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厳しさ増す冬の戦い〜ウクライナは戦い続けられるか/津屋尚・nhk
2023年12月28日 (木)
津屋 尚 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/490805.html
ウクライナ軍は反転攻勢の作戦で成果を上げられず、戦闘は今こう着状態に陥っています。ウクライナの兵士や国民の間にも「戦争疲れ」が見え始め、アメリカからの軍事支援が途絶えてしまうことへの懸念も強まる中で、厳しい冬を迎えたウクライナの戦いはこれからどうなるのか。ウクライナの戦いの現状と課題を考えます。
■不発に終わった反転攻勢
2023年6月から半年をかけたウクライナ軍の反転攻勢の作戦は、欧米から供与された兵器などで武装した大規模な地上兵力がザポリージャ州を一気に南下してロシア軍を東西に分断する計画でした。しかし、前進できたのは極わずか。現地は厳しい冬を迎えて戦況はこう着状態に陥って、東部ではロシアが攻勢を強め、ウクライナ軍が後退を余儀なくされるところもでています。
■こう着打開に向けた課題
戦闘の現状について、ウクライナ軍のザルジニー総司令官は先月、公表した論文の中で、「戦場は、互いに塹壕から砲撃しあう“陣地戦”に陥っており、これを脱しなければ戦争は長期化し、国力でまさるロシアが有利になっていく」と訴えました。
ウクライナが保有する欧米の主力戦車などは、部隊が素早く移動しながら攻撃する“機動戦”でこそ威力を発揮しますが、動きが止まってしまっては、強みは失われてしまうのです。
論文は、反転攻勢が失速した要因も具体的に指摘していて、それはどれも、こう着状態を打開する上でウクライナ軍が乗り越えるべき課題でもあります。最大の課題とされたのは、▽ウクライナの想定を大きく超える規模の“地雷原”の存在です。中には幅20kmにもわたって続く地雷原もあり、処理をしてもすぐに別の地雷が敷設されてしまいます。
▽そして、「航空優勢」(いわゆる制空権)がとれないことも苦戦の理由です。制空権がない中では、ウクライナの地上部隊は味方の戦闘機から援護をえられず、ロシア軍からの砲撃にさらされて、前進ができないのです。
▽また、「欧米からの軍事支援の遅れ」も苦戦の要因です。各国の供与決定の判断が遅く、 必要な時に兵器が届きませんでした。その最たるものが、F16戦闘機です。
ウクライナ軍の主力ミグ29がロシア軍最新のスホイ35などと対峙した場合、ミグが搭載できるミサイルは射程が短いため、危険をおかしてロシア側の射程圏内に入らなければ相手にミサイルは届きません。これがF16なら、相手の射程圏外からミサイルを発射でき、ロシア軍の拠点なども効果的に攻撃できる可能性が高まります。F16はオランダやデンマークが8月に供与を決め、最近になってようやくオランダが18機を引き渡す準備を始めました。今も続くパイロットの訓練がいつ終わり、F16がいつ実戦に投入できるのか注目されます。
▽さらに、大量の兵士を捨て駒のように使う、いわゆる「人海戦術」もウクライナ軍を苦しめてきた要因です。突撃兵が波のように次々と押し寄せることで、迎え撃つウクライナ兵は疲弊し、弾薬の消耗を強いられるのです。自軍の兵士の犠牲をまったく意に介さないロシア側の戦術にどう対応するかも課題になっています。
■“戦争疲れ”を克服できるか
さて、戦争に終わりが見えない中で、ロシアに対する徹底抗戦を支えてきた兵士や国民の間には、“戦争疲れ”が見え始めています。塹壕にこもるなどして戦い続ける兵士たちは、極度の緊張と疲労にさいなまれています。弾薬不足も深刻で、戦闘の現場からは、「すべての戦線で砲弾が足りなくなっている」「守勢に転じざるをえない」といった声がメディアを通じて伝えられています。ウクライナに送られるはずの弾薬がイスラエルに送られていることが影響しているとの指摘もあります。
こうした中、ウクライナ国内では、賄賂によって徴兵逃れをはかるケースや成人男性の国外逃亡も後を絶たず、ウクライナ軍は兵員の確保という課題にも直面しています。ウクライナの60歳以下の成人男性は原則、出国が禁じられていますが、開戦以来2万人以上が不法に国外に逃れようとして身柄を拘束されたとイギリスBBCは伝えています。戦争の長期化に備えて兵力を維持するには、50万人規模の追加動員が必要との指摘もあり、ウクライナ政府は、徴兵の最低年齢を27歳から25歳に引き下げる法案を議会に提出しました。ただしこれは、国民にとって非常にセンシティブな問題です。
一方、戦場から遠く離れた都市部もミサイル攻撃にさらされ続け、戦況も好転しない現状は、国民の心理にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。
ウクライナで今月行われた最新の世論調査によると、「戦争の長期化などにつながるとしても、決して領土を手放すべきではない」との回答が74%でした。国民の大半は依然として、クリミアを含め侵略された全ての領土の奪還まで戦い続けることを支持しています。しかし、過去1年の推移をみると、今年2月の87%をピークに徐々に減り続けています。「領土の一部放棄もありうる」との回答は1年前の2倍以上の19%と、交渉による解決を望む声が少しずつ増える傾向にあります。
市民の苦境に追い打ちをかけるように、ロシアはこの冬再び、ミサイルやドローンを使って、都市や電力などのインフラへの攻撃を強めています。ウクライナ国民は侵略に抗う強い意志を持ち続けることができるのか、試練の冬です。
■鍵握るアメリカの軍事支援
仮にウクライナの人々が意志を保てたとしても、手段がなければ戦い続けることはできません。そこで最大の鍵は、“支援疲れ”も指摘されるアメリカからの軍事支援の行方です。
最大の支援国アメリカは、600億ドル(およそ8.6兆円)という巨額のウクライナ支援予算案が野党共和党の反対で議会の承認が得られないまま年を越します。
ブリンケン国務長官は、年内最後の軍事支援の発表にあわせて、「議会は可能な限り迅速に行動することが緊急の課題だ」と述べ、予算承認を重ねて求めました。
ゼレンスキー大統領は「アメリカは裏切らないと確信している」と述べていますが、このまま議会の承認がえられなければ、支援の予算は枯渇します。そうなれば、アメリカからの軍事支援が途絶え、ウクライナは戦争の継続が極めて難しくなります。
それは、この戦争でロシアが勝利することを意味します。
■「ウクライナ敗北の高い代償」
そのような結末は、世界にどのような影響を及ぼすでしょうか。
戦況の分析を続けるアメリカの戦争研究所は今月、『ウクライナ敗北の高い代償』と題する報告書を発表しました。その中で「欧米が支援を打ち切り、ロシアが勝利した場合、ロシア軍の兵力がNATOとの境界線にまで迫る恐れがある。アメリカは大規模兵力のヨーロッパ配置を余儀なくされ、そのコストは天文学的なものとなるだろう」と指摘しました。さらに「世界でアメリカの抑止力は低下し、中国の台湾侵攻が起きた場合のアメリカの対応能力も大きく損なわれるほか、ロシアが勝利すれば、アメリカに敵対する国々に有利な世界秩序が再形成されることになる」と強く警告しています。
■世界の秩序に関わる問題
年を越して続く戦いの行方を見通すのは難しく、ロシアの侵略に抗おうとするウクライナの人々は今、極めて厳しい状況に直面しています。そうした中でもウクライナは戦い続けることができるのか。それは、世界の将来や秩序にも関わる問題です。他国の国土を蹂躙し残虐行為を続ける側が勝者となる事態を避けるためにどう行動するのか、アメリカをはじめ国際社会の対応が問われています。
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