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ウクライナ農産物輸出 ロシアによる合意履行停止で食料危機再燃か〜一日も早く、この戦争を終わらせること/出川展恒・安間英夫・nhk
2023年07月26日 (水)
出川 展恒 解説委員安間 英夫 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/486125.html
【出川】
ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン政権が、先週、ウクライナ産の農産物の輸出を可能にしてきた合意の履行停止を表明しました。
これによって、去年起きた世界的な食料価格の高騰や、アフリカや中東諸国などで食料危機が再燃するおそれがあります。
問題の背景と国際社会の対応について、ロシア・ウクライナ情勢の報道を続けている安間委員と、中東・アフリカ情勢を担当する私、出川の2人でお伝えします。
まず、安間さん、今回のロシアが発表した内容を説明してください。
【安間】
ロシア大統領府は7月17日、ウクライナ産の農産物の輸出をめぐる合意について、「履行を停止した」と発表しました。
この合意は去年7月、ウクライナとロシア、それに仲介役の国連とトルコの4者の間で結ばれました。
ロシア軍は、ウクライナへの侵攻後、黒海に面する南部の港を封鎖するなどしたため、ウクライナ産の小麦やトウモロコシなどの輸出が滞り、食料価格の世界的な高騰が起きました。
合意は、ウクライナ産の農産物をオデーサなど3つの港から輸送する海上ルートと、船の安全を確保することがうたわれています。
ところがロシアは、この合意の見返り、すなわち、ロシア産の農産物や肥料の輸出も滞りなくできるようにするという国連との約束が守られていないと主張し、約束が履行されるまでは合意に復帰するつもりはないと宣言したのです。
【出川】
プーチン政権は、自らの要求が満たされることが、合意に復帰するための条件だと言っているわけですね。
具体的にどんな要求ですか。
【安間】
プーチン大統領が19日示した条件は、こちらの5つの項目です。
@ロシア農業銀行のSWIFTへの復帰
A農業機械と部品のロシアへの輸出再開
B船舶・貨物保険 港湾アクセス 制限の撤廃
Cアンモニア輸出パイプラインの復旧
D肥料会社の銀行口座 制裁解除
このうち、最も重要なのは、一つめの項目です。
ロシア産の農産物は、欧米の制裁の直接の対象にはなっていませんが、プーチン政権は、ロシア農業銀行が、欧米の制裁で、SWIFT(スイフト)と呼ばれる国際決済システムから排除され、輸出に大きな支障が出ているとして制裁解除を強く求めているのです。
口約束では不十分で、実際に農産物や肥料が輸出できるようになるまで、合意の延長と履行はしないと主張しています。
【出川】
この合意は期限つきで、その都度延長する必要があります。
プーチン政権は、合意がロシアの利益になっていないと不満を示し、今回、延長に応じませんでした。
安間さん、プーチン政権の狙いをどうみていますか。
【安間】
一言で言えば、制裁解除に向けた駆け引きと言えます。
軍事的な威嚇や攻撃も交え、ウクライナと欧米に揺さぶりをかけるねらいが読み取れます。プーチン政権は19日、黒海でウクライナに向かうすべての船は軍事物資を輸送している可能性があると見なし、攻撃の対象とする方針を明らかにしました。
またロシア軍は、ウクライナの穀物の主要な積み出し港があるオデーサ周辺で、ミサイルや無人機による攻撃を連日行い、穀物倉庫も大きな被害を受けました。
これに対しウクライナ政府も20日、ロシアやその占領地に向かう船に対して、対抗措置をとると宣言しました。
このように、双方の間で軍事的な緊張が高まり、戦争が黒海に拡大するおそれがあります。
【出川】
ここからは、ロシアが合意の履行を停止した影響を見ていきます。
国連のグテーレス事務総長は、17日、「ロシアの決定は、飢餓に苦しむ世界のすべての人々に打撃を与える」と述べて、事態を打開するため、仲介を続ける考えを強調しました。
国連安全保障理事会でも、この問題に関する緊急会合が開かれ、欧米や日本の代表は、「ロシアは、世界のほかの地域を人質にとった」などと厳しく非難しました。
アフリカのガーナの代表は、「合意が延長されなかったことに深く失望している」と述べました。
WFP=国連世界食糧計画によりますと、去年7月の合意成立以降、ウクライナから世界45か国におよそ3300万トンの食料が輸出され、そのおよそ3分の2は、アフリカやアジアなどの途上国に供給されました。
エチオピア、ケニア、ソマリア、スーダン、イエメン、アフガニスタンなど食料不足が深刻な国も含まれています。
また、合意は、食料価格の安定にも寄与していました。
FAO=国連食糧農業機関が毎月公表している主要な食料品の価格水準を示す「食料価格指数」は、最も高かった去年3月から23%下がっていました。
ウクライナ産の農産物の輸出が止まりますと、世界の食料価格が再び上昇するのは確実です。
私たちの暮らしにも影響が出ますが、最も大きな打撃を受けるのは、アフリカや中東の国々です。
WFPは、ソマリアやスーダンなどアフリカ東部を中心に、数千万人が飢えに直面するおそれがあると警告しています。
【安間】
そのアフリカに対して、プーチン政権は自国への支持をつなぎ止めようとしています。
プーチン政権は、今週7月27日と28日、アフリカ諸国の首脳をサンクトペテルブルクに招いて、4年ぶりとなる首脳会議を開きます。
欧米と対立を深める中、国際社会での支持を拡大するため、アフリカの国々との間で関係強化をはかりたいという思惑があります。
プーチン大統領は、アフリカの友好国に今回の履行停止の決定について理解を求め、そのかわりにロシア産の穀物をアフリカの貧しい国々に無償で提供する用意があると表明する見通しです。
【出川】
しかし、アフリカの多くの国が、気候変動や紛争などさまざまな原因で食料問題を抱えている現状で、ロシア1国だけで、十分な量の食料を供給できるとは思えません。
アフリカの友好国の中には、ロシアの対応に失望や不信感を持つ国も出て、ロシアの国際戦略には、大きなマイナスになると思います。
【出川】
安間さん、一方のウクライナですが、ゼレンスキー大統領は、ロシアが合意に参加しなくても、農産物輸出を続けてゆくことは可能だと発言していますね。
【安間】
はい。ただそれは難しいと思います。
プーチン政権がウクライナに向かう船を攻撃の対象にしている以上、黒海を経由した農産物の輸出はリスクが伴い、続けることはできないでしょう。
陸路で農産物を輸出するのも困難です。
海上輸送と比べて効率が悪い上、ポーランドやハンガリーなど周辺の5か国は、ウクライナ産の穀物の輸入規制を、9月以降も継続する意向を表明しています。
いずれの国も、価格の安いウクライナ産の穀物が流入すると、国内の農家が打撃を受けるためです。
【出川】
食料危機を回避するには、ロシアを合意に復帰させることが不可欠だと思いますが、そのカギはどこにあると見ていますか。
【安間】
ロシア側が駆け引きと捉えている以上、要求がある程度満たされない限り、合意に復帰することはなさそうです。
また現在、ウクライナ南東部では激しい攻防戦が繰り広げられており、戦況も複雑に絡んでいます。
すべての当事者がある程度は妥協しなければ、合意を復活させることはできないと思います。
当面は、合意の成立と維持に大きく貢献してきた国連のグテーレス事務総長、トルコのエルドアン大統領の仲介努力にかかっています。
しかしながら、このところ、プーチン大統領とエルドアン大統領の間には、すきま風も吹いています。
エルドアン大統領が態度を一変させて、スウェーデンのNATO加盟を容認する姿勢を示したこと。さらに、ウクライナのNATO加盟も支持すると表明したことなどが背景にあります。
【出川】
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く限り、プーチン政権が存続する限り、ウクライナ産の農産物が、人質にとられたような状態が続きそうです。
ロシアは、期限を迎えるたび、合意からの離脱をちらつかせ、食料不足に苦しむ人々の命を脅かすことになります。
根本的な解決策は、一日も早く、この戦争を終わらせることです。
それができないのならば、各国が英知を結集して、アフリカなどに食料を送り届ける態勢を確立することが求められます。
国際社会全体に突き付けられた差し迫った課題と言えます。
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