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オイルショックから50年 再来するエネルギー危機/出川展恒・nhk
2023年10月19日 (木)
出川 展恒 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/488756.html
中東では、今、イスラエルとパレスチナのイスラム組織「ハマス」との間で、大規模な軍事衝突が起きています。今からちょうど50年前も、中東で大きな戦争が起きました。原油価格が跳ね上がり、日本は、「オイルショック=石油危機」に見舞われ、中東外交とエネルギー政策の根本的な見直しを迫られました。エネルギーをどう確保するかは、極めて重要な安全保障問題です。
■1973年10月6日、エジプトとシリアが、イスラエルを奇襲攻撃し、「第4次中東戦争」が勃発しました。その6年前の戦争でイスラエルに占領された領土を奪還する目的でした。アラブの産油国は、いわゆる「石油戦略」を発動し、原油価格を4倍近くまで引き上げるとともに、イスラエル寄りの国への輸出を停止、または、制限すると表明しました。
日本は当初、アラブの「友好国」とはされず、輸出制限の対象となりました。石油製品やエネルギー価格はもちろん、すべての物価が高騰しました。デマも広がって、トイレットペーパーや洗剤の買い占めが起きるなど、パニックに陥りました。「オイルショック=第1次石油危機」と呼ばれ、翌年、日本経済は、戦後初めてのマイナス成長を記録、高度経済成長は終わりを告げました。
日本は当時、湾岸のアラブ産油国のうち、サウジアラビアなど3か国にしか、大使館を置いていませんでした。このため、日本政府は、特使を派遣して懸命の説得を行い、アラブ側の主張に理解を示す方向で中東外交を見直すと約束。その年の暮れ、「友好国」のお墨付きをもらって、原油の供給を確保することに成功しました。なりふり構わない「油乞い外交」などと揶揄されましたが、何とか危機を脱したのです。
当時、田中角栄総理大臣の秘書官を務め、その後、通産省の事務次官、アラビア石油の社長を務めた小長啓一さんは、次のように語っています。
【当時 首相秘書官 小長啓一さん】
「石油の供給源を中東以外の地域にも求めなければいけないということで、当時の田中角栄首相が、資源外交ということで、アフリカ大陸以外の産油国を全部回りまして、日本への安定供給の要請をして回りました。国内的には石油に代わる新しいエネルギー源を考えなければいけないということで、1つは再生エネルギー。もう1つは原子力発電ということで、対策を講じてきたわけです」。
この間、政府は、石油を確保し、国民生活を安定させるための法律を新たにつくり、省エネと、石油の備蓄を徹底的に進めました。さらに、将来を見据えて、天然ガスや原子力などエネルギーの多様化を図り、合わせて、原油の調達先が中東に偏りすぎないよう分散化を図りました。オイルショックが起きた際、およそ78%だった中東への依存率は、87年には、およそ68%まで下がりました。日本にとって、オイルショックは、まさに国家的危機で、エネルギー政策を根本的に見直す転換点となったのです。
こうした努力が功を奏し、「イラン・イラク戦争」による「第2次石油危機」や、「湾岸危機・湾岸戦争」を乗り切りました。ところが、その後再び、原油の中東依存率は上昇します。日本の産業界は、質が良く、価格の安い中東産原油に回帰していったのです。そして、去年、ロシアによるウクライナ侵攻が起きると、ロシア産の原油が輸入できなくなり、中東依存率は、この夏、95%に達しました。この間、1次エネルギーに占める石油の割合が、およそ半分に下がりました。それでも、中東産の原油の割合は、全体のおよそ3分の1で、相当に高いと言えます。
■世界は、いま再び、エネルギー危機に直面しています。50年前のアラブ諸国と同じように、ウクライナに侵攻したロシアが、豊富な原油や天然ガスの輸出を、対立する国に圧力をかける武器にしたためです。
ロシア産のエネルギー資源が、世界市場に占めるシェアは大きく、原油は10分の1、天然ガスは4分の1を占めます。とくにヨーロッパ諸国は、ロシアへの依存度が高かったため、深刻な打撃を受けました。
こちらは、原油価格の国際的な指標とされるWTIの先物価格を示したグラフです。去年3月、アメリカ・バイデン政権が、ロシア産原油の輸入禁止の措置を発表すると、1バレル120ドルを超える記録的な水準に跳ね上がりました。その後、価格は徐々に低下し、今年3月には、1バレル70ドル前後まで下がったものの、再び上昇に転じました。現在、90ドル前後で推移しています。
ヨーロッパの天然ガス価格は、さらに激しく高騰し、去年9月、原油に換算して、1バレル600ドルに近い異常な高値をつけました。ロシアが、パイプラインでヨーロッパに供給していた天然ガスの量を5分の1に減らしたためです。
これに対し、ヨーロッパ諸国は、省エネを進め、石炭、原子力発電などの代替エネルギーを導入、さらには、アメリカからLNG=液化天然ガスを購入するなどして、エネルギーを確保し、去年の冬を乗り切りました。しかしながら、ロシアからの供給は、もはや回復せず、今年の冬、燃料不足が起きることも心配されます。
エネルギー問題の専門家たちは、ヨーロッパの国々が、自らのエネルギー確保だけを考えれば、エネルギー資源の世界的な争奪戦が起きるおそれがあると指摘しています。もちろん、日本も影響を免れません。
また、去年、バングラデシュやパキスタンで発電用のガスが不足し、大規模な停電が起きましたが、そうしたことが頻発する心配があります。また、代替エネルギーとして、石炭を利用する動きが広がれば、二酸化炭素の排出量が増え、もう一つの世界的課題である、脱炭素・地球温暖化対策への取り組みにも悪影響が出ます。
■私たちは、繰り返し起きるエネルギー危機に、どう対応すればよいのでしょうか。
エネルギーは、誰にとっても必要不可欠な、戦略的な物資です。不足したり、価格高騰が続いたりすれば、極めて深刻な影響をもたらします。それだけに、エネルギーの確保は、まさに国の安全保障問題です。日本のように自給率の低い国は、常にまさかの事態に備えておかなければなりません。
その意味で、日本にとって、エネルギーを中東・ペルシャ湾岸地域に過度に依存することは、非常にリスクが大きいと言わざるを得ません。この地域は、軍事的緊張にさらされる危険性が潜在的に大きいからです。
現在、イスラエルとハマスとの間で起きている軍事衝突では、アラブの産油国に、原油輸出を制限する動きは見られず、新たな石油危機は起きないだろうと言う見方が支配的です。今後、仮に、ハマスを支援するイランを巻き込む大きな地域紛争に発展した場合には、話はまったく変わります。ペルシャ湾岸からエネルギーが来なくなって、経済と暮らしに計り知れない影響が出ることになります。
エネルギー資源の調達先の分散化を、いま一度図るとともに、エネルギーの多様化、たとえば、再生可能エネルギーや水素エネルギーの開発を確実に進めること。さらには、安全確保と廃棄物処理の課題をクリアしたうえで、原子力エネルギーをどう位置づけるかを、真剣に議論する必要があると思います。
その一方で、エネルギー政策の転換には時間がかかるため、日本にとって、中東諸国との関係は、これからも大切です。ところが日本は、いま中東において、中国などに圧され、かつてのような存在感がありません。エネルギー資源の争奪戦が起きれば苦戦を強いられるでしょう。中東の産油国も、将来を見据えて、脱石油の経済改革や技術開発に力を入れています。こうした取り組みへの協力や投資を通じて、信頼関係を再び築くことが、日本のエネルギー安全保障にも寄与すると考えます。
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