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※2023年5月6日 日刊ゲンダイ2・3面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※文字起こし
改憲派集会にビデオメッセージを寄せた岸田首相(C)共同通信社
だんだんむなしくなってくる。すっかり季節の風物詩のような扱いになってしまった。護憲派と改憲派がそれぞれ大集会を開いた、今月3日の「憲法記念日」の報道のことだ。
護憲派が東京の臨海部にある防災公園で行った集会には2万5000人が参加し、「大軍拡NO」「敵基地攻撃NO」などと訴えた。改憲派の集会には、800人が会場に集まり、2万人がオンラインで視聴した(いずれも主催者発表)。岸田首相がビデオメッセージを寄せ、「社会が大きく変化する今だからこそ挑戦し続けなければならない」と改憲への意欲を見せたという。
自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党の幹部は改憲派の集まりに顔を出し、立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組の幹部は護憲派に出席。国政政党が真っ二つに割れたことも報じていた。
この日だけは新聞も、1面トップで憲法を論じて問題提起する。
朝日は、岸田政権が安保3文書を改定し、「反撃能力」と言い換えた敵基地攻撃能力の保有を閣議決定したことについて検証した記事。これほどの防衛政策の大転換が議論なきまま進められた。「自衛のための必要最小限」という専守防衛の原則が揺らぎ、憲法を形骸化させかねない、と疑義を呈するものだった。
毎日は「改憲に踏み込むのか否か、岸田首相の本音が見えない」として、各党の立ち位置を解説する記事だった。
だが、読者にどれだけ響いただろうか。本来、憲法は権力者を縛るもの。その憲法が今まさに現在進行形で権力者によってないがしろにされているのに、“記念日報道”だけでは危機感は伝わらない。だから、「憲法破壊」が着々と進行していくのである。
憲法96条の手続きを使うべき
国会では衆院の憲法審査会が毎週のように開かれ、自民・公明・維新・国民の改憲勢力が、「9条への自衛隊明記」や「緊急事態条項」などの議論を加速。岸田の任期中に改憲を実現するためには、来年の通常国会で発議し、国民投票に持っていく必要があるなどのスケジュールまで語られている。
そんな雰囲気に流されてしまうのは危険だが、それ以前に、岸田が改憲議論を飛び越えて、勝手な解釈で敵基地攻撃能力を保有するという事実上の9条改憲を強行していることを、もっと問題にしなきゃいけない。
岸田は敵基地攻撃能力の保有について、「憲法の範囲内であり、専守防衛の堅持、平和国家としての歩みをいささかも変えるものではない」と言い張る。しかし、トマホークのような長射程ミサイルを発射して「やられる前にやっちまえ」の論理のどこが専守防衛なのか。
GDP比2%へと防衛費を倍増することも、議論なきまま閣議決定したうえ、一部に借金である建設国債を充てることまで決めてしまった。これも憲法に基づく財政民主主義を逸脱している。「防衛装備移転三原則」を見直し、殺傷能力のある兵器を輸出するための議論も始まり、平和憲法などなきがごときだ。
岸田は3日に掲載された産経新聞のインタビューで、改憲の賛否を問う国民投票の早期実施に意欲を示したという。だが、改憲せずとも憲法破壊を進めている姑息な岸田が、国民投票なんてやるものか。これまで通りの「裏口入学」的手法をさらに加速させるのだろう。
立憲の枝野幸男前代表が「好きなように(改憲を)発議させ、国民投票で否決するのが一番早い」と言っていたらしい。少なくとも国民投票をするなら国民にも審判のチャンスがあるが、それもやらない岸田は国民を愚弄している。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)が言う。
「敵基地攻撃は先制攻撃であり侵略。専守防衛を超えています。どうしてもやりたいなら、憲法96条の改正手続きを使うべきであり、主権者国民の意見を聞かなければならない。とりわけ、岸田首相は『憲法を守る』と言っているのですからね。まずメディアは、そのことを報じるべきなのに、それには触れず、『敵基地攻撃能力の保有とはこういうものだ』という解説ばかりしている。そんなだから、世論が『敵基地攻撃はやむを得ない』に集約されていってしまう。いつの間にか、事実上の改憲がひとり歩きしてしまうのです」
憲法クーデターを許す日本は人治国家
閣議決定で何でも進める「裏口入学」的手法は、安倍政権時代からの悪しき手口だ。
これが岸田へ引き継がれ、どんどんエスカレートしている。
集団的自衛権の行使を容認した2014年の閣議決定は、憲法の解釈変更によって行われた。それを法律として反映したのが、翌15年に成立した安全保障法制。平和安全法制などと言い換え、ごまかしたが、当時、ほとんどの憲法学者や歴代の内閣法制局長官が「憲法違反」だと断言したシロモノである。
自民党推薦の参考人として衆院憲法審査会に出席した憲法学者にまで「違憲」だと言われた赤っ恥法案だったが、反対する国民が国会議事堂を取り囲む中、安倍自民は安保法成立を強行。日本を米国と一緒に戦争のできる国にしてしまった。
集団的自衛権の行使は今だって違憲性が高い。勝手な解釈変更で憲法や法律を変えるのは民主国家のやることではない。しかし、いったん成立してしまえば、大メディアは問題にしない。既定路線になってしまう。その延長線上にあるのが、憲法と矛盾する安保3文書の改定であり、敵基地攻撃能力の保有なのだ。こんなことばかり許されていいはずがない。
政治評論家の本澤二郎氏はこう言う。
「日本の憲法のすごいところは、武器を放棄した非戦の憲法であること。国家による人殺しをやめさせるという人類の悲願を実現した最高のものだという認識が欠けています。戦争3法(安保法、特定秘密保護法、共謀罪)の次は、敵基地攻撃能力の保有と43兆円の巨額防衛費。いつでも戦争できる戦争準備資金づくりは、平和憲法の理念を根底から覆すものです。大メディアはそれが分かっているにもかかわらず、なぜ真っ向から否定しないのか」
会期末まで解散政局報道の愚
そうした国家国民の危機よりも、大メディアの関心は「岸田がいつ解散総選挙をするのか」といった政局ばかりだ。GWの外遊先での記者会見でも質問し、岸田が「今は考えていない」と答えたと伝えていたが、あれやこれやの解散話が6月の国会会期末まで垂れ流されるのだろう。
そんなだから、憲法破壊に歯止めが利かない。「専守防衛の範囲内だ」と強弁するだけで「手の内は明かさない」などとホザいて説明を拒否する悪辣首相が放置される。日本は果たして法治国家と言えるのだろうか。
「憲法96条の改憲手続きを使わないで事実上の改憲をするのは、立憲主義に反するうえ、民主主義ではありません。敵基地攻撃能力の保有を認めた安保3文書の改定は、『憲法クーデター』です。こんなクーデターを許したら、日本では憲法で権力者を縛ることができなくなってしまう。今こそマスメディアは本気で動かないと、内閣の暴走は止められない。国会では軍事立法のオンパレードじゃないですか。反対運動をする時間もないほどの早い動きです。憲法クーデターで法治主義も否定され、これでは内閣の独裁という『人治主義』です。この国は『新しい戦前』への分岐点に差しかかっています」(金子勝氏=前出)
そして、人治国家の首相が外遊先では「法の支配」を説いて回る倒錯。それも垂れ流す大メディアの罪は重い。
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