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朝鮮半島 緊迫する"2つのコリア"/高野洋・nhk
2023年12月07日 (木)
高野 洋 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/490233.html
朝鮮戦争の休戦から70年となった朝鮮半島では、軍事境界線を挟んで対峙する韓国と北朝鮮の関係が緊迫の度を増しています。
ともに初めてとなる軍事偵察衛星を打ち上げ、緊張緩和を目指して5年前に結ばれた南北軍事合意は“有名無実化”。偶発的な衝突の可能性も懸念されています。対立が先鋭化する“2つのコリア”の今を考えます。
まず、最近の南北の動きを振り返ります。
北朝鮮は11月21日、初めての軍事偵察衛星「マルリギョン(万里鏡)1号」の打ち上げに、3度目にして成功し衛星が地球周回軌道に正確に進入したと発表。さっそく沖縄やグアム、韓国にあるアメリカ軍基地、アメリカ本土のホワイトハウスや国防総省などを撮影したと主張しました。軍事偵察衛星で得られた情報を運用する新たな組織が12月2日から任務に着手したとしています。
「万里を見下ろす『目』と万里をたたく『拳』を手に入れた」。キム・ジョンウン(金正恩)総書記の言葉です。「目」は軍事偵察衛星を、「拳」はミサイルを指します。
撮影された画像は公開されておらず、衛星の性能は定かではありません。今後も鮮明な画像はおそらく明らかにしないでしょう。ただ、韓国の専門家の間では、解像度こそ低いものの、アメリカ軍の空母などの位置を把握し攻撃対象を絞り込むには十分だという分析もあります。効率的なミサイル運用に向けて新たな一歩を踏み出したのは間違いなく、背後でロシアが支援していれば衛星技術は向上するかもしれません。
北朝鮮は、今年の事業を総括し来年の重要政策を決めるため12月下旬に開く朝鮮労働党の中央委員会総会で、来年、複数の軍事偵察衛星を追加で打ち上げる計画を決定するとしています。
これに対し韓国も、競い合うように宇宙空間から監視する「目」を手に入れました。
12月2日、韓国初の軍事偵察衛星がアメリカから民間のロケットで打ち上げられました。アメリカ頼みだった衛星情報を独自に収集できるようになったことで、北朝鮮による弾道ミサイル発射の兆候を捉えて先制攻撃で破壊する能力を高めていくとしています。
韓国政府は、再来年までに全部で5機の軍事偵察衛星を打ち上げて運用する計画です。
また、韓国は11月22日、再三の警告をかえりみず衛星の打ち上げを強行した北朝鮮への対抗措置を即座に打ち出しました。南北軍事合意の一部効力停止です。
2018年9月に南北が署名した軍事合意のうち、韓国が効力を停止したのは、軍事境界線の上空の飛行禁止区域を定めた部分です。固定翼の航空機やヘリコプターのような回転翼機、それに無人機や気球を含む全ての機種について、軍事境界線から最大で40キロ以内の飛行が禁じられていますが、韓国軍はこの空域での偵察・監視活動の再開に踏み切りました。
韓国軍が警戒するのは、北朝鮮が軍事境界線近くに配備した大量のロケット砲の存在です。北朝鮮より優れた偵察・監視能力を持つ韓国軍の活動が合意によって制限されてきたという不満も背景にあります。
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これを受けて北朝鮮は11月23日、今後は合意に縛られず軍事境界線付近に強力な武力や新型の軍事装備を配置すると表明。事実上の合意破棄とも受け止められています。
▼北朝鮮は合意後に韓国側と1キロ以内で近接する監視所11か所を撤去していたのですが、それらが元に戻され、重火器が運び込まれたのを韓国軍が確認しました。▼また、パンムンジョム(板門店)のJSA=共同警備区域では、非武装化で合意していたにもかかわらず、北朝鮮の警備兵が拳銃の携帯を再開しました。▼さらに、北朝鮮軍が朝鮮半島西側の黄海沿岸で砲門を開けている大砲の数は、これまで1、2か所だったのが、最近は10か所以上に上っていて、軍事的緊張を高めていく可能性もあります。
いまだ冷戦構造が残る朝鮮半島ではこれまで融和局面と対立局面が繰り返されてきました。
南北の軍事境界線の周辺では、時々の情勢を反映してさまざまな出来事がありました。
▼2003年から2007年にかけては、北朝鮮南西部のケソン(開城)で南北の経済協力の象徴とされた工業団地の操業が始まるなど、おおむね融和ムードでした。
▼ところが2008年から2017年にかけて、景勝地のクムガン(金剛)山で韓国人観光客が北朝鮮軍兵士に射殺される事件が起きるなど、たびたび緊張が高まりました。
▼それが2018年になると一転。11年ぶりとなる南北首脳会談がパンムンジョムで相次いで開かれ、緊張緩和に向かいます。
▼しかし、これもつかの間。2020年、南北の当局者が常駐する共同連絡事務所は、韓国の脱北者団体が飛ばした体制批判のビラに反発した北朝鮮によって爆破されました。それ以降、韓国の政権交代もあって再び対決色が強まっています。
今の南北関係は、対立局面の真っただ中にあるわけです。
北朝鮮は去年以降、核・ミサイル開発を異例のペースで加速。9月の最高人民会議では憲法を修正して「核兵器の高度化」を明記し、戦術核の先制使用も辞さない姿勢を強調しています。
これまで韓国を「南朝鮮」と呼んできた北朝鮮ですが、この夏以降は、カッコ付きで「大韓民国」と正式名称で呼ぶケースが目立っています。韓国を「統一の対象」ではなく、突き放す形で「別の国家」と見なし始めたという見方が出ています。韓国との窓口機関・祖国平和統一委員会も公式報道に登場しなくなりました。
先に中国で開かれたアジア大会では、北朝鮮選手らが韓国選手との記念撮影や握手を拒否。北京にある北朝鮮レストランでは、従来お得意さんである韓国人客が入店を拒否されるケースもあったと言います。韓国のいかなる人物の入国も許可しないとしている北朝鮮の敵対的な姿勢があらわになっています。
一方の韓国でも、ユン・ソンニョル(尹錫悦)政権が「力による平和」を掲げ、北朝鮮に対する軍事的圧力を強めています。アメリカとの間では核戦力を含む抑止力で同盟国を守る「拡大抑止」の強化で合意。合同軍事演習の規模を拡大するとともに、日本との関係改善を急いで日米韓3か国の安全保障協力を重視する姿勢が鮮明です。
「北が核を使用する場合、米韓同盟の圧倒的な対応を通じて北の政権を終わらせる」。ユン大統領は9月、ソウル中心部で10年ぶりに行われた軍事パレードでそう演説しました。ユン政権は対北朝鮮政策の中核を担う統一省の人員を削減し交流・協力部門を統廃合する一方、情報分析機能は強化しています。
韓国の世論にも変化が見られます。大統領直属の諮問機関が8月に発表した調査結果によりますと、望ましい南北の将来像について、「往来が自由な2国家」と答えた人が52%で、「統一国家」と答えた人28.5%を大きく上回りました。
朝鮮半島が南北に分断されてから70年。今や韓国の1人あたりのGDP=国内総生産は北朝鮮の50倍以上と経済的な格差も広がる中、統一は遠のくばかりに見えます。
来年、韓国はユン政権3年目、1月から国連安全保障理事会の非常任理事国となり、4月には総選挙を控えています。一方、北朝鮮はキム総書記が1月で40歳になるとみられ、「国防5か年計画」の4年目に入ります。
“2つのコリア”の緊張の高まりは、東アジアの安全保障環境にとって大きなリスクです。偶発的な衝突を避けるとともに、朝鮮戦争で離ればなれになった離散家族の再会や韓国人拉致被害者の帰還などを進めるためにも、対話の糸口を探る努力も忘れてはならないと思います。
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