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アメリカ帝国の崩壊は予想以上に早いペースで進んでいる
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2023.06.10 櫻井ジャーナル
OPEC(石油輸出国機構)とロシアをはじめとする非加盟産油国で構成される「OPEC+」は6月4日、2023年末までとしていた減産方針を24年1月1日から12月31日までの期間にも実施することを決めたようだ。
昨年10月5日の減産合意に対し、ジョー・バイデン米大統領は制裁を匂わせていたが、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は個人的にアメリカ政府を脅したという。アメリカが石油削減に報復すれば数十年来の米国とサウジの関係を根本的に変え、米国に多大な経済的犠牲を強いるというのだ。
第2次世界大戦で大きな戦禍を免れ、ドイツや日本が略奪した財宝を手に入れ、ドルを基軸通貨にしたアメリカは支配システムを築いた。ソ連というライバルは存在していたものの、ドイツの軍事侵攻で大きな損害を受け、結局立ち直ることはできなかった。
そのソ連が1991年12月に消滅、ネオコンをはじめとする好戦派はアメリカが「唯一の超大国」になったと信じ、翌年の2月には国防総省のDPG(国防計画指針)草案という形で世界制覇プランを作成した。国防次官だったポール・ウォルフォウィッツが作成の中心だったことから「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。
自分たちの思い通りに世界を動かせる時代が来たと考え、旧ソ連圏、西ヨーロッパ、東アジアなど潜在的ライバルを潰し、資源国を制圧しようというわけだ。ライバルがいないという認識から軍事力を全面に出してくるのだが、その切っ掛けになったのは2001年9月11日に引き起こされたニューヨークの世界貿易センターやバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)への攻撃。そして2003年3月にジョージ・W・ブッシュ政権はイラクを先制攻撃する。
この時点ではネオコンだけでなく、ネオコンに従属する勢力も自分たちの天下が来たと有頂天になっていたが、すぐに雲行きが怪しくなる。サダム・フセイン体制を倒し、フセインを殺すことはできたが、新イスラエル体制の樹立には失敗、親イラン政権ができてしまう。戦乱もおさまらない。
そこでバラク・オバマ政権はイスラム同胞団やサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)を中心とする戦闘集団を編成、リビアやシリアに対する軍事侵攻を2011年春に始めた。この手法はオバマの師にあたるズビグネフ・ブレジンスキーが作り上げたものだ。
リビアでは2011年10月にムアンマル・アル・カダフィ体制が倒され、カダフィ本人はその際に惨殺されるのだが、シリア軍は強く、バシャール・アル・アサド政権を倒せない。そこでオバマ政権はアル・カイダ系武装集団への軍事支援を強化、2014年には新たな武装集団としてダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国とも表記)を登場させた。
その頃からアメリカ/NATO軍を介入させようとする動きをオバマ政権は見せ始める。オバマ政権のアル・カイダ系武装集団支援を危険だと警告していたマイケル・フリンDIA局長を2014年8月に追い出し、戦争に慎重な姿勢を見せていたチャック・ヘーゲル国防長官やマーチン・デンプシー統合参謀本部議長も解任された。ダーイッシュが残酷さを演出していたのはアメリカ/NATO軍を介入させる環境作りだったと見られている。
デンプシーは2015年9月25日に退役、5日後の30日にロシア軍がシリア政府の要請で介入、ダーイッシュを敗走させた。そこでアメリカはクルドを新たな手先として使い始めるのだが、これでアメリカとトルコの関係が悪くなる。軍事介入したロシア軍はその強さとロシア製兵器の優秀さを世界に示し、アメリカへの恐怖が世界的に弱まっていく。
オバマ政権は中東でダーイッシュを編成するだけでなく、ウクライナでは2013年11月からネオ・ナチを使ったクーデターを開始、14年2月にビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒してネオ・ナチ体制を築いた。
アメリカやその従属国はクーデター体制をすぐに承認するが、ヤヌコビッチの支持基盤だった東部と南部の住民はクーデターを拒否、内戦が始まる。アメリカ政府はウクライナを制圧することでロシアからEUへ天然ガスを運ぶパイプラインを抑えたが、その目的はロシアから大きな市場を奪い、EUからエネルギー資源の供給源を断つことにあった。
アメリカのCIAとイギリスのMI6は2014年の9月から12月まで香港で反中国の「佔領行動(雨傘運動)」を仕掛けているが、これによって中国政府はアメリカやイギリスが中国を支配しようとしていることを理解する。
天然ガスの新たな市場が必要なロシアはエネルギー資源の供給源を必要とする中国に接近、アメリカという共通の敵が出現したこともあり、強力な同盟ができあがる。そしてロシアと中国を中心とする世界秩序に参加する国が増えているのだ。
そのひとつがサウジアラビアであり、5月19日にサウジアラビアのジッダで開かれたアラブ連盟の首脳会議ではシリアが復帰している。ウクライナもゲストとして参加しているが、相手にされていない。ロシアも中国もアフリカやラテン・アメリカと関係を強めている。
こうした動きに危機感を持ったのか、好戦的な政策の中心にいるジェイク・サリバン国家安全保障担当補佐官が5月7日にサウジアラビアを訪問、6月6日にはアントニー・ブリンケン国務長官も同国を訪れた。ロシア、中国、イラン、シリアなどアメリカ支配層にとって好ましくない国との関係修復にブレーキをかけ、イスラエルとの国交正常化を訴えたが、希望通りの結果は得られなかったようだ。
アメリカ帝国の崩壊は予想以上に早いペースで進んでいる。
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