と闘う弁護士の会 ハマースミスの誓い」代表。編著に「入管問題とは何か 終わらない〈密室の人権侵害〉」(明石書店)など。
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