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クレムリン激震 反プーチンのロシア人武装組織 ロシア領内に侵入/石川一洋・mhk
2023年06月01日 (木)
石川 一洋 専門解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/484212.html
クレムリンを震撼させる 事件が起きました。反プーチンのロシア人の武装組織がウクライナから国境を越えてロシアに侵入、国境地帯の村を一時占拠したのです。どのような組織か、背後に誰がいて目的は。ウクライナの意図とプーチン体制の対応は?ロシアの歴史も振り返りつつこうした点について考えてみます。
先月22日、ウクライナとの国境にあるベルゴロド州にウクライナから武装集団が侵入しました。武装集団は自由ロシア軍とロシア義勇軍を名乗る二つのロシア人のグループで、国境の検問所を突破、国境にある二つの村を一日以上にわたって占拠しました。プーチン体制の打倒を訴える声明をSNSに投稿しました。
自由ロシア軍司令官
「私たちの最終目標はクレムリンの赤の広場だ。人々よ、勇気を出せ。我々は母国に戻る。ロシアは自由となる」
ロシアは、侵入したのはウクライナ政府の支援を受けた武装テロリスト集団として、正規軍を投入、殲滅作戦を展開、武装集団に打撃を与え、占拠された村を解放したとしています。
ロシア国防省報道官
「ウクライナはバフムトでの敗北を隠すためのテロ攻撃を仕掛け、民族主義武装集団がロシア領に侵入した。反テロ作戦によって武装集団は包囲され殲滅された」
自由ロシア軍などの側は、損害はあったが軽微で、ウクライナ領内に自ら撤退したとしています。いずれにしてもクレムリンにとっては、武装した国境警備隊が守る検問所をやすやすと突破され、国境の村を一時的とはいっても占拠されたことは大きな衝撃だったでしょう。
自由ロシア軍とロシア義勇軍という武装集団は、そもそもどんな集団でしょうか?
戦争でウクライナを支持し、ウクライナの側で戦い、プーチン体制を武力で打倒するという点では一致していますが、イデオロギーで違いがあります。
自由ロシア軍は、ロシア国内の反体制派のロシア人が、ウクライナの側に移り、ウクライナ軍の指揮下にある外国人部隊として結成されました。ロシア軍から投降した兵士も含まれているとみられます。政治部門もあり、今の三色旗の国旗から血を連想させる赤を除いた青と白の新たな旗をロシア国旗とすべきとしています。どちらかといえばリベラルな反体制派にもウィングを広げようとしています。
これに対してロシア義勇軍は、もともとウクライナに住んでいたロシア人が中心で、ウクライナ民族主義のアゾフ大隊とも関係が深く、排他的なロシア民族主義を掲げて、今のロシアに代わる新たなロシア民族のための国家を作るべきとしています。ウクライナ、ベラルーシ、ロシアのスラブ人の団結は掲げていますが、危険なナショナリズムあるいはネオナチとも非難されることもあります。
反プーチンでは一致するものの将来のロシア像ではかなりな違いがあります。リベラルから極右まで役割分担をしながら反プーチンの勢力拡大を図っているようにもみえます。
ポイントはウクライナ政府あるいはウクライナ軍との関係です。公式には、ウクライナ政府と軍は、ロシア人の武装組織が自主的に行った作戦でウクライナは無関係だと強調しています。ウクライナ軍が自由ロシア軍やロシア義勇軍独自の行動と強調するのは、▽ロシア領内が攻撃されたことに対するロシアの報復を招かないためと、▽ウクライナ軍にロシア国内を攻撃しないよう暗に求めているアメリカの立場を配慮したためでしょう。
ただ今回、ベルゴロド州に侵入した武装集団はアメリカから供与された戦闘車両なども使っており、またバフムトなどの戦闘ではウクライナ軍の指揮下で戦っており、ウクライナ軍と何らかの連携したロシア領への攻撃とみるのが自然です。
では今回のロシア領内への攻撃の目的は何でしょうか。
▽一つは自らの存在証明です。国境を突破して一日とはいっても国境地帯を占拠し、ロシアの正規軍を引っ張り出す。両組織にとっては、自らの存在をロシア国民に知らせるには十分な宣伝効果はありました。
▽もう一つは心理的なショックを与えることです。「ロシア国内には戦争は及ばない。戦争は嫌だが、プーチン体制での安定は失いたくない」というロシア国民の安定の幻想に大きな衝撃を与えたでしょう。それは安定を土台とするプーチン体制にとっても同様です。
こうしたことは反プーチンのロシア人の武装組織を利用するウクライナの利益とも一致します。それとともにウクライナにとっては軍事的な意味があります。ロシアは、ウクライナと直接国境を接する地域にもロシア人部隊の次の侵攻に備えて軍の部隊を増強する必要があるでしょう。これから反転攻勢を目指すウクライナにとっては、ロシア軍の戦力を分散させることは重要です。
少し歴史をさかのぼってみますと、広大な領土を持ち、中央集権的な体制が続いたロシアとの戦争では、常に相手方は、ロシアの中に手を突っ込み、その体制を揺さぶることで、自らに有利な状況を作ろうとしてきました。
日露戦争においては、ペテルブルクの駐在武官だった明石元二郎大佐がロシア帝国の支配下にあったフィンランドなどの民族組織や社会主義勢力まで幅広く反体制派と接触し、資金を提供して、帝政を揺さぶろうとしました。1905年の血の日曜日事件をきっかけに第一次ロシア革命と呼ばれる騒乱状態が起きて、戦争継続が難しくなり、日本は有利な状況で講和に持ち込みました。
第1次世界大戦では、ドイツ帝国はイデオロギー的には敵対するボリシェビキのウラジーミル・レーニンと妥協、封印列車でドイツ領内を通過させロシアに送りこみました。レーニンは1917年、10月革命で戦争継続の臨時政府を倒し、ドイツ帝国は、レーニンのソビエトロシアと非常に有利な単独講和を結びます。ちなみにこの時ウクライナもドイツの支援のもと最初の独立を果たします。
第二次世界大戦の独ソ戦でナチスドイツが利用したのは、ソビエト赤軍からの反乱軍ロシア解放軍でした。解放軍の指導者ウラソフ将軍は、モスクワ防衛の赤軍の英雄でしたがドイツ軍に包囲され降伏。スターリン体制の打倒を目指して解放軍の指導者となり、赤軍兵士に投降を呼びかけました。しかしロシア人を二等民族と蔑視するナチスドイツには結局利用されただけに終わり、戦後裏切り者として処刑されました。
このように多民族な帝国でもある大国ロシアは戦争では内側に手を突っ込まれ、揺さぶられてきました。戦う相手は逆に常にそれを狙ってきました。
軍事侵攻を受けるウクライナとしては、反プーチンのロシア人武装組織を支援することによって、プーチン体制を揺さぶり、弱体化させ、ロシア国内で戦争継続が難しくなる状況を作り出すことを狙っているのです。
先月30日、首都モスクワがドローンでの攻撃にさらされました。大統領の公邸も近くにある地域で、私もよく知るモスクワの高層住宅街ですが、ロシア人武装部隊と同様、心理的なショックを与えるための攻撃でしょう。
反転攻勢が始まれば、ロシア軍内部からの反乱を促し、その受け皿としての役割を二つの武装組織に担わせる。このようにロシア人武装組織はウクライナの反転攻勢と密接に連携した動きだと思います
ではプーチン体制はどう動くのでしょうか。私は、現段階では、まだ体制を揺らぐ状況ではないとみています。ロシア国民の安定志向は強く、体制が崩壊する混乱と今の体制存続を比較して、よりましな悪として現体制の存続を求める気持ちはまだ強固だからです。
しかし体制は、反プーチンの武装組織への支持が国内に広がることを非常に警戒しており、今後国内の締め付けを強めようとするでしょう。
ただそれはもろ刃の剣です。強権的に抑え込めば抑え込むほど、逆に武器をも持っても戦おうという少数者を生み出すことになるかもしれません。
ロシア人中心の二つの組織の支持が広がるかどうかは、ロシア国内の少数民族への広がりを持つことができるかどうかが大きなカギを握っているように思います。今後の動向に注目したいと思います。
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