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2023年4月2日 16時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/241550?rct=national
新型コロナ禍初期に、未承認の薬でありながら、「観察研究」の名目でコロナ患者への投与が続けられた「アビガン」。厚生労働省は、その使用実態に関する調査結果を2月中旬、しれっと発表した。本紙「こちら特報部」の情報公開請求には「不当に国民の間に混乱を生じさせる」として、全て黒塗りで伏せてきた、にもかかわらずだ。発表はA4の紙1枚。結局、アビガン観察研究とは何だったのか。そんな簡単な報告で終わっていいのか。(木原育子)
◆「有効性を証明できない」厚生労働省専門部会の結論
アビガンは元々は、富士フイルム富山化学(東京)が開発した新型インフルエンザの治療薬だ。
2020年4月、新型コロナの緊急事態宣言を初めて発令した時の記者会見で、安倍晋三首相(当時)が「(コロナの)症状改善に効果が出ている」と言及。コロナへの有効性を示す治験結果がないにもかかわらず、政治判断によって、医師の管理下で患者に投与する「観察研究」が進んだ。
富士フイルム富山化学は治験による正式承認も目指したが、20年12月の厚生労働省の専門部会で「有効性を証明できない」と未承認に。北米やクウェートの海外治験でも証明できなかったのに、観察研究での投与は続けられた。
それから1年後の21年12月、厚労省はアビガンの観察研究の中止を突然発表。処方した医療機関には、使用状況の調査を実施していた。その結果について「こちら特報部」が問うと、「必要があれば出す」「発表しない選択肢もある」とあいまいな回答。そこで「こちら特報部」は昨年4月、使用実態を検証するため情報公開請求した。
◆黒塗り文書「不開示の理由の示し方に問題」
だが、昨年8月に出てきたのはA3サイズ23枚に及ぶ全面黒塗り文書。個人情報保護や法人の正当な利益を害するおそれがあること、そして情報公開法5条5号にあたる「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがある」ことが不開示決定の理由とされた。
一転したのは、今年2月17日に都道府県に通知された事務連絡だ。別添で結果が発表されていた。
厚労省パンデミック対策推進室の竹下望室長は言う。「請求を受けた時、公開するかどうか決めておらず、公開しないとまでは言っていなかった。本当は早く何らかの整理をするべきだったんですが…」
随分ニュアンスが違う。竹下室長は「回答した医療機関の中には、最前線で奮闘していただいた病院もある。情報が出ることで、病院が不当に扱われてはいけない」。個人情報や法人情報に当たらない投与人数や投与数などは開示できたのでは。「医療機関に回答を問い直したり情報が錯綜さくそうしたり、結果を固定できなかった」と説明した。
NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「時の経過とともに公開される情報はある。医療に関する情報は高度なプライバシーで、扱いが慎重になる傾向は理解できる」としつつ「元々の不開示理由で、請求者は具体的な説明を受けていなかったはず。最初の理由の示し方に問題があったのでは」と指摘。請求者に対しては黒塗り開示のまま、別の形で結果発表した手法にも疑義を呈した。
三木さんは「情報公開請求が来た時点で『判断できない』とはありえない。情報公開法に基づき、開示か不開示か決定することになっている。情報提供を求められて『なかなか判断できないんですよね』と回答するのとは意味合いが全く違う」と、請求への真摯しんしな姿勢を厚労省に求めた。
なお「こちら特報部」は黒塗り開示を受け、厚労省に対し、行政不服審査請求をしている。
◆1枚の報告書からも「お粗末な実態明らか」
情報公開のあり方だけではない。アビガンの観察研究の結果も散々だった。A4サイズでわずか1枚の報告書からも、不十分な管理態勢での投与が浮かぶ。
報告書によると、コロナ初期から21年12月までに、約1160施設の5万1008人に投与された。
アビガンは胎児に影響を及ぼす懸念があるため、妊娠の可能性のある女性らへの投与は禁忌だが、そうした女性に服用させた事例があったほか、千葉県の公立病院では、処方してはいけない自宅療養者ら約90人に投与していた。
これら以外にも、5施設429人で、入院以外での使用などルール違反があった。健康被害は報告されなかったという。
薬害オンブズパースン会議のメンバーで、江戸川大の隈本邦彦・特任教授は「大変お粗末な実態が明らかになった」と指摘する。
特に懸念するのは数字の差だ。厚労省は観察研究の形でアビガン供給するにあたって、全ての患者の登録を医療機関に求めた。医療機関は内部の倫理委員会などの承認や患者の同意を得て、研究に登録。投与後の臨床経過と副作用を報告するからこそ、公金の負担のもと、未承認薬を無料で投与できるという立て付けのはずだった。
だが、観察研究の事務局である藤田医科大学(愛知)に報告された患者情報は1万7508人。つまり、投与された患者の3分の1しか、具体的な情報を把握できていなかった。
隈本教授は「無料で国から薬を受け取っておいて、患者の情報は登録しないずさんさ。観察研究の形で薬を供給すれば安全と考えた国の制度設計自体が甘かった」と憤る。
厚労省の竹下室長は「差があるのは認識している」と答えるにとどめる。
◆与党からも批判「治験なき投薬なんて…」
与党からも批判の声が出た。医師で弁護士の古川俊治・参院議員(自民)は「諸外国ではあっという間に治験の態勢を組んだ。治験なき投薬なんてありえない」と怒りと悔しさをにじませ、「これがまかり通るなら、製薬企業はなぜ苦しい思いをしてデータを積み上げ、治験のクリアに全力を注ぐのか」と問う。「本来は国立国際医療研究センターを中心に治験態勢を組まなければならなかった。二度とこんな失態を犯してはいけない」と言葉を強めた。
アビガンには多額の税金が投入された。昨年3月の決算委員会で質問した杉尾秀哉・参院議員(立憲)への厚労省の回答によると、国はアビガンを159億円で買い上げ、その後、治験支援として14億7000万円を交付。富士フイルム富山化学に増産の必要性が生じたため、設備整備事業費として40億6000万円を投入した。
元厚労官僚で神戸学院大の中野雅至教授(行政学)は「与えられた政策命題があった場合、利用できる手段を考え、理屈を立て、良くも悪くも実現に走るのが役人。アビガンを絶対に活用するという命題に厚労省は背けなかったのだろう」と推測。「今回の結果を基に省内でしっかり検証するべきだ」と求める。
治療薬だけではない。コロナ初期にアビガンとともに、政策決定の不透明さが指摘されたのがアベノマスクだった。神戸学院大の上脇博之教授(憲法学)は、マスクの納入業者や契約文書などの公開を請求したが、マスクの単価などが黒塗りで開示されたため提訴。3月中旬に開示決定された。
上脇教授は「政策決定が本当に妥当だったかは、情報公開請求などして検証するしかない。もう済んだこと、まだやっているのかというなら、憲法の国民主権はこの国から吹っ飛ぶ」と警鐘を鳴らす。「徹底した検証がなければ、再発防止策は立てられない。同じ過ちを繰り返さないために教訓を引き出す必要がある」と話す。
◆デスクメモ
「各国からアビガンを分けてほしいと言われる」。アジア駐在中だったコロナ禍初期、日本大使館関係者は誇らしげだった。いまや信じ難い話だ。アビガンにしろマスクにしろ、国や政権の存在感を示す材料に、との打算がなかったか。成功した時だけ宣伝するのが情報公開ではない。(北)
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