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ハマスvsイスラエル "戦争"の衝撃/出川展恒・nhk
2023年10月10日 (火)
出川 展恒 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/488431.html
■パレスチナ暫定自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」が、7日、イスラエルに対し、極めて大規模なロケット弾による攻撃と、地上からの越境攻撃を行いました。900人以上が犠牲になり、100人以上がガザ地区に拉致され人質になっています。イスラエルのネタニヤフ政権は、ハマスに対する「戦争」を宣言して報復攻撃を行い、パレスチナ人700人以上が犠牲になりました。暴力の応酬が拡大し、沈静化の糸口はまったく見えません。なぜ、今、ハマスによる大規模攻撃が起きたのか、その背景を考えます。
■ガザ地区は、地中海に面し、イスラエルとエジプトに挟まれた細長い土地で、東京23区の6割くらいの面積に、200万人を超えるパレスチナ人が暮らしています。1993年の「パレスチナ暫定自治合意」に基づき、翌年からパレスチナ人による自治が行われてきました。2007年、イスラエルの生存権を認めず、武装闘争を続けているイスラム組織「ハマス」が、ガザ地区を武力で制圧し、以来、実効支配しています。アッバス議長率いる暫定自治政府の権限がまったく及ばない状態です。イスラエルは、テロの防止を理由に、ガザ地区を壁とフェンスで囲い込んで封鎖し、人とモノの出入りを厳しく制限してきました。ほとんどの住民がガザ地区の外に出られず、「屋根のない世界最大の監獄」とも呼ばれる状態が、16年も続いてきました。
■ハマスとイスラエルの間では、過去に4回、大きな軍事衝突が起きていますが、今回、数千発に及ぶロケット弾攻撃に加えて、およそ1000人と言われるハマスの戦闘員がフェンスを破壊するなどして、イスラエル領内に侵入し、近隣の町や村を襲撃し、音楽イベントに参加していた人々を無差別に銃撃しました。犠牲者の数は900人を超え、さらに、100人以上がガザ地区に拉致され、人質となっています。被害者の中には、女性、お年寄り、子ども、外国人も多数含まれており、残虐行為があったことを示す映像もあります。これは、強く糾弾されるべき無差別テロです。イスラエルはもちろん、世界に大きな衝撃が広がっています。
■周到に計画された、これほど大規模な攻撃が起きたのはなぜでしょうか。いくつかの要因が重なったと考えられます。
▼ハマスは、「イスラエルによるパレスチナ人への犯罪に対抗するため」などと主張しています。イスラエル軍がヨルダン川西岸地区のハマスの拠点に激しい攻撃を加え、大勢の犠牲者が出たことや、エルサレムにあるイスラム教の聖地に、ユダヤ教徒たちが足を踏み入れたことを指していると見られます。さらに大きな背景として、内外の多くの専門家は、パレスチナ社会を覆う絶望感や焦りを指摘します。
▼和平プロセスの崩壊で、パレスチナ国家樹立の見通しが全く立たなくなり、封鎖が続くガザ地区では、若者の失業率が60%近くにのぼり、将来への希望が見いだせません。統治を続けるハマスに対する住民の抗議デモも起きています。
▼さらに、アラブの盟主サウジアラビアが、イスラエルとの関係正常化を目指しているとされ、自分たちは、アラブの国々からも見捨てられるのではないか。こうした危機感を抱いたハマスが、局面を打開し、関係正常化を妨害するため、大規模な攻撃を計画・実行したのではないかという見方です。
▼加えて、イスラエル国内の政治の混乱があります。ネタニヤフ連立政権が、司法府の権限を弱める法整備を進めていることについて、民主主義を損なうとして、大規模な抗議運動が起きています。軍の予備役の一部が招集を拒否するなど、軍の能力が低下しているという指摘も出ていました。ハマスが、攻撃のチャンスととらえたのは確実で、イスラエルは事前に察知できませんでした。
■ネタニヤフ首相は、ハマスとの「戦争」だと宣言して、徹底的な報復攻撃を行うと表明し、ガザ地区のハマスの拠点など1000か所以上に空爆を行っています。しかしながら、700人を超えるパレスチナ人の犠牲者のうち、5分の1は、子どもと伝えられます。民間人の命を顧みない報復攻撃は絶対に容認できません。一方、ハマスも、ロケット弾による無差別攻撃を続けています。ガザ地区では、18万人以上が家から避難し、病院はけが人であふれています。イスラエル政府は、ガザ地区を完全に封鎖すると宣言し、送電も止めました。医療活動に重大な支障が出て、水や食料も不足し、極めて深刻な人道危機が起きようとしています。200万のパレスチナ人を集団で処罰するやり方は、明らかな国際法違反です。
■イスラエル軍は、ハマスの戦闘員が逃げ込んだ南部の地域を制圧したとしています。しかし、100人を超えると見られる人質の存在が、軍事作戦を非常に難しくしています。外国人も多数含まれ、多くの場所に分散して拘束され、いわゆる「人間の盾」とされているもようです。ハマスは、「警告なしにガザの住民を攻撃した場合、人質を処刑する」と予告し、すでに、イスラエル軍の空爆の巻き添えで、4人の人質が犠牲になったとしています。ネタニヤフ政権も、人質の命が失われる事態は避けたいところで、軍事作戦をどう進めるか、苦慮している様子です。
■ここから、国際社会の反応です。
▼アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアの5か国の首脳は、9日、ハマスによるテロを厳しく非難し、イスラエルの自衛の取り組みを一致して支持するとした共同声明を発表しました。
▼一方、中国とロシア、それに、サウジアラビアやトルコなどイスラム諸国は、ハマスへの直接の非難は避け、すべての当事者に自制を求め、和平交渉を再開させ、パレスチナ問題を解決することが不可欠だとしています。
▼日本の岸田総理も、ハマスの行為を強く非難するとともに、人質の早期解放と、すべての当事者に最大限の自制を求めています。
▼これに対し、イスラエルを敵視するイランは、ハマスの攻撃を称賛しています。ただし、攻撃の計画立案にイランの革命防衛隊が関与していたとする報道については、強く否定しています。アメリカのブリンケン国務長官は、「イランが関与したという証拠はないが、長年にわたってイランがハマスを支援してきたのは明らかだ」と述べています。
そのイランの支援を受けるレバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」が、イスラエル軍の施設を砲撃し、戦闘員がイスラエルへの侵入を企てました。今後、ヒズボラがイスラエルとの戦闘に本格的に参加した場合、事態の収拾はいっそう困難になります。
戦闘の拡大を止めるためには、国際社会の調停が不可欠です。国連安全保障理事会は、8日、緊急会合を開きましたが、具体的な対応を決めることはできませんでした。
■今後の焦点の一つは、誰が仲介役を務めるかです。イスラエルとハマスは、互いに相手を承認せず、直接交渉する意思はありません。アメリカも、「テロ組織」とみなすハマスとの直接交渉は考えていません。そして、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長に、ハマスを説得する力はありません。これまでのハマスとイスラエルの軍事衝突は、エジプトやカタールの仲介で、停戦が実現しました。この2つの国に加えて、仲介の意欲を示すトルコの今後の動きが注目されます。
■今、何よりも優先されるべき課題は、一般市民を巻き込む攻撃をやめさせ、すべての人質の無事解放を実現させること。そして、ガザ地区の人々に、水、食料、医薬品、電気を届けることです。そのうえで、長年にわたるイスラエルの占領とガザ地区の封鎖に終止符を打つこと、すなわち、未解決のまま放置されたパレスチナ問題にとりくむことが必要です。すべての当事者が、この悲劇の原因を直視し、行動を起こす時です。
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