サウジをイランと和解させ対米従属から解放した中国 2023年3月17日 田中 宇 3月10日、中国の仲裁でサウジアラビアとイランが和解した。サウジとイランは2016年から対立し続け、両国の首都にある互いの大使館も閉鎖されていたが、今回は対立を解消して相互の大使館を2か月以内に再開し、安全保障や貿易投資などの分野の協力も再開することを決め、両国の代表が北京で合意文に調印した。米国の支配下にあった中東で、中国がこれだけ大きな外交業績を挙げたのは画期的だ。 (China-brokered Iran-Saudi Deal Threatens to Push US Out of the Gulf and Washington Knows It) (Iran, Saudi Arabia agree to resume relations, reopen embassies)サウジとイランと中国は昨年末から和解交渉を重ねていたが、交渉では英語を全く使わず、アラビア語とペルシャ語と中国語で、通訳を介して話し合うようにした。これは、英語を共通語としてきた既存の米英覇権下の外交体制からすると異質だし画期的だ。非米・多極型の世界体制の立ち上がり、英米覇権終焉への道を象徴している(必死で英会話をやりたがり、米英帰りを崇拝する日本人は時代遅れの間抜けになる)。英語を使わないことにより、米英が交渉の中身を傍受して妨害策をとることを難しくしたともいえる。 (Several details of the reconciliation deal between Iran and Saudi Arabia have leaked) (China leaps into Saudi-Iran diplomacy as nuclear talks move) 昨年12月に習近平がサウジを初訪問し、今年2月にはイランのライシ大統領が中国を初訪問するなど、中国がサウジとイランの両方と関係を強化している感じが最近あったが、米国側のマスコミは「中東は米国の支配が強いので、中国がやれるのは経済部門だけだ。外交安保の分野で大したことができるはずがない」と中国をけなしていた。サウジは2018年ぐらいからイランと和解したかったが、中東の分断支配とイラン敵視を続ける米国に阻止されてきた。今回、中国が和解の仲裁に成功したことで、サウジや、サウジを盟主とするアラブ諸国は、米国より中国(中露)を頼る傾向になった。中国が中東の覇権を急拡大し、米国覇権の終わりが近づいている。米政界は、このタイミングで中国敵視を強めている。自滅的というか隠れ多極主義的だ。 (Xi lacks diplomatic muscle on Iran nuclear talks: analysts) (Will Regime-Change Now Come To Riyadh?) サウジでは2015年に権力を握ったMbS皇太子が、米諜報界から故意に間違った入れ知恵をされてイラン敵視を強め、サウジの人口の15%を占めるシーア派への弾圧を強めたので、イランとの国交が断絶した。またMbSは米国にそそのかされてイランの影響が強いイエメンとの戦争も開始したが、戦争は泥沼化して長期化した。MbSは失敗を認めざるを得なくなり、イエメンでサウジと戦うフーシ派の背後にいるイランと和解して戦争を終わりにしたいと2018年ごろから思うようになった。だが、米国はイランを敵視し続けており、サウジがイランと和解することに反対し続けた。トランプ米大統領はMbSに、イランでなくイスラエルと和解しろと勧めた。MbSは、サウジが盟主であるアラブ諸国の中でイランとも親しいオマーンやイラクに仲裁を頼んでイランと和解しようとしたが、それも米諜報界に邪魔され続けた。MbSは、昨年末にサウジを訪問した習近平にイランとの和解の仲裁を頼み、今回の和解実現につながったと考えられる。 (イランとサウジの接近を妨害したシーア派処刑) (イランとサウジが和解。イスラエルは?) 少し前なら、サウジがイランとの和解の仲裁を中国に頼んでも断られていたはずだ。数年前まで、中国は経済的に米国に強く依存していた。製造業の技術の多くと、資本の多くが米国から来ていたし、作った製品の最大の市場も米国だった。決済通貨は世界的にドルだったし、世界の石油ガス利権も米国勢が握っていた。中国共産党の上層部も親米派が多かった。だが、それらの状況はこの数年で劇的に崩れた。トランプ以来、米国は中国との経済関係を断絶する姿勢を強め、中国は米国依存をやめざるを得なくなった。中国は成長し、資本や技術や消費市場を米欧に頼らなくても中国国内で調達できるようになった。コロナ危機は、都市閉鎖の超愚策によって欧米市場を大幅に縮小させた。 (コロナ危機は世界大戦の代わり) (コロナ危機の意図) 昨春のウクライナ開戦後、米欧が、ロシアや親露諸国から石油ガスを買わなくなる自滅策をやり出した。中国はロシアと結束し、OPECの盟主であるサウジを仲間に取り込み、石油ガスの大産出国であるイランも入れて非米側として結束した。非米側が、米国側が対露制裁と称して売ってくる喧嘩を中露主導の非米側が積極的に買っていくと、米国側は自滅が加速して覇権崩壊し、世界は中露主導の非米・多極型の覇権に転換していく。米英が覇権維持のために中東など世界各地で誘発していた戦争は沈静化し、非米諸国は戦後初めてちゃんと安定し、旺盛に経済発展していける。中国にとって、世界を良くしつつ自国を繁栄させられる好機が来た。 (Praising Iran-Saudi Pact, China Says Agreement Will Help Rid Region of ‘External Interference’) (中露が誘う中東の非米化) 中国共産党の上層部は習近平になるまで、トウ小平以来の親米派(経済面の対米従属派)が握っていたので、習近平はまず自分の独裁を強化して党内の親米派を無力化する必要があった。そうしないと、習近平が世界を非米化しようとしても党内の親米派に邪魔される。それで習近平は、まず昨年秋の党大会で自分の独裁体制を確立した。その直後にサウジを訪問し、サウジが希望するイランとの和解を中国が仲裁することを決め、サウジとその傘下のアラブ産油諸国が産出する石油ガスをすべて中国側(中国と一帯一路の諸国)が買い占め、欧米側に売らなくて良いようにする話もした。サウジ側から中国側への石油ガス販売はドルでなく人民元などで行い、米覇権の根幹に位置していた石油のドル決済体制(ペトロダラー体制)を破壊する策も決めた。 (習近平独裁強化の背景) (中国が非米諸国を代表して人民元でアラブの石油を買い占める) サウジが抱える問題の根幹は、イランとの対立でなく、安全保障を米国に依存していることだった。米国に妨害されても、安保的に対米従属でなかったら、サウジは米国の妨害を乗り越えてイランと和解できたはずだ。国家にとって一番大事な安保面で対米従属だから、サウジは米国に反対・妨害されるとイランと和解できなかった。サウジは安保つまり諜報の面で米国依存なため、米国からウソの諜報を入れられ、信じ込まされたMbSが2015年に自滅的で間抜けなイエメン戦争に突入した。もっと前には、サウジが諜報的に対米依存だったため、米諜報界がサウジのイスラム原理主義者たちを操ってアルカイダのテロ組織を動かしたり、よく見ると米当局の自作自演である911テロ事件を起こしたりした。 (米国に相談せずイエメンを空爆したサウジ) (解体していく中東の敵対関係) 米国とその傘下の欧日で世界経済の大半を持っていた時代は、サウジの対米従属が石油収入という巨額な見返りをもたらしており、良い国家戦略だった。だがいまや米欧日の経済は衰退しており、世界の経済発展の中心は中露BRICSなど非米側に移りつつある。対米従属をやめて非米側に転じ、中国など非米諸国に石油を売るのがサウジの最善策になっている。中露にとっても、サウジが非米側に転入してくる方が、非米側のエネルギー体制を強化できるし、米国側を石油不足に陥れて覇権転換を早められるので好都合だ。サウジが対米従属である限り、米諜報界がサウジ政府の機密文書を盗み見できてしまうので、サウジをBRICSなど非米側の戦略会議に入れることもできない。サウジを安保的に対米自立させることが、中露にとって必要だった。 (Mediated By China Iran And Saudi Arabia Restore Ties - There Are Winners And Losers) (US Doesn’t Want Countries Working With Syria’s Assad on Earthquake Relief) サウジを安保的に対米自立させる早道は、サウジと周辺諸国との対立や緊張関係を全部解決してしまうことだ。周辺との対立がなくなれば、サウジは米国の兵器を配備する必要がなくなり、米国の諜報に頼る必要も低下する。そして、イエメン戦争やカタールとの対立、国内シーア派の反政府運動など、サウジと周辺との対立のほとんどは、イランと和解することにより解消できる。ISISやアルカイダなどイスラム主義のテロ勢力もサウジの内部的な脅威者たちだが、これらは米諜報界の支援がないとしぼんでいく。サウジとその子分であるアラブ諸国が対米従属をやめると、米諜報界や米軍がアラブ諸国に駐留してISカイダを支援する構図も消失し、ISカイダはしぼむ。イスラエルも以前はサウジにとって脅威だったが、トランプがイスラエルとサウジの仲を仲裁して以来、イスラエルはサウジの敵でなくなっている。イランと和解すれば、サウジは対米自立しても自国の安全を維持できる。 (Israeli Official Blames American "Weakness" For China's Iran-Saudi Deal) (Israel, Saudi Arabia Hold Talks On Increasing Military Ties) サウジがイランと和解すると、サウジは自滅的なイエメン戦争をやめられ、これから発展する非米側に石油を売って繁栄し続けられ、ペルシャ湾岸地域全体の緊張が緩和され、サウジが率いているアラブ諸国も引っ張られて対米自立していくので、戦争を扇動していた米諜報界は中東全体から追い出され、米諜報界に支援されて殺戮をやってきたISカイダのテロ組織もしぼみ、中東が平和と安定、経済発展がもたらされて人々が幸せになり、中国企業は新たな市場を得て儲けられる。イスラエルは取り残されるが、イスラエルだけでイランとアラブの両方と戦争するわけにいかないので、サウジそしてイランとも和解していかざるを得ない。アラブ諸国は近年イスラエルを敵視しておらず、イスラエルが潰されて終わるシナリオはもうない。 (Israel Says Its Window to Attack Iran Is Closing Due to Russian Support) (Another Gulf State Opens Airspace For Israeli Carriers As 'Normalization' Advances) このように、サウジがイランと和解して非米側に転じることは、サウジとイランだけでなく中東全域と、中国とロシアの全員にとって利益になる。だから習近平は、昨年10月末の共産党大会で中国での権力を確立した後、急いでサウジとイランの和解を仲裁し始め、12月にサウジを訪問し、今年2月にイランのライシ大統領が訪中し、3月に入って双方の安保担当者が北京で数日かけて最後の調整をした後、和解の調印を実現した。今後は、中国がアラブ諸国の全体とイランとの和解を仲裁していく方針で、今年中にアラブ諸国とイランの首脳が北京に集まって史上初のサミットを開く予定になっている。中国は、米国に替わる中東の覇権国になっていく。 (China To Host Major Middle East Summit After 'Success' Of Iran-Saudi Deal) (China is finally stepping up to its role as a superpower. This will change the world) 中国は、ロシアと連携してこの戦略を進めている。中国はイランとサウジの和解を担当し、ロシアはシリアと周辺諸国の和解を担当している。3月14日、シリアのアサド大統領がモスクを訪問し、今後のことをプーチンと話し合った。シリアには最近、エジプトなどアラブ各国から外相らが次々と訪れている。サウジが盟主のアラブ諸国で構成するアラブ連盟は一昨年あたりからアサド政権のシリア政府を連盟に再招待したいと考えてきたが、アラブは対米従属なので、米国の反対を受けて延期してきた。それが今回のサウジとイランの和解、サウジの対米自立により、アラブ諸国の全体が対米従属から解放される流れになり、いよいよアラブ連盟がアサドのシリアを再招待できる状態になっている。 (Putin Rolls Out Red Carpet For Assad In Rare Moscow Visit) (許されていくアサドのシリア) 今後サウジなどアラブ諸国がアサドを再招待してシリア内戦の終わりを宣言し、それをロシアが歓迎する。シリア内戦でアサドが勝ち組になると、トルコは負け組になる。トルコはアサドと戦争してきたが、アサドを擁護してきたロシアとは仲が良い。だからロシアは、シリアとトルコの和解を仲裁し始めている。シリア内戦では、ロシアが空軍で、イランが地上軍でアサドの政府軍を支援してきたので、イランも勝ち組だ。従来の米覇権下の中東では、イランはアラブの敵だ。だが今やアラブは中国の仲裁でイランと和解していく。その流れをくんで、ロシアはイランと、シリアを再招待するアラブとの間を仲裁しようとしている。イランは、影響圏であるペルシャ湾とシリアの両方で、中露の仲裁を受け、アラブと和解していく。 (ロシアがイスラエル・イラン・アラブを和解させていく) (Russia, Turkey wait for reply from Syria, Iran regarding proposed meeting in Moscow - MFA) シリアにはまだ数百人の米軍が駐留している。アラブ諸国はアサドと仲直りした後、米国に対し、米軍をシリアから撤退してくれと頼むことになる。米軍はシリアに駐留し、アサドの敵であるISカイダのテロ組織と、クルド人の軍勢を支援してきた。米軍撤退と米覇権の消失により、ISカイダはしぼんでいく。クルド人も米イスラエルの傀儡だったが、彼らは枯れすすき的なISカイダと違って大昔から地元に住んできた人々なのでいなくなれない。クルド人はシリア、トルコ、イラク、イランの各政府に監視されつつ分割状態のまま生きていくことになる。 (サウジの接近で分割を免れたイラク、夢破れたクルド) (China Blasts America's "Illegal" Occupation Of Syria In Wake Of Failed House Vote) 中東ではイラクにも2000人ほどの米軍が駐留している。イラクの米軍も、ISカイダの支援とイラン抑止が目的だ。かつてオバマがイラク米軍を撤退しようとしたところ、米諜報界がISISを作ってイラク東部を戦争に陥れて妨害した。イラクとイランの政府は米軍を撤退させたいが、撤退しろと加圧すると米軍はISをテコ入れして戦争を再燃させるので手が出せず、米軍駐留を容認してきた(建前上はイラク政府が米国に派兵を要請したことになっている)。だがこれも、今後の中東での米覇権低下とともに撤兵に向かっていく。今月はイラク侵攻から20周年だ。20年たって、ようやくイラク戦争が終わリそうな事態になっている。 (敵としてイスラム国を作って戦争する米国) 最後に残る最重要な問題はイスラエルだ。しかしこれも、プーチンが手柄にできる良い手がある。イスラエルは1960-70年代の中東戦争でシリアからゴラン高原を奪い、現在まで占領してきた。イスラエル政府はかつてゴラン高原をシリア(アサドの父親)に返還してシリアとの関係を劇的に改善し、イスラエルが抱える周辺諸国との緊張関係の北半分を解決しようとした(シリアと和解すれば、影響下ににあるレバノンとも和解できる)。だが、その交渉を秘密裏に続けている間にアサドの父が2000年に急死したので和解策は頓挫した。 (Can MbS square his new friends in Iran with Israeli normalization?) (イスラエルとレバノン) 頓挫したものの、イスラエルは今もゴラン高原を返還可能な状態にしている。聖地が点在するヨルダン川西岸は誰にも渡せないが、ゴラン高原は好条件なら手放しても良いとイスラエル諜報界は思っている。今後、米国が中東から出ていき、イスラエルは唯一の後ろ盾を失う。アサドは勝ち、中露の傘下でシリアが安定し、イランの勢力がシリアを闊歩して国境沿いのイスラエルの近くまでやってくる。アラブもイランの味方になる。これまでのようにイスラエルがイランを敵視し、アラブを恫喝し続けていると国家滅亡になる。イスラエルはもう戦争できない。世界で最も優秀なユダヤ人の交渉力を発揮し、戦争でなく外交で、中東のすべての主要勢力と和解していかないと、イスラエル国家を存続できない。プーチンはイスラエルの窮地を知っており「協力しますよ」と言いながら含み笑いしている。キーワードはゴラン高原の返還だ。 (プーチンの新世界秩序) (プーチンが中東を平和にする) これからアラブ連盟に再招待されて国際社会に復帰するアサドのシリアは、以前から求めていたゴラン高原の返還をイスラエルに再要求する。ロシアの仲裁で非公式にイスラエルとシリアが交渉し、ゴラン高原の返還を決める。返還の見返りに、シリアだけでなく、中東のイスラム側の諸国のすべてがイスラエルと和解するか、最低でも敵視をやめる枠組みが、ロシアの仲裁で作られる。イスラエルはアラブ諸国と協力してパレスチナ問題の解決につとめると約束するが、同時にアラブやイスラム側は、以前のような「(今のイスラエル全土を含む)完全なパレスチナ国家の設立」を求めることはしない。1967年の停戦ライン(グリーンライン)をそのまま国境線にする「完全な2国式」も要求しない。イスラエルの現状を受け入れた、トランプやオルメルトの解決案に近いものを具現化していく。その線なら、イスラエルは入植地をあまり撤去しなくてすむ。これでパレスチナ問題を解決したことにする。 (イラン・シリア・イスラエル問題の連動) (ロシア、イスラエル、イランによる中東新秩序) 完全な2国式に比べ、パレスチナ人は大幅に譲歩させられる。国際左翼など活動家たちは不満だ。だが、これによって中東は大きく安定し、イスラエル国家を滅亡させる戦争も回避される。米国が中東から撤退し、戦争はもう起こらない。クリントンが実現できなかった「平和の配当」が、30年後にようやく配られる。こうした展開が具現化するのかどうかわからない。だが、このぐらいしかうまくいく道筋はない。イスラエルにとって今いちばん頼りになるのはプーチンだ。ロシアは最近、パレスチナのハマスの代表をモスクワに招待し、ラブロフ外相が会談した。そして、ロシアの影響力拡大と同期するかのように、米国はイスラエルとの協力関係を解消している。 (Hamas says leadership visited Russia, met Sergey Lavrov) (Tensions in West Bank threaten Israel-US intelligence cooperation) 中露が世界を動かし始めている。いろんな話がどんどん進んでいる。習近平が、早ければ来週モスクワを訪問するとロイターが報じた。中東の今後をプーチンと話し合うのかもしれないが、それだけではない。習近平は、ロシアとウクライナの和平を仲裁すると言っている。ゼレンスキーは、習近平と話したいと言っている。中共は、早ければ今夏にはウクライナ戦争を終わらせられるとも言っている。そうなのか??。絵空事と思って無視していると、隠れ多極主義者が習近平の手柄にするために動いていたりする。 (Exclusive: China's Xi plans Russia visit as soon as next week - sources) (China Foresees End Of Ukraine War This Summer: Report) ▼スンニとシーアの対立自体も英米の扇動 前に書いていったんボツにした中東の話の続きを蛇足的に最後に貼り付けておく。サウジはスンニ派イスラム教の盟主で、イランはシーア派イスラム教の盟主だ。スンニとシーアは昔から仲が悪いのでサウジとイランの対立は当然だという「常識」があるが、それは違う。スンニとシーアの対立は、この100年近く中東を支配してきた英国と米国が、中東を分割支配するために扇動・固定化したものだ。第一次大戦でオスマン帝国が崩壊して英国覇権が始まるまで、スンニとシーアは共存していた。 (扇動されるスンニとシーアの対立) ムハンマドが興したイスラム帝国は発祥後、支配した地域を完全にイスラム化しようとしたが、メソポタミア以来の別の高度な宗教があったイラクや、支配が難しかった山岳地帯では完全なイスラム化が行えず、次善の策としてイスラム以前にあった各種の信仰(ゾロアスターなど)の要素を残したままのイスラム教になった。それらの総称がシーア派だ。イスラム以前の要素を完全に排除できた(というより、砂漠地域などイスラム以前の要素がほとんどなかった)地域では、純粋で正統なイスラム教(スンニ)が信仰されている。 (イラク日記:シーア派の聖地) スンニ派の中でイスラム教を純化したがる勢力(原理主義者)は、シーア派を異端視する傾向が昔からあった。中東を支配した英国は、スンニの原理主義者を扇動してシーア派を殺したりして対立を激化させ、分割支配を続けた。第二次大戦後、覇権が英国から米国に譲渡されたが、その後の米国の上層部では軍産複合体や石油利権やイスラエルが支配的になり、いずれの勢力も中東のイスラム世界を内部対立させる支配戦略を好み、中東は戦争が絶えなかった。1978-79年のイスラム革命でイランが米国傀儡の王政から、米国敵視の聖職者たちの独裁体制(イスラム共和国)に転換したが、あの革命も米諜報界が中東支配のために「敵を作る」策略の結果だった可能性が高い(ホメイニ師が亡命先のフランスからイランに戻ることを許したのは米国だった)。 (イラン革命を起こしたアメリカ) 米国が英国やイスラエルに入り込まれずに米国好みの覇権運営をやれていたら、中東はもっと安定していたはずだ。米中枢の暗闘のせいで、中東の人々は1970年代から50年以上、ひどい目にあい続けてきた。無数の人々が無駄に死んだ。米国の隠れ多極派と中露とが推進する今の多極化でその惨事が終わりそうだが、本当にそうなっていくのかどうか。これからの展開が興味深い。 (世界資本家とコラボする習近平の中国) https://tanakanews.com/230317saud.htm ◇リーマン以上の危機の瀬戸際 〖2023年3月17日〗クレディスイスは「大きすぎて潰せない銀行」の筆頭格だ。昨年の危機露呈後、延命しているがかなり脆弱で、今回のSVB発祥の新たな危機の影響を簡単に受けてしまっている。昨秋の繰り返し的に、スイス中銀が500億フランを「予防策」と称して注入したが、それでは足りないという指摘が出ている。クレディスイスが破綻すると、欧米両方の経済に大打撃を与える。それはリーマン倒産以上の衝撃になる。世界は、リーマン以上の危機の瀬戸際にある。 https://tanakanews.com/palgin.php
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