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ウクライナはロシアに勝てるのか?〜戦時の経済力が違いすぎる/現代ビジネス
西谷公明(エコノミスト) によるストーリー •
https://www.msn.com/ja-jp/news/world/%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%81%AF%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%81%AB%E5%8B%9D%E3%81%A6%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%8B-%E6%88%A6%E6%99%82%E3%81%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%8A%9B%E3%81%8C%E9%81%95%E3%81%84%E3%81%99%E3%81%8E%E3%82%8B/ar-AA1g9zp5?ocid=msedgdhp&pc=U531&cvid=8a555a57166c4ef48e9f291d0c7dbac8&ei=16
歴史上、ウクライナはこれまで3度、ロシアと戦争をしてきた。
まず18世紀はじめ、ロシアとスウェーデンが戦った北方戦争時、ウクライナ・コサックのへトマン(首領)マゼッパはスウェーデンと手を結んで、ロシアからのコサック国家独立を賭けて戦った(ポルタヴァの戦い)。
次に20世紀はじめのロシア革命時、キーウに樹立されたウクライナ中央ラーダ(議会)政府が独立を宣言し、革命政府のボリシェヴィキ軍と戦った。そして第二次世界大戦期、西ウクライナのガリツィアでウクライナ蜂起軍(UPA)が結成されてソ連軍と戦った。
熾烈な戦闘がおこなわれ、その度に多くの犠牲を生み、結局は3度とも敗北した。歴史は4度、繰り返すことになるのだろうか。
持てる富と戦争遂行力の違い
果たして、ウクライナはロシアに勝てるのか。
なにしろ国力、つまり持てる富(資源、技術、工業生産力など)に裏打ちされた戦時の経済力が違い過ぎる。人口や予備役の数、兵器の生産能力などでも、ロシアがウクライナに優ることは明らかだ。
西側による経済制裁はショックを与えたが、あにはからんや、侵攻を始めて半年後にはロシア経済はその耐性を示した。それを私は、昨年10月にモスクワを訪問して実感している。
ロシア経済のパフォーマンスを示す国内総生産(GDP)は、開戦直後にはマイナス10%以上の後退が避けられないとみられたものの、2022年通年ではマイナス2.1%に止まるまで回復した。国際通貨基金(IMF)は、23年のそれを1.5%のプラスに転じると見通している。
これに対し、22年のウクライナのGDP成長率はマイナス30.4%で、「破綻」と呼ぶにほぼ等しい。しかも、電力はじめ重要インフラの破壊により、この一年で国力をさらに削がれている。欧州委員会(EC)は23年のそれを0.6%のプラスと予想するが、破綻状態からのわずかな浮上に過ぎない。
それでもなんとか回っているのは、キーウやハリキウ、オデーサなど大都市における商業、飲食、運輸はじめ生活まわりのサービス産業ぐらいで、輸出産業はほぼ麻痺状態にあることは想像に難くない。
経済の屋台骨ともいうべき鉄鋼、石炭はじめ鉱工業の多くは、ロシアが一方的に併合を宣言した東部から南部にかけての一帯と、ドニプル川の流域に集まるが、その多くは半ば廃墟と化している。マリウポリ製鉄所は破壊され、国内最大のクレメンチュク製油工場も損壊した。黒海やドナウ川沿いの穀物倉庫や積出し施設も爆撃された。
財政は西側からの「仕送り」頼み
当然ながら、国家財政も破綻している。ロシアによる侵攻が始まって以来、ウクライナのゼレンスキー大統領は全土に戒厳令を布告し、政府は「平時の国家予算のほぼ全額を軍需に充ててきた」という(シュミハリ首相)。
財政赤字は毎月30億ドルから40億ドルに達すると見られている。国連とトルコが仲介して一時実現した黒海経由の穀物輸出は、せいぜい毎月10億ドルに過ぎないが、ロシアが船の安全航行に関する合意から離脱したせいで、それもいまは滞ったままだ。
すでに1年半以上にわたり、西側は国際機関の融資プログラムを動員し、あるいは二国間の金融支援をおこなって、巨額の歳入不足を補填してきた。早い話が送金、つまり「仕送り」である。これらの資金が、政府機能や公共サービスの維持、戦費、通貨の買い支えなどに当てられてきた(日本の資金も含まれることは言うまでもない)。
それに、十分な武器もない。ウクライナ軍は西側から武器が供与されなければ戦えない。ちなみに、上記の融資には、米国による空前の430億ドルをはじめ、西側による軍事支援額は含まれない。冷静に考えれば、戦争の帰趨など、はじめから予想できたことなのだ。
それでも、もっと武器をくれ、(戦車に加えて今度は)最新の戦闘機が必要だ、というゼレンスキー大統領の「同盟国」への訴えは、ここへきてのロシア軍の踏ん張りの裏返し? としてしか響かない。
西側にとって重要なのは・・・
それにもかかわらず、西側はなぜ戦争を止めないのか。それどころか、侵攻から丸一年を迎えたこの春、西側はウクライナ軍による反転攻勢の背中を押して、最新型の戦車やミサイルなどの追加供与に踏み切った。
だがそれは、この戦争でロシアに勝たせてはならない、と考えるからだ。昨年5月、G7首脳はオンライン会議後の声明で、「プーチン・ロシア大統領がウクライナとの戦争で勝利することがあってはならない」と宣言した。
西側の狙いは、第一に「主権と領土の一体性の維持」という、国際秩序の根幹とも言うべき理念を守る抜くこと、第二に汎ロシア主義を捨てられず、ついに隣国へ侵略したロシアの国力をこの機会にできるだけ削ぐことの2点に尽きる。
前述のG7会合に先立って、昨年4月にキーウを訪問した米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官は、この戦争におけるアメリカの立場として、「ロシアが、再びウクライナ侵攻のようなまねができない程度に弱体化することを望む」と語っている。
けれども他方で、西側はそのロシアを必要以上に傷つけることには躊躇(ためら)いを隠さない。ロシアは、言わずと知れた、米国と並ぶ世界最大の核保有国だからだ。
そのせいか、西側メディアの報道も、いきおいロシア情勢に注がれる。メディアの関心はロシアが中心で、ウクライナ情勢には向けられない。ルーブル下落と、民間軍事会社ワグネルと創設者プリゴジンをめぐる最近の報道ぶりを見れば容易に知れよう。
つまり、西側の目標は、実は国家としてのウクライナの安寧そのものにあるわけではない。ということは、ウクライナに対する西側の支援も永遠ではあり得ない。やがて兵器の供給が滞った時、最後に泣きを見るのはウクライナ国民なのだ。
復興支援への動きもあるが、援助を目的として設立された機関を別とすれば、いまも戒厳令下にあって、いつミサイルが飛んでくるかわからないようなリスキーな国へ進出する企業などあろうはずがない。停戦後を見据えた政治論議の域を出ない。
政権の崩壊か、国内の分裂か
だがしかし、この戦争について私が憂慮するのは、そのことではない。
ウクライナの人々は、いまはロシア敵視でひとつにまとまっているように見える。ゼレンスキー政権としては、奪われた領土を取り返すための戦いという「正義の旗」をいまさら降ろすことはできないだろう。降ろせば、それこそ政権が崩壊するかもしれない。
かたや、ロシアのプーチン大統領も敗けるわけにはいかない。その限りで、戦争は続く。死傷者の数も、さらに増える。開戦以来のその数は、両軍合わせてすでに約50万人に迫る、と米紙ニューヨークタイムズ(8/18)は報じている。
他方、先日、ドバイで暮らすウクライナの旧友は、ひとりでも多くの知人を安全な国へ出したい、協力して欲しい、とメールを寄こした。電気のない、お湯の出ない冬が再び来る前に、多くの国民が国を出る方策を考えはじめているという。
たしかに、いま停戦すれば、占領地域におけるロシアの実効支配を容認することになる、それは国際社会の根幹を揺るがすことになる、という議論もある。正論である。
しかしながら、もともと30年前、国内に構造的な矛盾を内包したまま独立したのがウクライナという国だった。先の見えない戦争がいつまでも続けば、停戦に向けてのプロセスが始まる前に、すなわち、この戦争に終わりが来る前に、ゼレンスキー政権自体が弱体化し、政治が再び混乱し(この国が、この30年間に何度も経験してきたように)、ウクライナそのものが内側から分裂する可能性もあるのではないか。私が思うのは、そのことだ。
そのとき、ウクライナはいったいどういう形で安定へ向かうか。
だが、それを決めることができるのは、もはや西側ではない。ウクライナの人々自身のはずである。
西側が守ろうとする国際秩序の理念が揺れている。国際政治とは、言うまでもなく政治であり、リアルな現実との妥協を探るゲームの場なのかもしれない。「正義」を通すばかりが、唯一の解とは限らない。私たちは、そういう時代を生きている。
西谷公明/ エコノミスト。ウクライナとロシアで長年勤務。著書に『ウクライナ 通貨誕生 独立の命運を賭けた闘い』『ロシアトヨタ戦記』他。
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