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ロシアはどこに向かうのか プリゴジン墜落死の衝撃/石川一洋・nhk
2023年08月28日 (月)
石川 一洋 専門解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/487108.html
先週の木曜日衝撃的なニュースが入りました。ロシアの民間軍事会社ワグネルの事実上のオーナープリゴジン氏らワグネルの最高幹部が自家用ジェットの墜落で死亡したのです。プリゴジンの乱の当事者のあまりにも不自然な墜落死。プーチン政権の関与を疑う声も出ています。
この墜落の原因は何なのか、そしてロシアはどこに向かうのでしょうか、今日は考えてみます。
モスクワ時間の23日十八時過ぎ プリゴジン氏の搭乗した自家用ジェットがモスクワからサンクトペテルブルクに向かう途中、モスクワの北西トベリ州で墜落しました。プリゴジン氏ら乗客、乗員10人は全員死亡しました。この墜落の原因はまだ不明で、機体の故障など事故の可能性も排除できないでしょう。しかし運行していた航空会社は安全基準の厳しい会社と言われていて、また機体が制御を失い墜落していること、パイロットから機体の異常を知らせる通信はなかったこと、2度の爆発音を目撃者が聞いていること、そして機体が数キロの範囲で何箇所かにバラバラに墜落していることなどから、単純な事故ではなく何らかの破壊工作が絡んだ事件ではないかとの見方が出ています。私もその疑いが強いと思っています。
ではプーチン大統領を含む政権が関与したのでしょうか?ペスコフ報道官は政権の関与を強く否定します。
一方 アメリカ国防総省の報道官は、「対空ミサイルで撃墜されたという仮説は正確ではない」と述べて撃墜説は否定したうえで、プリゴジン氏は殺されたと述べて暗殺されたという見方を示しました。またアメリカの複数のメディアは機内で何らかの爆発物が爆発した可能性をアメリカやイギリスの政府当局の話として伝えています。ロシアの連邦捜査委員会は墜落した飛行機は直前に修理をしており、この時何らかの爆発物が仕掛けられた可能性があるとして捜査を進めています。
私は次の点を指摘したいと思います。
今回の事件で、ワグネルの中枢が消されたということです。経営を担うプリゴジン氏とともに、軍事部門の指導者で元軍諜報局の将校であるウトキン氏、そして兵站部門の責任者の3人が搭乗していたということです。特にウトキン氏はプリゴジンの乱のときにモスクワへのワグネルの部隊の進軍を実際に指揮し、ロシア軍の攻撃用ヘリや空軍の指揮機を撃墜しています。この3人が死亡したことは、ワグネルは中枢神経を破壊されたに等しい打撃を受けることになります。逆言えばこの3人を同時に消すことに狙いがあったのかもしれません。
プーチン大統領など政権側が関与した確たる証拠はありません。ただ政権の関与が疑われるのは、プーチン大統領が6月24日、プリゴジンの乱が起きた時に、「裏切り者」と呼び「裁きを受ける」としていたからです。
その後プリゴジン氏ら反乱の首謀者は恩赦され、プリゴジン氏はワグネルの拠点をベラルーシに移すとともにワグネルの最大の利権アフリカでの活動に集中する方針を示していました。この裏切り者への甘い態度は、プーチン氏の弱さを示すものだと受け止められていました。
私自身は、プーチン氏とプリゴジン氏の間で妥協が成立し、持ちつ持たれつの棲み分けの関係が続くものと思っていました。それだけに私にとってはこの墜落死は意外でした。おそらくプリゴジン氏はプーチン大統領から安全の保証は得たとして安心していたのだろうと思います。だからロシア国内でも自家用ジェットで移動していたのでしょう。
もしもプーチン氏が関与した政権側によるいわば暗殺だとしたら、その目的は「裏切り者は許さない」「裏切り者に死を」というメッセージをロシアの体制内部に伝え、引き締めることに尽きると思います。
ただ繰り返しますが確証はありません。私はロシアで起こることは全てプーチン大統領が決定しているという仮説は取りません。体制を支える治安機関内部の様々な勢力、軍、プーチン閥と呼ばれる財閥たち、プーチン体制は大統領を調停者とする連合体という性格もあります。内部の対立は時に血生臭い事件になることもあります。従ってプーチン氏が預かり知らないところでこのような事件が起きたとしても私は意外とは思いません。
さて次にこの墜落死の影響です。
今、プーチン政権にとっての問題は、「死せるプリゴジン」をどう扱うかです。プリゴジン氏は、民衆の使う罵詈雑言を交えて、ウクライナの軍事侵攻の失敗を率直に話し、ショイグ国防相らを非難してきました。まさに大衆が聞きたい本音がありました。プリゴジンの乱そのものは支持しないとしてもプリゴジンの言っていることは正しいと考えている人が独立系の世論調査でも50%近くに上っています。ロシアは歴史的に反乱者であっても義を訴えて圧殺された人間に同情を寄せる傾向があります。プリゴジンが大衆から同情尊敬される義人とならないか、クレムリンは警戒していると思います。すでにモスクワやサンクトペテルブルクなどロシア各地ではプリゴジン氏らを追悼する動きが広がっています。
プーチン大統領は、24日、プリゴジン氏ら墜落の犠牲者に哀悼の意を示した上で、プリゴジン氏と自らの関係について次のように述べました。
「プリゴジンとは90年代初めから知っていた。複雑な人生をたどり、大きな誤りも犯したが、自分のためにも、そして最近もそうだが、私が頼むと共通の事業のためにも結果を残してきた」
プーチン大統領はダメージコントロールに移っています。プリゴジン氏と深く長い個人的な関係があったことを明らかにして親しい友人の死を悼むような口調です。
「死せるプリゴジン」はプーチン大統領にとって反乱を起こした裏切り者ではなく、様々な共同事業で協力した同志としてだけ記憶させたいという意図を感じます。
ウクライナへの軍事侵攻について、世論調査では一貫して20%前後が反対、75%前後は賛成という傾向は変わっていません。プーチン大統領はこの20%の戦争反対の動きは力で完全に押さえ込んでいます。政権にとって問題は、戦争支持層のうちおよそ20%とみられるより強硬な手段で戦争を遂行せよという保守愛国主義勢力で、プリゴジン氏の支持基盤となっています。政権にとって危険なのはワグネルの残存勢力はもとより、前線の将校や志願兵など保守愛国勢力の武装化が戦争の中で進んでいると言うことです。「裏切り者には死を」というメッセージは大統領の強さを表すだけでなく、ブーメランのように政権を直撃するかもしれません。裏切り者はお前たちだと保守愛国勢力の非難が政権に向かう恐れがあるのです。
プーチン大統領は、まさにこの保守愛国勢力の武装化を警戒し、統制を維持しつつ、保守愛国勢力を宥めようとするでしょう。政権への批判の矛先をかわすためにも、プリゴジン氏らの墜落死はウクライナあるいは欧米の特殊機関が関与したという方向のプロパガンダを強める可能性があります。ウクライナにとっては、プリゴジンは残虐な戦闘行為を指導した戦争犯罪人であり、処罰したいと言う動機はあるでしょう。しかしそれは全くの推測で仮説の一つに過ぎません。
墜落の原因はロシア内部、プーチン体制の内部にあるという受け止め方が大半でしょう。
ワグネルに近いテレグラムチャンネルも「プリゴジン氏は裏切り者の行動によって死んだ」と述べており、ワグネルの残党には怒りが充満しています。この墜落死は来年三月の大統領選挙に向けてむしろ今後の状況不安定化のきっかけになる可能性もあります。
プーチン体制には様々な不可解な死が付き纏ってきました。その多くの真相は明らかになっていません。この墜落死の真相が明らかになることは、今は難しい、将来ロシアの政権が転換した時に初めて真相が明るみに出るかもしれません。
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