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開戦3か月 どうなるガザ戦闘/出川展恒・nhk
2024年01月11日 (木)
出川 展恒 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/490958.html
■パレスチナのガザ地区で続いているイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘は、今月7日、開戦から3か月を迎えました。これまでに、双方合わせて2万5000人近くが犠牲になり、人道危機も極めて深刻ですが、収束の見通しは全く立っていません。長期化するガザ地区の戦闘の現状と今後を考えます。
■解説のポイントは、▼戦闘と人道危機の現状。▼高まる紛争拡大のリスク。▼戦闘とガザ地区の今後。以上3点です。
■最初のポイントから見てゆきます。
去年10月7日、ハマスによる大規模な奇襲攻撃を受けて、イスラエルのネタニヤフ首相は、「ハマスの壊滅」、「人質全員の解放」、そして、「ガザ地区が再び脅威にならないようにすること」を目標に掲げ、徹底的な攻撃を続けてきました。
イスラエル軍は、ガザ地区の北部については、ハマスの指揮系統を破壊したとして、攻撃の重点を、中部と南部に移しています。空爆と地上部隊の侵攻によって、地下トンネルをはじめ、ハマスの軍事施設を徹底的に破壊するとともに、シンワル指導者を筆頭に、幹部や戦闘員らを殺害することを当面の目標としています。学校や病院なども容赦なく攻撃し、ハマスとは関係のない大勢の民間人が犠牲になっています。
ガザ地区の保健当局によりますと、10日時点で、亡くなった人は、2万3300人を超えました。ガザで暮らすパレスチナ人の100人に1人が命を落とした計算です。このうち、およそ70%は女性と子どもで、国連によりますと、3か月間でこれほど多くの子どもたちが犠牲になる紛争は、近年、例がないということです。
そして、ガザの人口の85%を超える190万人が住む家を追われ、避難生活を余儀なくされています。避難所はどこも人であふれ、定員の4倍以上が殺到した所もあります。食料が極端に不足していて、およそ60%の住民が、飢餓、または、深刻な栄養不足に直面しています。安全な飲み水もなく、寒さと衛生状態の悪化で、感染症や下痢に苦しんでいます。ガザ地区にある36の病院のうち、26の病院が攻撃で破壊され、基礎的な医薬品も足りず、満足な治療が受けられません。国連で人道問題を担当するグリフィス事務次長は、「ガザ地区は、死と絶望の場所となった。人々が避難した場所まで攻撃にさらされ、あらゆる物資が決定的に不足している」と述べ、一刻も早い戦闘の停止を訴えています。
■ここからは、この紛争が拡大するリスクが高まっている現状を見てゆきます。
▼まず、パレスチナ暫定自治が行われているヨルダン川西岸地区でも、イスラエル軍の攻撃やパレスチナ側との衝突が激しくなり、犠牲者が増え続けています。
▼次に、イスラエルと国境を接するレバノンで、緊張が極度に高まっています。2日、首都ベイルートで、ハマスの政治部門のナンバーツーのアルーリ幹部ら7人が、イスラエル軍のドローンによると見られる攻撃で殺害されました。さらに、8日、レバノン南部で、イスラム教シーア派組織ヒズボラのタウィル司令官が、9日も、ヒズボラの幹部ら4人が、イスラエル軍の空爆で殺害されました。ハマスとヒズボラは、ともにイランの支援を受け、イスラエルと戦う共闘関係にあります。ヒズボラの最高指導者ナスララ師は、「必ず報復する」と宣言しました。今後、レバノンを舞台に、イスラエルとヒズボラの戦闘がエスカレートするリスクが高まっています。
▼そして、もう1つは、イランの支援を受けるイエメンの反政府組織「フーシ派」が、去年10月以来、ハマスとの連帯を掲げ、紅海を航行するイスラエルに関係する船舶に対し、ミサイルやドローンを使った攻撃を、20回以上繰り返していることです。これまで、イスラエル軍やアメリカ軍に迎撃され、犠牲者は出ていませんが、各国の海運会社が紅海を通るルートを避け、遠回りのルートを利用して、輸送コストが上昇するなど、国際物流への影響が出ています。アメリカは有志連合をつくって、各国の海軍とともに船の安全を守る体制をつくっており、今後、武力衝突が起きる可能性も排除できません。
▼さらに、シリアでも、先月25日、イランの精鋭部隊「革命防衛隊」の軍事顧問が、イスラエルによると見られるミサイル攻撃で殺害されています。
こうした事件が相次いでいるため、イスラエルと敵対する地域大国イランの動向に世界の目が注がれています。イランの指導部は、イスラエルやアメリカと直接衝突することは望んでいないと見られますが、今後、偶発的な出来事をきっかけに、本格的な地域紛争に発展した場合、エネルギー価格の高騰は避けられず、日本を含む世界経済と政治に与える影響は計り知れません。
■ここから3つ目のポイント、この戦闘とガザ地区の今後についてです。
アメリカのブリンケン国務長官は、今週、今回の軍事衝突をめぐって、4度目となる中東歴訪を行いました。ヨルダン、カタール、サウジアラビア、イスラエル、パレスチナ暫定自治区、エジプトを訪問し、紛争の拡大を防ぐため、各国の協力を求めました。合わせて、去年11月以来となる、戦闘の一時的な停止と人質の解放を実現させる道筋を探りました。9日、ネタニヤフ首相と会談したブリンケン長官は、記者会見で、「あまりにも多くの罪のないパレスチナ人が犠牲になっている」と指摘し、民間人の犠牲を極力避けるとともに、近隣の国々に紛争が拡大しないよう求めたことを明らかにしました。
しかし、ネタニヤフ首相から、具体的かつ実効性のある回答は引き出せなかったもようです。
ネタニヤフ首相は、「すべての目標が達成されるまで戦争はやめない。さらに何か月も続くだろう」と述べています。一方のハマスも、完全な停戦を要求して、徹底抗戦する構えを崩しておらず、一時的な戦闘停止さえ実現の見通しが立たない状態です。
背景には、ネタニヤフ首相が直面する内政面の事情があるようです。ハマスによる大規模な奇襲攻撃を未然に防げなかった責任を追及する声があがり、世論調査での支持率も大きく下がっています。公約したハマスの壊滅と人質の解放を実現できないまま停戦に応じれば、政権の座にとどまることはできなくなる。最終的には、自らの汚職問題で収監されるおそれもあるという強い危機感が働いているものと、内外の専門家は見ています。
停戦を実現した後、徹底的に破壊されたガザ地区を誰が統治するのかという問題も、まだ白紙の状態です。10日、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長と会談したブリンケン国務長官は、「ガザ地区とヨルダン川西岸地区は、暫定自治政府が統治すべきだ」とするバイデン政権の基本的な立場を伝える一方、汚職体質や統治能力の問題が指摘される暫定自治政府の抜本的な改革を行うよう求めました。
一方、イスラエル側は、こうしたアメリカの姿勢に強い難色を示しています。ガラント国防相は、先週(4日)、「イスラエルはガザ地区の統治には携わらないが、脅威を取り除くため、イスラエル軍がガザ地区で自由に活動できるようにすべきだ」とする考えを示しました。これをパレスチナ側が受け入れるはずはありません。
ネタニヤフ政権内部の意見も割れています。連立政権の中核を占める極右政党は、パレスチナ側にガザ地区の統治の権限を委ねることに強硬に反対しています。極右政党の過激な主張は、停戦の実現を阻む大きな障害ともなっています。
■ガザ地区で続く戦闘は、さらに拡大する可能性もはらんでおり、全く予断を許さない状況です。この戦闘が、いつ、どのような形で終わり、その後のガザ地区を誰が統治するのか。これは、世界の平和と安定を左右する問題として注目する必要があると考えます。
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