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2023年12月2日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/293466?rct=national
今年のイネの種子は売れません。
岐阜県の稲作農家が、こんな仕打ちに翻弄(ほんろう)された。なぜ売れないのか。原因を究明すると、種子を供給する「三井化学クロップ&ライフソリューション」(東京都)が実は7年前から、産地の偽装表示・純度不足などの問題を抱えた種子を販売していたことが判明。民間企業の種子ビジネスを後押しする種子法廃止から5年、危惧されていた問題が顕在化した。同法廃止を違憲として訴訟している弁護団は近く、今回の問題を刑事告発する方針だ。(曽田晋太郎、安藤恭子)
◆1400万円の売り上げが「大幅減」
「他品種を混ぜていたなんてあり得ない。いいかげんなことをやっていた会社で、供給者としての責任がない。もう取引はしない」
岐阜県大垣市で「みつひかり」の種子を20年以上販売していた今津清治さん(56)は、今回の不正に語気を強めて憤る。昨年の実績では、みつひかりの種子の販売量は3400キロで約1400万円の売り上げがあり「収入源が大幅に減り、大打撃を受けた」。
三井化学が開発し、牛丼チェーンや大手スーパーで採用されてきた人気の品種「みつひかり」。粒が長く収穫量の多さが特徴で、全国で1400ヘクタール近い作付面積がある。民間企業の参入阻害が理由とされた種子法廃止の前には農林水産省も「所得は遜色ない」「民間企業も優れた品種」と太鼓判を押してきた品種だ。
◆一方的に「出荷しない」2月に告げられ
今津さんが、知人から「同社が今年の種子を出荷しない」と聞いたのは2月16日。「コメの生産者を含めて大問題になる」と翌日、同社の担当者と面会し、真偽を確かめたが「天候不順などで今年は品質が保証できる種子の販売はできない」と告げられた。
今津さんは「農家に早く周知しなければ別の品種に変えようとも生産が間に合わなくなる」と、同社側に報道機関への公表を求めたが、同社は「現場が混乱するので公表しない」との返答だった。
コメ農家への影響も甚大だ。同県養老町で農業生産法人を営む田中良明さん(46)は2月、今津さんから同社が今年の種子を出荷しないと知らされた。既に今年の生産計画を立て、みつひかり用の肥料も購入しており「困惑した」。生産計画の見直しを迫られ、他品種の栽培も考えたが、肥料はキャンセルできず、苦肉の策で同社が無償提供する品質が未保証の種子を活用して飼料用米を作ることで危機をしのいだ。
◆謝罪なく「あきらめの気持ち」
田中さんは「一度信用をなくしたみつひかりの需要はもうない。来年は別の品種で主食米を作る。会社からは謝罪もなく、あきらめの気持ちしかない」と声を落とす。
不可解な出荷停止から5カ月後の7月7日、農水省は種苗法に違反する種子を販売していたとして同社に「報告徴収命令」を出し、違反内容や発生原因の報告を同社に命じた。
同社は同月13日に「2016年より『みつひかり2003』において、保証票に不適切な表示を行い、販売していた」などとし、おわび文と過去に販売した種子の回収を公表した。
◆「茨城産に愛知産を混合」
同社が8月に提出した報告書によると、3月にみつひかりの種子の計上在庫が実在庫と異なることが分かり、在庫の架空計上の可能性が浮上。22年まで不正行為として、
▽茨城産に愛知産を合わせるなど生産地の異なる種子の混合(16年以降)
▽別の種類の種子を混合(17年以降)
▽発芽率は「90%以上」と表示していたが多くの種子ロットで満たさず、ほぼ全量が満たさない年もあった(19年以降)
と明らかにした。
今津さんは「なぜ当初の段階で説明してくれなかったのか。本当に信用できない」と落胆する。
◆「厳重注意以上の対応は必要ない」と国
不正の原因について三井化学は「みつひかり2003の種子の生産量が販売計画数より不足する傾向が続いていたため、計画通りの数量を確保しようとして種子の混合を行い、その表示をせず販売していた。技術的、管理的、人的側面で不備があった」とした。担当者は「取引先を個別に訪問するなどして継続して説明を行っている。再発防止に万全を尽くす」と話した。
農林水産省は11月2日、同社を厳重注意。同省農産局穀物課の担当者は「今後の改善が見込まれ、過去の事例とも照らして行政処分ではなく厳重注意が妥当と判断した。それ以上の対応は必要ないという認識だ」と説明する。
だが、こうした幕引きの動きに待ったを掛けるのが、民主党政権時代に農相を務め、種子法廃止違憲訴訟弁護団の共同代表を務める山田正彦弁護士だ。「みつひかり2003が足りず異なる品種を混ぜた。これでは全く違うものだ。産地も違う、発芽率も足りない。あり得ない。詐欺じゃないか」と話す。
◆想定された事態「法廃止は根本的な誤り」
山田さんによれば、種子法の廃止時点で想定された事態という。戦後の食糧難を経て1952年に制定された同法に基づき、都道府県は公的資金を投じて種を開発。土地や気候に合う優秀な種を「奨励品種」と定め、農家に提供してきた。これがみつひかりのような民間の種子事業参入を阻んでいるとされた。
山田さんによると、例えばコシヒカリの種子は1年目は「原原種」、2年目は「原種」として異株を取り除きながら増殖させ、種子農家での栽培を経て、4年目に生産農家に販売される。これに対し、みつひかりの種子は1年で完成するF1種(1代交配種)で、農家は種が採れず、毎年買い替える必要がある。
弁護団によると、現在34の道県で種子法に代わる条例が制定され、地域のコメを守る取り組みが継続している。共同代表の岩月浩二弁護士も「品質を確保しようとすれば、必然的に高コストになる。利益を目的とする民間企業には望めない。今回の不正は、種子法廃止の根本的な誤りを示している」と断じる。
◆命と健康に関わる…公共が担わないとだめ
国会議員や農業に詳しい専門家らが、12月中旬までに、種苗法違反事件として同社を警視庁に告発する方針を固めている。種子法違憲訴訟は、国の主張を認め棄却された今年3月の一審東京地裁判決を不服とし、控訴審で係争中だが、「既に不正な種子が出回る状況が起きている」(岩月さん)と今回の問題を挙げ、種子法廃止の誤りを問うていくという。
告発について、三井化学は「コメントできない」とする。民間参入を促す種子法廃止で危惧されたことが現実化したとの指摘について農水省は「法廃止に伴い民間の種子の品質確認が強化された中で今回の不正発見に至っており、意義はある」とした。
「種子だけじゃなくて水道、教育、医療も同じ。命と健康に関わるものは公共が担わないとだめだ」と唱える山田さん。同様に、市民グループ「北海道食といのちの会」会長の久田徳二・北海道大客員教授(農業経済学)も「主食であるコメの安全性や安定供給を著しく損ね、生産者も消費者の信頼も裏切った。許しがたい事態だ」と今回の不正問題を受け止める。
◆「国と都道府県の責任で行うべき」
技術も経験も不足する民間企業の参入に重きを置いて種子法を廃止した政府の姿勢も問われるとし、「国と都道府県の責任で行う公的種子事業こそがあるべき姿だと、あらためて示されたのではないか」とみる。
「多国籍企業が進める遺伝子組み換えやゲノム編集品種の受け入れなど、もってのほかだ。消費者にとっては、地域で長年育んできたコメを大切にしていくことが自分たちの食卓を守ることになる」
◆デスクメモ
種子ビジネスの拡大を国が後押しするための種子法廃止は2018年。だが、三井化学の報告書によると、すでに16年に産地の異なるみつひかりの混入を表示せずに販売する不正があり、ずっと続いてきた。あらかじめ裏切られた「改革」。強引に進めてきた国の責任は、極めて重い。(歩)
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