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どうなる?ガザ地上侵攻 イスラエルとハマスの戦い泥沼化の懸念/出川展恒・津屋尚・nhk
2023年10月24日 (火)
出川 展恒 解説委員津屋 尚 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/488892.html
パレスチナのイスラム組織ハマスとイスラエル軍の衝突で、これまでに(10月24日現在)あわせて6400人を超える犠牲者が出ています。イスラエル軍は近く、ハマスが支配するガザ地区への大規模な地上侵攻に踏み切る構えです。地上での戦いは困難を極め、泥沼化するおそれも指摘されています。この問題について、国際安全保障担当の津屋解説委員と中東担当の出川解説委員が解説します。
出川:津屋さん、今後考えられる地上侵攻を含め、イスラエル軍のガザ地区への軍事作戦はどんなものになりそうですか。
津屋:イスラエルは、ハマスをはるかに上回る戦力を投入して 地上侵攻作戦に踏み切ろうとしています。それは、軍事作戦で最も難しい“市街戦”が始まることを意味します。ハマスの戦闘員は、 地下トンネルなどに潜んでゲリラ戦を仕掛ける可能性が高い。
しかも人質の存在を考えれば、作戦はさらに難易度が増し、一般市民をも巻き込んで悲惨な結果を招く可能性が高いと思います。
出川:イスラエル軍の攻撃で、ハマスとは関係のない一般市民が大勢犠牲になっていて、世界中から批判や懸念の声があがっていますね。
津屋:イスラエルによるガザ攻撃は、「国際人道法」違反の疑いが濃厚です。大規模な攻撃を仕掛けてきたハマスに対して、自衛権を行使して反撃すること自体は国際法上、合法だとしても、問題はその“やり方”です。戦時下の文民の保護などを規定する「国際人道法」は、攻撃が許されるのは軍事目標のみとしており、一般市民や民間施設への攻撃を禁じています。民間施設が軍事拠点として使われている場合でも、市民の巻き添えは最小限にする義務があります。しかし、ガザ地区に対するイスラエルの空爆は、事実上の無差別攻撃で、犠牲者はすでに5000人を超え、うち、2000人あまりは子供です。「最小限」の範疇を超えていることは明らかです。
出川:ハマスは、全長450km以上と言われる地下トンネルをガザ地区に張り巡らせています。私は、これを拠点にしたゲリラ戦に加えて、およそ220人いるとされる人質の存在が、地上作戦を非常に複雑で困難なものにすると見ています。まず、ハマスが人質をいわゆる「人間の盾」にすることが予想されます。イスラエルの高官は、「人質の存在によって軍事作戦は妨げられない」などと発言していますが、そう簡単ではありません。イスラエルは、元来、自国の人質の命を非常に大切に扱ってきた国です。過去には、ハマスの人質となった1人の兵士の命を救うために、拘束中のハマスのメンバー1000人以上を釈放した例もあります。今回は、兵士だけでなく、女性や子どもを含む一般市民が大勢含まれています。外国の国籍を持つ人質も多く、その国との間で外交問題になる可能性もあります。先週、バイデン大統領のイスラエル訪問の直後とも予想されていた地上侵攻がまだ始まっていないのは、アメリカ側から人質解放に向けた交渉に時間を与えてほしいと要請があったためと、アメリカの複数のメディアが伝えています。地上侵攻が、いったん始まれば、数か月、あるいは、それ以上にわたる泥沼の戦いになるおそれがあると指摘されています。
津屋さん、ネタニヤフ首相は、「ハマスの壊滅」を軍事作戦の目標に掲げていますが、これをどう見ますか。
津屋:イスラエルの作戦は、軍事的合理性に基づいて開始されたというより、国民の間で衝撃と憎悪が高まったのを受けて、政治的に決断された側面が強いと言えます。ネタニヤフ首相らは、ハマスによるテロは「ホロコースト以来の大虐殺だ」という表現を多用し、ハマスの存在を消し去るべきと主張してきました。しかし、ハマスの壊滅は不可能だと思います。
出川:私も、ハマスの軍事部門を破壊することはできても、ハマスという組織を壊滅させることはできないと思います。パレスチナ社会に深く根を下ろし、政治部門の幹部の多くは、海外の拠点から指令を出しています。そして、イスラエル領を含むパレスチナの地を解放し、イスラムの教えに基づく国家を建設するというハマスの思想自体は、軍事作戦で消し去ることができないからです。いつ地上侵攻を開始し、いつ、どのように終わらせるか、その判断はネタニヤフ首相自身が下します。判断の基準は、国内世論の動向、ひいては、自分自身が権力の座にとどまれるかどうかになると思います。
ネタニヤフ政権は、さまざまな警告があったにもかかわらず、ハマスの大規模攻撃を未然に防ぐことができなかった責任を問われることは確実です。自らの失態をカバーし、求心力を回復するためにも、地上侵攻を今から中止する選択肢はないと見られます。
ただし、イスラエル軍兵士にも大勢の犠牲者が出ますので、有権者を納得させる軍事的な成果を挙げる必要があります。
さて、先週、アメリカのバイデン大統領がイスラエルを訪問し、イスラエルに寄り添う姿勢をアピールしましたが、アメリカをはじめ各国の対応をどうみていますか。
津屋:世界中の人々が、ガザ地区での深刻な人道危機を目の当たりにし、イスラエルや、それを支持するアメリカへの批判が国際的に高まっています。イスラエルが築いた壁の内側に閉じ込められた人々は、水、食料、燃料、医薬品、電気など、生きるために不可欠なものすら手に入りません。アメリカなどの働きかけで、エジプトとの境界から支援物資を積んだトラックが入り始めていますが、これだけでは全く足りません。
アメリカやヨーロッパの主要国は、イスラエルを強く支持し、自衛権の行使も容認する立場です。人道危機や国際法順守の必要性を訴えてはいるものの、イスラエルの攻撃そのものに反対はしていません。ウクライナで市民を標的とした攻撃を繰り返すロシアを厳しく非難する姿勢とは対照的で、「ダブルスタンダード」あるいは「自己矛盾」の批判は免れないでしょう。
出川:もうひとつ、今、懸念されているのは、ガザ地区を舞台にした戦闘がイスラエルと敵対するイランとつながりのある国や組織を巻き込んで拡大してゆくことですね。
津屋:先週19日には、非常に危うい出来事がありました。イエメンの反政府組織「フーシ派」が発射したとみられる巡航ミサイルをアメリカ軍の駆逐艦が撃墜したのです。この事件は、紛争拡大のリスクが常に存在することを改めて示しました。巡航ミサイルはイランが供与した可能性が高く、これが撃墜されずイスラエルに着弾していれば、紛争が一気に拡大する可能性もありました。
出川:ハマスの攻撃開始後、イランの強い影響下にあるレバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」が、イスラエルに対する越境攻撃を繰り返しています。ヒズボラとイスラエル軍の本格的な戦闘に発展するおそれがあります。また、イスラエル軍は、イランの革命防衛隊に利用されているとの理由でシリア領内にある空軍施設を数回にわたって爆撃しました。仮に、ガザ地区を舞台にした軍事衝突が、イラン、さらには、アメリカをも巻き込む大きな地域紛争に発展した場合には、ペルシャ湾の安全も脅かされ、日本のエネルギー確保にも深刻な影響が出るでしょう。
津屋:徹底的に破壊されたガザ地区をいったい誰がどう統治していくのか、ネタニヤフ政権が、具体的な出口戦略を持って軍事作戦に乗り出したかは甚だ疑問です。場当たり的とも言える報復攻撃の結果、安全保障面でも経済面でも世界に大きな悪影響が広がる可能性があり、日本もその例外ではありません。
出川:イスラエルが、ガザ地区への地上侵攻に踏み切るのは、もはや時間の問題です。
しかし、長期化は避けられず、紛争が近隣諸国に拡大するおそれもあり、とてつもなく多くの犠牲者が出ることが懸念されます。ハマスとの交渉のパイプを持ち、今回も人質の解放を仲介したカタールやエジプト、そして、イスラエルに対し、影響力を行使できる唯一の国、アメリカを中心に、国際社会から、市民の犠牲をできる限り減らすための、強い説得と働きかけが求められます。
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