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今、共産革命を起こさない限り、世界はこういうディストピアになる:
世界中の富を占有しているのはテックジャイアントのCEOたちを始めとする「寡頭支配者(oligarchs)」である。
「世界人口の上位0.1%が保有する世界の富の割合は、1978年には7%であったが、2012年には22%にまで増加したとされる。(...)2030年には、上位1%の富裕層が世界の富の3分の2を支配することになると予想されている。
2018年までに、テック企業4社(アップル、アマゾン、アルファベット[グーグル]、フェイスブック)の純資産の合計は、(...)フランスのGDPに匹敵する額に達した。世界で最も資産価値の高い企業10社のうち7社がテック業界に属している。テックジャイアントとも呼ばれる巨大テック企業は、巨額の個人資産を生み出しており、地球上でもっとも裕福な20人のうち8人はテック業界で財を成した人びとである。40歳以下の富豪13人のうち9人がテック業界の人間であり、しかも全員がカリフォルニアに住んでいる。
そして、この富の集中は雇用の消失をもたらしている。
テクノロジー主導の社会では、科学や技術に秀でた『選民』とその他大勢の格差が広がる傾向にある。今日、10億ドル規模のビジネスを立ち上げようと思えば、コーダーや金融の専門家、マーケティングの達人など、ごく少数の集団で十分であり、ブルーカラーや中間管理職はあまり必要ない。
デジタル企業の創業者へのインタビューによると、「創業者らの多くは、『少数の非常に才能豊かな人や独創的な人が経済的富のますます多くの部分を生み出すようになり、その他の人びとは単発・短期の仕事を請け負う"ギグ・ワーク"で収入を得つつ、政府の援助を受けながら生活していくのだろう』と考えているようである。
「お払い箱」になった労働者たちは当然貧困化する。
カリフォルニア州の社会秩序を特徴づけているのは、いまや流動性(社会的上昇)ではなく、階層化である。(...)米国勢調査局によると、カリフォルニア州の貧困率は全米で最も高くなったという。(...)カリフォルニア州の児3分の1近くの家庭が、請求書の支払いをするのがやっとの状態であることが明らかになった。現在、カリフォルニア州の住民のうち800万人(うち児童200万人)が貧困にあえいでいる。
「貧困にあえぐ」ことの実相は以下の通り。
グーグルなどの企業で働く下流階級や中流階級の労働者の多くは、トレーラーハウスを駐車場に停めて生活しており、車の中で寝泊まりする者もいる。シリコンバレーには、全米最大級のホームレスの野営地がある。
アメリカのギグワーカーのうち、30代後半から40代(家族形成に最も適した年齢層)のおよそ3分の2が生活費の支払いに苦しんでいる。カリフォルニア州では、ギグワーカーの半数近くが貧困ライン以下で生活している。
ただし、この格差の拡大を「寡頭支配者たち」は座視しているわけではない。経済的に過度に窮乏化すると労働者たちが「鉄鎖の他に失うものはない」と自暴自棄になって反乱を起こすリスクがあるからだ。そこでテック企業の巨頭たちの多くは、過去のビジネスリーダーとは対照的に、福祉国家の拡充を基本的に支持している
ここがポイントである。現在のテックジャイアントたちは「金ぴか時代」の富豪たちのような非道な守銭奴ではない。彼らは社会的弱者の生活を気づかい、気候変動や人権やLGBTについても「意識の高さ」を示す。株主に高額の配当をすることよりも、「国民の意識や政策に影響を与えること」にむしろ関心を持っている。彼らはかつての啓蒙専制君主のように「開明的」なのである。
ビジネスリーダーたちのこうした傾向は、寡頭支配層を有識者層(弁護士、学者、メディア関係者など)に近づける。 こうして、「芸術家と科学者」の連携が成り立つ。テックオリガルヒと有識者による世界支配という「新しい封建制」がやってくる。
このモデルは寡頭制社会主義(oligarchical socialism)と呼ぶのが最もふさわしい。資源の再分配は、労働者階級と衰退する中流階級の物質的要求を満たすことになるであろうが、社会的上昇が促されることはなく、寡頭勢力の支配が脅かされることもないであろう。
寡頭支配者たちは「政治的に正しい」政策を現行の国民国家の政府よりも手際よく実行することができる(なにしろ個人資産がそのへんの国民国家のGDPを超えるのである)。
カール・ローズの『「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』も同じことを指摘していた。一般市民が合法的に自分たちの利益になる政策実現をめざす場合には、政党や労働組合や市民運動を組織し、議会に代表を送り、法律を採択させて、政府に実行させる...という手間をかけなければいけない。でも、「開明的な」寡頭支配者に懇願して、彼らが「いいよ」と言ってくれて政策がすぐに実現するとしたら、民主主義などという手間暇をかける必要があるだろうか?
賢い独裁者が平民の要求を実現してくれるなら民主主義は要らない。
自分たちが開発したテクノロジーがどんなもので、何ができるかを完全に理解しているのは企業だけである。そのテクノロジーが軍事転用されて地政学的関係を一変させたり、完全な国民監視システムを創り上げたり、大規模な雇用消失をもたらすリスクがある以上、テックジャイアントはもう「従来の主権概念を超えた」存在であると言わなければならない。もし、これから先、AI規制の国際的な協定を策定する気なら、企業のCEOたちを交渉のテーブルに政府と同じステイタスで招くしかない。その時、テックジャイアントは単立の国民国家と同格の政治的アクターに叙任される。
かくして、民主主義はテクノロジーの進化ゆえにかつてない危機に瀕している。この民主主義の無効を理論的に正当化しているのが知的エリートたちである。彼らは「世界統制官(World Controllers)」(これはハクスリーの『すばらしい新世界』に出てくる職名である)の役を担う。「教師、コンサルタント、弁護士、政府職員、医療従事者など、物質的生産以外のしごとに従事している労働者」が、世論形成に深く関与して、かつてカトリックの聖職者たちがしたように寡頭支配の「正当性付与者」として働くのである。
コトキンが「バラモン左翼」と命名するこの「有識者」たちはとりわけ大学に巣食って、若者たちを洗脳しているらしい。
1990年に『リベラル』または『極左』を自認する教授の割合は全体の42%であったという。2014年になるとその割合は60%にまで跳ね上がった。数年後、一流大学51校を調査したところ、リベラル派と保守派の比率は最低でも8対1、開きのあるところでは70対1であることがわかった。(...)ハーバード、イェール、スタンフォード、コロンビア、バークレーなど、国のリーダーを多数輩出している名門ロースクールの教授陣のうち自らを保守派と称しているのは10%にも満たない。
アメリカのアカデミアは「ほとんどイデオロギーの再教育キャンプのようなもの」であり、「大学は、オープンマインドな知識人を養成するのではなく、狂ったように福音を説く説教者まがいの次世代の活動家を育てている。その結果、学生たちはもう古典を読まず、歴史を知らず、批判精神を失い、強権に従属し、言論の自由の制限さえ受け入れる。 若者たちが民主主義に愛想をつかして、強権的な政体に惹かれている。
現代の知的エリートたちはもう「意識低い」労働者たちとの連帯を受け入れない。かくして、プロレタリアとその同伴知識人たちの間の「150年以上にわたる連携は終わる」。それは階級闘争の時代は終わったということである。階級闘争を通じての資源の再分配よりもより効率的でフェアな分配方法を寡頭支配者と有識者が設計してくれる時代が到来する。
http://blog.tatsuru.com/2023/11/16_0858.html
- これからは共産革命の時代 中川隆 2023/11/21 21:44:51
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