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揺れるゼレンスキー政権とロシアの思惑/石川一洋・nhk
2023年11月13日 (月)
石川 一洋 専門解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/489495.html
ロシアの軍事侵攻が続くウクライナではゼレンスキー大統領が強い求心力で国民を牽引してきましたが、ここにきて政治と軍の亀裂が見え隠れし、欧米メディアから批判的な記事も出ています。アメリカなどに支援疲れが出ている中、ロシアのプーチン大統領は来年3月のロシア大統領選挙に向けてウクライナを政治的に揺さぶろうとしています。長期戦となろうとする中、ウクライナとロシアの政治の状況について考えてみます。
解説のポイントです。
・ウクライナ総司令官の論文の衝撃
・政治と軍の亀裂は?
・プーチン大統領の思惑
まず戦況の全体的な状況です。
ロシアのプーチン大統領がウクライナへの軍事侵攻を始めてから1年8ヶ月、ウクライナ軍が反転攻勢を始めてから5ヶ月が過ぎました。当初、ウクライナ軍がロシア軍の防衛ラインを突破しクリミアへの橋頭堡を築けるとの楽観論もありましたが、ロシア軍の硬い防御を突破するには至っていません。一方ロシア軍も北東部や東部では逆に支配地域の拡大を試みていますが、ウクライナ軍に阻止されています。
今月イギリスの雑誌エコノミストにウクライナ軍のザルジニー総司令官が、「現代の陣地戦と勝利のカギ」という論文を発表し、インタビューをもとにした記事も掲載され、ウクライナの内外で大きな波紋を呼びました。ザルジニー総司令官はゼレンスキー大統領とともにロシアの侵略への防衛戦争を指揮し、国民の信頼の厚い司令官です。
この中で、ザルジニー総司令官は、戦線はお互いに塹壕に立て篭もり、地雷原を敷設する陣地戦に移り、戦線が膠着していることを認めた上で、戦争が長期化することは、より多くの人的、物的な資源を持つロシアに有利となると危機感を示しました。
インタビュー記事の中では、NATOの教科書通りには前進できなかったことや、プーチン大統領が15万人もの戦死者を出しても戦争を止めようとしないことは誤算だったなど率直に吐露しています。
そして強調しているのは、現代の陣地戦において、どちらの国であろうと防御側が攻撃側よりも遥かに有利だという点です。つまり防御側はドローンなどで攻撃側の動きを察知し、精密誘導爆弾などで攻撃側を撃破できるとしています。逆に言えば塹壕や地雷原での防御を突破するのは難しいということです。またNATOの最新の兵器についてもロシア軍も時間が経つと対応方法を身につけて優位性が失われると指摘しています。
ウクライナ側にもロシア側にもこう着状態の打破は難しいということを率直に認めています。ザルジニー総司令官は、悲観論ではなく現実を直視した上で、膠着を打破するための航空優勢の確保や地雷原の除去などで新たな技術革新が必要だなどとしています。
しかしなぜ今、ザルジニー総司令官が論文とインタビューをイギリスの雑誌に発表したのでしょうか。一つは欧米に戦闘の状況を率直に伝え、巨大な敵ロシアに勝つためには、軍事支援が必要だと訴えることだったでしょう。また大統領と国民に「戦争の状況は楽観できない」と伝えるためだという見方もあります。
しかし大統領府のジョフカ副長官は、総司令官の論文は侵略国のロシアを利するものだとウクライナのテレビで批判しました。またゼレンスキー大統領自身も「異なる意見もあるだろう。・・・しかし状況は、膠着はしていない。私はこの点を強調したい」と述べて戦況は膠着しているという見方を否定しました。
これまでも東部の要衝バフムトなどで、限られた戦力を優先度の高い戦域に集中して使いたいとする総司令官など軍とあくまで領土の死守と占領地の奪還を求める大統領の間で亀裂があるとの憶測がたびたび出ていました。
総司令官の論文が最高指揮官の大統領の許可を得ていないとは考えにくいのですが、大統領と総司令官、あるいは政治指導部と軍の間で亀裂があるのではないかという見方も広がっています。
ただウクライナでは、第二次大戦のソビエトの伝統に従うかのようにスタフカ(STAVKA)と呼ばれる軍最高司令部がゼレンスキー大統領の命令で政治と軍の指導部が参加する意思決定機関として正式に設立されています。その点、プーチン大統領と軍指導部の意思決定過程が全く不明確なロシアよりは遥かに透明性があるという点は指摘しておきます。
世界の関心が中東情勢に移り、ウクライナへの関心が薄れることにゼレンスキー大統領は危機感を募らせています。
大統領に逆風となっているのは、欧米メディアによる冷たいとも受け取れる記事が増えていることです。象徴的なのは先月30日のアメリカの有力誌タイムの記事です。タイムは、去年はその年の人にゼレンスキー大統領を選び、ゼレンスキー大統領の指導力を賞賛してきました。そのタイムが、「私のようにウクライナの勝利を信じる人は誰もいない」という孤独な大統領と大統領府内部の溝も描いた記事を掲載したのです。
大統領府はジャーナリスト個人の意見に過ぎないとして政権内部の溝を否定しましたが、この記事はウクライナ国内で大きな波紋を呼び起こしました。
波紋をさらに大きくしたのが、大統領選挙を巡る政権の揺れです。大統領府長官の元顧問で今年一月までは戦況や政治状況についてウクライナ政府の見解を非公式に世界に発信する役割を担っていたアレストービッチ氏が、大統領を独裁的だと批判した上で、「ウクライナのNATO加盟条件にロシアと停戦し、占領されている領土は軍事的ではなく政治的な手段で取り戻す」とするなどとして、大統領選挙への立候補する意思を表明したのです。元側近からのあからさまな批判と大統領選挙の実施を求められるのは初めてで、選挙実施への憶測も続きました。
ウクライナは、ロシアと同時期来年三月に大統領選挙が行われることになっていましたが、戒厳令下では法的に選挙はできず選挙延期が既定路線です。ゼレンスキー大統領は、戦時下であり、団結を優先すべきだとして大統領選挙の延期を改めて表明し、当面議論に区切りをつけました。しかし国民の信を問わなくて良いのか、大統領チームの中でも議論が行われていることは側近のポドリャク顧問も認めています。大統領選挙をいつ行うのか、ゼレンスキー政権にとっては重い課題となるでしょう。
この状況を利用しようとしているのがロシアのプーチン大統領です。一連のマスメディアでの報道をすでにロシアは情報戦で最大限利用しています。そもそも報道を含めた揺さぶりの背後にモスクワがいるのではという警戒感もウクライナ側には出ています。
ロシアは来年三月に大統領選挙を実施します。プーチン大統領は、外交活動や様々な層との会合への出席、演説などを活発に行い、事実上大統領選挙への活動をスタートさせています。
来月にもテレビを通じた国民との対話と記者会見を合同で行う見通しで、こうした場で立候補の表明を公式に行うものと見られます。ロシアは一方的に併合を宣言したクリミアや東部、南部の4州でも選挙を強行してロシア支配を宣伝しようとするでしょう。プーチン大統領は、自らは国民の圧倒的な信任を得たとして、大統領選挙を延期するゼレンスキー大統領と対比し、政治的な情報戦と圧力に利用してくるのは目に見えています。
ロシアに対する厳しい経済制裁も一定の効果はあるものの、それだけでは、ロシアに戦争を断念させることはできません。エネルギー、食料を中心としたロシアの経済力、そして武器、弾薬、ミサイル製造など軍需産業の力を過小評価することはできません。
2度目の冬が訪れ、ウクライナとロシアの戦争は長期戦になろうとしています。「あなた方の武器で我々の兵士がロシアと戦う」とゼレンスキー大統領はアメリカなど支援国に述べています。戦争が長期戦に入ろうとして、ウクライナ国民の犠牲も増える中、アメリカなど支援する側もウクライナに有利な状況で戦争を終結できるのか新たな戦略が求められているように思います。
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