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※紙面抜粋
※2023年4月19日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
ドイツは脱原発完了。そのドイツ(上写真の右端)から「海洋放水は歓迎できない」ときっぱり(C)共同通信社
大メディアが連日、岸田首相の襲撃事件ばかり報じているために気付いていない国民もいるのではないか。ほとんど黙殺扱いされていると言っていい「ドイツの脱原発完了」のニュースのことだ。
ドイツは原発の安全性への懸念から、2002年に脱原発を法制化した。
そして11年に東京電力福島第1原発事故が起きると、22年末までに全ての原発を停止することを決定。段階的な原発廃止を進めてきたのだが、同年2月のロシア軍のウクライナ侵攻で、ロシアからの天然ガスの供給が滞るようになったことから、全基廃止を今月15日まで延長。そして同日夜(日本時間16日朝)、最後に残った原子炉3基が送電網から切り離され、電力供給を停止。初の供給開始から60年超にわたって続いてきた原子力事業についに終止符が打たれたのだ。
「(脱原発は)核の脅威を最小限に抑える正しい選択だ」
「原発のリスク軽視は無責任だ」
「(脱原発は)ドイツをより安全にする」
先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合に出席するために来日し、原発事故で被災した福島県の自治体や廃炉作業が続く福島原発を視察したドイツのレムケ環境・原子力安全相は、日本メディアの取材に対して、脱原発の目的や意義についてこう答えていたという。
原発事故の教訓を生かす独と何もしない日本
脱原発に対し、産業界などからはエネルギー危機を懸念する声も出ているドイツ。それでも、ハーベック副首相兼経済・気候保護相は「(原子炉は)遅かれ早かれ解体される」と意に介さず、来年にも廃炉作業を本格化させる見通しという。
翻って日本はどうかといえば、ドイツとは真逆の動きだ。岸田政権はウクライナ危機に乗じて「原発回帰」の動きを鮮明にし、福島原発事故後に改正された原子炉等規制法で決まった、原発運転期間の「原則40年」「原子力規制委員会の認可で1回に限り最長20年延長」という方針を転換。「60年超」運転を事実上、可能とする仕組みを整備する方針を打ち出した。
それだけではない。原子力政策の方向性を示す「行動計画案」には、「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設を進めていく」との文言が盛り込まれ、脱原発どころか原発の新規建設や再稼働にも踏み込んだのだからワケが分からない。
原発ではどんな小さな損傷も大事故につながる可能性があり、いったん事故が起きれば制御不能になりかねない。日本国国民は福島原発事故で嫌というほど身に染みたはずだ。レムケ環境・原子力安全相が主張していた通り、そうした「原発リスク」に対して政府や電力会社が軽視するような姿勢は極めて無責任であり、倫理的にも決して許されることではない。
果たして福島原発事故の教訓を真剣に受け止め、後世に向けて生かそうとしているのはドイツと日本の一体どちらなのか。答えは明々白々だろう。
過去にエネルギー政策にも関わったことがある元参院議員の平野貞夫氏がこう言う。
「福島原発の事故を受け、ドイツは再生エネルギーなどの研究、開発に向けて国家を挙げて取り組んだ。その結果、原発にかわる新エネルギーのメドがついたのでしょう。他方、日本は違う。安全保障の重要性を叫ぶのであれば、本来は武器開発ではなく、新たなエネルギー開発や食料自給率の増加などに注力するべきですが、そうした動きは見えない。日本は目先のことばかりで、先を見ていないのです」
日本がG7から弾き出されるのも時間の問題
岸田襲撃事件にかき消された重大ニュースはまだある。福島原発処理水の海洋放出を巡るG7共同声明のスッタモンダだ。
政府や東電は、福島原発から出る放射性物質トリチウムを含む処理水の放出について、「今年春から夏ごろ」の実施を計画しているものの、中国などが強い懸念を示している。そこで日本政府は、海洋放出の安全性に対する“お墨付き”をG7各国から得たい考えで、当初の声明案では「IAEAの安全基準と国際法と整合し、科学的根拠に基づいた海洋放出への取り組みを含めた廃炉の着実な進展を歓迎する」との文言が盛り込まれる予定だったという。
ところが各国から明確な賛同は示されず、結局、「着実な廃炉作業とIAEAとの透明性の高い日本の取り組みを歓迎する」との表現に変更されたのだが、当然だろう。
そもそも政府、東電は18年まで、原発敷地内のタンクに貯蔵されている汚染水の中にはトリチウム以外にも規制基準以上の放射性物質が残っていたことを公表しなかったばかりか、処理水の定義を「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」とコッソリ修正。
さらに海洋放出を決める際には地元漁協などの理解を得る──とした約束もアッサリと反故にしたわけで、こうした経緯を振り返れば各国の理解が得られるはずがない。
G7会合後、レムケ環境・原子力安全相が「処理水の放出を歓迎することはできない」と断じていたのも当たり前だ。
議長国なのに化石燃料の延命策を打ち出す愚
G7の共同声明で日本が“お墨付き”を得られなかったことは他にもある。地球温暖化を防ぐための石炭火力発電の廃止などをめぐる対策についてだ。16日に採択した共同声明では、二酸化炭素(CO2)排出削減の対策を講じていない化石燃料を「段階的に廃止する」方針が盛り込まれたのだが、焦点の石炭火力では、再生可能エネルギー導入で先行するドイツや英国が「30年までの段階的な廃止」を要求。これに対し、日本は30年度も電源の19%を石炭火力に依存しつつ、水素やアンモニアを化石燃料と混焼し、CO2の排出を減らす技術への理解を求めたのだが、化石燃料の延命につながる、として賛同を得られなかった。
化石燃料の全面廃止をリードするべき立場の議長国である日本が腰が引けた「延命策」を打ち出すトンチンカン。唖然呆然としてしまうが、ある意味、それも無理はないだろう。もともと本気で化石燃料を廃止する姿勢が感じられないからだ。
日本は昨年11月にエジプトで開かれたCOP27(国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議)でも、環境団体の「気候行動ネットワーク」(CAN)から、地球温暖化対策に消極的な国として「化石賞」を贈られていたが、日本はこの賞の“常連”。これでは、どんなに目先を変えたゴマカシ策を打ち出したところで、各国が「OK」と言うはずがないのだ。
大メディアは岸田政権の支持率が7カ月ぶりに上昇した、などと大ハシャギで報じているが、G7声明を巡る日本政府のドタバタや、原発再稼働に向けて勝手に突き進む岸田暴政のおかしさを伝えないでいて、支持率もへったくれもないだろう。
政治評論家の本澤二郎氏がこう言う。
「原発回帰に専守防衛の逸脱、唱えるだけの少子化対策……。メディアが健全であり、問題意識を持って、伝えるべきことを伝えるという当たり前の作業、役割を果たしていれば、今の岸田政権はとっくに消えている。支持率回復など本来はあり得ない話なのです。つまり、政権支持率の上昇が示している意味とは、メディアが劣化しているという裏返しと言っていいでしょう」
日本がG7などと浮かれているのも今だけ。弾き出されるのも時間の問題だ。
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