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※紙面抜粋
※2023年5月29日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
危険なカードを「持ち歩け」と…(河野太郎デジタル相)/(C)日刊ゲンダイ
コンビニで住民票を交付しようとしたら他人の証明書が出てきたり、別人の保険証や銀行口座と紐づいていたり。トラブル続きで、岸田政権が一斉点検に追い込まれたマイナンバーカード。
▼公金受取口座が別人の口座に紐づけられた事例は25日時点で14自治体、20件▼「マイナ保険証」では情報の誤登録が少なくとも7312件▼カード普及の「餌」として、ぶら下げた「マイナポイント」が他人に付与される被害が113件──とヒド過ぎるが、旗振り役の河野デジタル相は「デジタル庁としての感度が低かったことは、おわび申し上げないといけない」と平謝り。欠陥だらけのカード普及を見直すつもりは、さらさらない。
次々と欠陥が露呈しているのは、普及の遅れに焦った政府が新型コロナウイルス禍に便乗、挙げ句に健康保険証との一体化を国民に強制し、普及ありきの拙速対応をゴリ押ししたためだ。
証拠は残っている。2020年4月7日。当時の安倍政権が初めて緊急事態宣言を発令した当日、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を閣議決定した。計43ページに及ぶ文書には〈今回の危機をチャンスに転換し(中略)デジタル・ニューディールを重点的に進め、社会変革を一気に加速する契機としなければならない〉と記されている。
さらに同年7月に閣議決定した「世界最先端デジタル国家創造宣言」では〈危機に迅速に対応できる強靱な社会経済構造の一環として、マイナンバーカード・マイナンバーを基盤としたデジタル社会の構築を進める〉とし、22年度末までに〈ほとんどの住民がマイナンバーカードを保有している〉を目標に掲げた。議論の中間整理にはデジタル社会への移行4原則の1つに〈漸進主義ではなくショックセラピー型で抜本的に移行する〉との文言まで出てくる。
政府は「ピンチをチャンスに」を合言葉に人々の不安と混乱に乗じて、一気にカード普及を推し進めようとしたのだ。
マイナ保険証の強制は違法行為
そもそも16年1月にスタートしたマイナンバー制度は国民から総スカン。当時の世論調査に78%の国民が「不安を感じる」と答え、コロナ禍の20年6月末時点でも、マイナカード普及率は17.4%に過ぎなかった。
ところが、政府のコロナ便乗が奏功したのか、翌年6月末に普及率は34.2%に上昇。さらに22年9月末には49%と国民の半数近くがマイナカードを手にしたが、「ほぼ全国民に行き渡る」には程遠い。「22年度末」という目標時期が近づき、焦った政府は「禁断の手段」に打って出た。
昨年10月に河野が突然、「24年秋までに現在使われている健康保険証を原則廃止し、マイナカードと一体化する」と発表。今の保険証が使えなくなれば、マイナカードを作る以外に選択肢はない。事実上の強制だ。
政府は申請者に最大2万円分のマイナポイントを付与するという「アメ」も用意。このキャンペーンに投じた税金は実に1兆8000億円で、大学授業料の無償化を実現できる額だ。岸田首相肝いりの「次元の異なる少子化対策」の財源問題がバカらしくなる。
そのかいあってカード普及率は66.9%、申請率は77%(5月21日時点)に跳ね上がった。「ほぼ全国民」に行き渡り、河野は誇らしげだが、今年2月末のポイント付与の期限間際には駆け込み申請が殺到。混雑続きで役所の窓口が混乱した結果、誤登録というミスにつながった。
テレビ出演時に「そうだ! マイナンバーカード取得しよう」と書かれたTシャツまで着て、河野がカード普及をあおり、現場に負担を押し付けたせいで、トラブル続出を招いたわけである。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言った。
「政府が国民の個人情報を一元管理するマイナンバー制度は、カード交付の『任意』が開始の条件でした。根拠法にも住民の申請により交付する旨を定めてあり、作る、作らないは国民の自由が大前提。保険証廃止で選択肢を奪う『強制』は違法です。しかも、岸田政権は今年4月から従来の保険証とマイナ保険証の自己負担額を差別化。初診料はマイナが6円、従来は18円と3倍もの差をつけましたが、『法の下の平等』に反する違憲行為でしょう。これだけ欠陥が露呈した以上、少なくともマイナ保険証の強制は白紙に戻すべきです」
あらゆる個人情報を1枚にまとめる世界の非常識
国民の不安は増すばかりだが、河野は自身の公式サイトでマイナカードの安全面を強調。例えば「オンラインで利用する時にも、ICチップに入っている電子証明書を利用するので、マイナンバーは使われません」と主張するが、20年7月には他人になりすまして特別定額給付金をオンライン申請し、不正に受け取った詐欺事件が発生している。
首相公邸で、親族一同で忘年会を催し、赤じゅうたんが敷かれた階段で組閣ごっこに興じた翔太郎秘書官以下、岸田一族は有権者を舐めているが、ウソも方便とばかりにカード普及をあおる河野も、国民を愚弄している。
ここまでして政府がマイナカード普及にガムシャラになるのには、いくつもの理由がある。「GDP比2%の大軍拡路線にカジを切った手前、将来の大増税に備え、全国民の金融資産を把握し、徴税を強化するため」(金子勝氏=前出)というのが、そのひとつ。もうひとつは巨大利権だ。
マイナンバー事業の市場規模は1兆円。甘い蜜に群がるのは、制度設計に深く関与した大企業だ。13〜15年にはNTTデータ、NEC、日立製作所、富士通、大和総研、野村総研、沖電気工業と内閣官房の検討会議「情報連携基盤技術ワーキンググループ」のメンバー企業7社だけで発注額の8割を独占。各企業には所管官庁の総務省など関係省庁の幹部官僚が再就職していた。
国民にはデメリットだらけなのに、ホンの一握りの政府のお友達企業と天下り官僚だけがウハウハ。薄汚い癒着構造に加え、マイナンバー制度は財界の強い要請で導入された経緯がある。それだけ国民の個人情報パッケージは、喉から手が出るほど欲しいのだろう。
今すぐカードは返納すべき
おかげで本来は税金、社会保障、災害対策の3分野に限られていたマイナンバーの利用範囲はなし崩し的に拡大。昨年3月4日には24年度末までに運転免許証と一体化させる道路交通法改正案が閣議決定された。
さらに、個人情報を何に使うかについては、国会を通さずに範囲を拡大できるようになり、「規定された事務に準ずる事務」であれば、法律を変えなくても省令だけで扱う個人情報の種類が追加可能になった。
既往歴や服用する薬の種類、介護レベル、年金額、納税状況、銀行口座、保険証、免許証、母子手帳……情報管理はザルのまま、ありとあらゆる個人情報を1枚のカードに次々と紐づけようとしているのだ。
「政府は『マイナンバー制度は外国では常識、日本は遅れている』と説明しますが、健康保険証を廃止してカード取得を強制する国はありません。米国の社会保障番号制度は、なりすまし被害が多すぎてカードに『絶対に持ち歩くな』と注意喚起が印刷されています。ドイツはナチス時代の教訓から人に共通の番号をつけるのは憲法違反。他にも漏洩防止が徹底できず、制度を廃止する国も少なくない。これだけ多岐にわたる個人情報を1枚にまとめるのは世界の非常識。ズサンな情報管理で、まず普及ありきの異常さに国民も気付くべきです」(高千穂大教授・五野井郁夫氏=国際政治学)
こんな危険なカードを「持ち歩きましょう」と奨励する河野は、やはり有権者をバカにしている。悪辣なカード普及に国民はいつまで唯々諾々と従うのか。カードを作ってしまった人は今からでも遅くない。役所に行って返納すべきだ。
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