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2023年10月18日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/284358?rct=tokuhou
衆院長崎4区補選で木原稔防衛相が、自民党候補を応援することが自衛隊の苦労に報いるなどと応援演説し、「自衛隊の政治利用だ」と指摘を受けて撤回した。岸田政権では今、パレスチナから邦人を避難させるチャーター機が有料で8人しか利用がなかったことにも批判が相次いでいる。防衛力強化に前のめりになりながら、いざというときにもたつく外交。背景に何があるのか。(山田祐一郎、安藤恭子)
◆自民候補への支持=自衛隊の苦労に報いる の意味不明
「今後は気を付けたい。誤解を生むのであれば撤回したい」。16日、視察先の海上自衛隊佐世保基地(長崎県佐世保市)で木原氏が記者団に語った。
問題となったのは、15日夜に同市内で開かれた集会での発言。木原氏は衆院長崎4区補選の自民候補を応援することが「自衛隊の苦労に報いることになる」と支援を呼びかけた。
16日に「自衛官とその家族への敬意と感謝を申し上げた」と釈明したが、元陸自レンジャー隊員の井筒高雄氏は「自衛隊を単なる票田としか見ていないのだろう」とあきれる。「自分の現役時代も選挙の際、部隊の中で『防衛予算確保のためにはどの政党候補に投票すべきか』という話は出ていた。だが、ここまで露骨に選挙応援で呼びかけるとは。そもそも自民党に投票することが苦労に報いることになるのか。防衛費が増えても隊員の待遇が良くなるわけではない」
◆憲法学者「憲法66条2項の文民統制の趣旨に抵触する恐れ」
法的な問題はどうか。憲法15条は「すべて公務員は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と定め、公職選挙法は公務員の地位利用による選挙運動を禁じている。自衛隊法は選挙権行使を除く隊員の政治的行為を制限している。
東海大の永山茂樹教授(憲法学)は「自衛官にはより高い政治的中立が求められ、一般の行政公務員とは同列視できない」と説明。指揮する立場の防衛相が、隊員の政治的行為を呼びかけるような今回の発言を問題視する。
「一番深刻なのは、憲法66条2項が定める文民統制の趣旨に抵触する恐れがあること」と強調。「国務大臣は文民でなければならない」とする同項は軍事力を政治家が統制する重要な意味を持つ。「大臣と自衛隊が互いに距離を保つことが求められている。今回の発言は自衛隊の政治利用であり、これが容認されれば今度は自衛隊が政治に対して発言力を持って介入し、コントロールする動きにつながりかねない」と危ぶむ。
◆稲田朋美氏も防衛相時代に選挙応援で自衛隊を利用
木原氏は15日夜に背広姿で選挙応援に駆け付けた後、16日午前に同市内の陸自相浦駐屯地、午後に海自佐世保基地を自衛隊のジャケット姿で視察。「演説は政務として行った」と語っているが、永山氏は「自衛隊に言及している以上、大臣であることを切り離すことはできない。単なる失言として撤回で済ますのではなく、憲法に抵触する恐れがあるということを明確にするべきだ」と求める。
2017年には稲田朋美防衛相(当時)が東京都議選の自民候補の応援演説で「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党として」と支援を呼びかけ、撤回した前例もあった。山口大の纐纈こうけつ厚名誉教授(政治学)は「指揮する立場として、全隊員が部下で動かすことができるという認識なのだろうか」と資質を疑問視する。「中立を尊ぶという基本的ルールを理解しておらず、このような発言が出てしまう。背景には、自衛隊の国民の認知度が高まっているというおごりがあるのだろう。武力を持った集団を預かっているという慎重さを持たなければならず、岸田文雄首相の任命責任も大きい」
◆政府のチャーター機の実績は邦人8人…1人3万円を請求
木原氏の発言について、16日午前の記者会見で問われた松野博一官房長官は「議員の政治活動について、政府の立場からコメントすることは差し控えたい」と繰り返した。木原氏が撤回を表明した後の同日午後の会見でも追及されたが、「報告はあったが、やりとりの詳細は差し控えたい」とかわした。
この日の松野氏の会見では、イスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突を受け、邦人退避のために政府が手配したアラブ首長国連邦・ドバイ行きのチャーター機も話題になった。邦人は8人しか乗らず、1人3万円を請求したことを明らかにしつつ、対応は「適切だった」と説明した。
ただ韓国政府が派遣した軍輸送機には無料で日本人51人が乗り、韓国まで運ばれた。立憲民主党の泉健太代表は15日、自身のX(旧ツイッター)に「現政権の情勢分析力、在留邦人のニーズ把握力、そして自国民を助ける覚悟の問題」と指摘。交流サイト(SNS)でも「しょぼい」「国民を守らない政権」と批判が渦巻いた。
松野氏は会見で、航空券を購入し商用便で出国する邦人も多くいるとし、米英各国も一定の費用負担を求めていると反論。自衛隊拠点がある周辺国ジブチにも自衛隊機が派遣され、次の邦人退避に備えて待機中という。
◆「肝心なときに首相の顔が見えない」
元レバノン大使の天木直人氏は「おとぼけに過ぎる。緊急事態の認識に欠けているのではないか」とあきれる。先進7カ国(G7)議長国として、岸田首相は今こそ首脳外交を行い、イスラエルの地上作戦を止める発信をすべきだと話す。5月のG7広島サミットで岸田首相はウクライナのゼレンスキー大統領の出席も得て、国際秩序を堅持し平和を守り抜く決意を示せたと強調していたが、「肝心なときに首相の顔が見えない。下がった政権の支持率回復にもつながるだろうに、あらためて失望した」と嘆息する。
元外交官で平和外交研究所の美根慶樹代表は「邦人退避の費用負担自体は過去の事例に照らしあり得る」とする。ただ韓国軍派遣機には多くの日本人が搭乗しており、「日本政府の現地連絡体制やチャーター機派遣のタイミングが適切だったかどうかは検証すべきだ」と述べる。
◆「5年も外相をやってきたのだから、中東外交にリーダーシップを」
事態は切迫している。国連安全保障理事会は16日、イスラエル軍とハマスに「停戦」を求めたロシア提出の決議案を、日本や米国の反対で否決した。
「パレスチナ/イスラエル論」の著書がある早尾貴紀・東京経済大教授(社会思想史)は、パレスチナに名ばかりの自治権を与え、イスラエルの入植拡大を認容する役割を果たしてきた1993年のオスロ合意が背景にあり、日本も国際社会の責任の一端を担うとする。
「パレスチナで毎日百人単位の人が亡くなり、さらに侵攻が行われようとしている。日本単独でもハマス、イスラエル双方に戦争犯罪は許されないと示し、今すぐ『即時停戦』を求める声明を出すべきだ」
ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「トップの立場をわきまえない防衛相の発言も、チャーター機のもたつきも、岸田政権の危機管理能力のなさの表れ」とため息をつく。2013年にアルジェリアでプラント建設大手の日本人従業員10人が死亡した人質事件では、政府専用機を飛ばして対応したことに触れ、こう促す。
「日本はいまあらゆる手だてを尽くしてガザ、イスラエルからの邦人救出に全力を注ぎ、ガザ内を避難する人々の人道支援にあたるべき時でしょう。岸田首相は5年も外相をやってきたのだから、中東外交にリーダーシップを発揮してもらわないと」
◆デスクメモ
防衛白書は「終戦までの経緯に対する反省」を踏まえ、専守防衛や非核三原則とともに文民統制(シビリアン・コントロール)を基本政策に掲げる。今回の発言はその文民の資質に疑問符を付けた。任命した首相の「撤回したいと説明したと承知している」という言葉は軽すぎないか。(本)
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