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※紙面抜粋
※2023年4月10日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
「全国政党」に足がかり(日本維新の会の馬場伸幸代表と松井一郎前大阪市長=左)/(C)日刊ゲンダイ
9日投票が行われた統一地方選挙の前半戦、日本維新の会の躍進が際立った。
お膝元の大阪では、府知事と市長のダブル選挙を大阪維新の会が圧勝で制したほか、府議会と市議会でも過半数を獲得。注目された奈良県知事選でも、保守分裂の間隙を縫って、初めて維新公認の知事が誕生した。同時に行われた奈良県議選でも勢いを見せ、選挙前の3議席から14議席に増やした。
兵庫県議選では、神戸市内の全選挙区で維新候補が当選したほか、尼崎市や西宮市などでも議席を伸ばし、維新は選挙前の4議席から21議席に躍進。京都府議会も3議席から9議席に増やした。京都市議会でも4議席から10議席に増やすなど、関西では維新が席巻。強さを見せつけた。
問題は、これが関西圏限定ではなく、全国的な現象になりつつあることだ。 地域政党の大阪維新の会と合わせて、今回の41道府県議選で維新は改選前の57議席から124議席に増やしたのだ。神奈川県議会で6人が当選するなど、初めて議席を獲得した議会も複数ある。
この結果を受けて、維新の藤田幹事長は10日、「全国政党を目指す上で非常に大きな一歩になった」と胸を張った。
「全国的に投票率が伸び悩んだ中で、維新がこれだけ伸ばしたことは驚異的です。いまの自民党政権に対する批判票が立憲民主党や共産党に向かわず、自民党支持者の票も維新に流れた。“改革”を標榜する維新に対し、閉塞感にあふれた現状を変えてくれるのではないかという有権者の期待が集まったのでしょう。昨年、松井一郎前代表が政界引退を表明して以降、国政での現政権批判も含め、戦略的に動いてきたことが奏功しました」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
立憲は話題にもならず共産は壊滅的
大阪の地域政党から全国政党への脱皮を目指す維新は、この統一地方選で足がかりをつかんだ。一方、存在感を示せなかったのが野党第1党の立憲民主党で、議席数こそ微増だが、唯一の与野党の全面対決となった北海道知事選では出遅れが響いて見せ場をつくることもできなかった。統一地方選で話題にも上らないのがいまの立憲だ。
さらに悲惨なのが共産党で、改選前は41道府県議会に99議席持っていたのが、75議席に激減。新潟、福井、静岡、福岡、熊本の5県議会では1人も当選させられず、“空白県”になってしまった。
今年になって、共産党は党首公選制などを求めて書籍で組織を批判したベテラン党員2人が“分派活動”を行ったとして除名処分。身内の批判を許さない頑迷な対応は共産離れを招くという見方があったが、想像以上に影響は大きく、それがこの統一選で一気に表れた感がある。
支持率上昇に気をよくした岸田首相が今国会の会期末に解散・総選挙に打って出るという臆測もあるが、立憲と共産がこうも壊滅状態では、いま衆院選があれば、勢いに乗る維新が野党第1党に躍り出る可能性もあるのではないか。
ただ、そこでハッキリさせておきたいのは、果たして維新は「野党」なのか? ということだ。
安倍自民の補完勢力として野党分断の役割を担った
統一地方選での維新躍進、とりわけ奈良県知事選で自民が敗れたことで「自民に衝撃」「与党は危機感」などと報じられているが、どこまで本音かは疑わしい。
「自民党からすれば、立憲や共産を抑え込んで維新が議席を伸ばしてくれればシメシメといったところでしょう。岸田政権には距離を置いて野党ぶっている維新ですが、もともと安倍元首相や菅前首相に近く、自民が返り咲いた第2次安倍政権から、国会では協力関係を築いていた。安倍・菅政権で自民の別動隊のような動きをしてきました。野党の立場でありながら、“是々非々”を口実に安保法制などで与党をアシストし、政権の代弁者のように立憲民主党を批判するなど、野党を分断する役割を担ってきた。
自民党にとって、これほど使い勝手のいい政党はないでしょう。自民の世襲政治や税金泥棒にウンザリしている有権者は、維新が掲げる『改革』のフレーズに共感して支持しているのかもしれませんが、その実体は自民の親戚であり、なおかつ自民よりタカ派の改憲政党です。決して純粋な野党ではありません」(政治評論家・本澤二郎氏)
維新の前身は大阪府議会の会派「自由民主党・維新の会」。2010年4月に当時の橋下徹府知事と大阪自民の地方議員が「大阪維新の会」を結成するが、当初は多くの議員が自民党員のままだった。そういう出自で、憲法改正を掲げていた安倍元首相と連携する政治集団として始まった。
いま国会で岸田政権に対峙する姿勢を見せているのは、安倍に対する弔慰であると同時に、維新の選挙向け戦略でもあるだろう。「自民党では改革できない」と訴えることで、保守票もリベラル票も浮動票も取り込むことができる。そうやって、維新が全国政党として大きくなった先に何があるのか、有権者は冷静に考える必要がある。
自民、その亜種、下駄の雪…
共産党の小池書記局長は9日夜、奈良県知事選で維新の公認候補が当選したことに対し、「自民党以上に危険な政党だ。自民党政治の最悪の補完勢力という本質を伝えていく努力を強めていきたい」と話したが、これを“負け犬の遠吠え”と切り捨てることはできない。
今後の国政選挙で維新が議席を大幅に増やせば、国会は自民と、その下駄の雪と、自民の亜種に占拠されてしまう。
「野党だった国民民主党も“是々非々”と言い出して与党にスリ寄っている状況で、右派の自民・公明・維新・国民という21世紀の大政翼賛会ができつつある。そのうえ、あろうことか立憲も国政レベルで維新にすがりつくありさまです。真の野党と言えるのが共産党とれいわ新選組だけでは、とても翼賛体制に対抗できない。総選挙になれば、維新は自民批判で議席を伸ばしたら、選挙後にはシレッと自民と手を組んで改憲を進めようとするでしょう。
政界全体が右へカーブを切っている中、ロシアによるウクライナ侵攻や中国の覇権主義などが日本の平和主義を揺るがせ、そういう時に維新が躍進する不気味さは空恐ろしい。ここで憲法を順守する野党が踏ん張らなければ軍拡一直線になるし、維新は核武装にも言及している。あっという間に戦前回帰です」(本澤二郎氏=前出)
統一選の前半戦を終え、立憲の大串選対委員長は「維新の皆さんが勢いがあるのは客観的事実ですけれども、私たちもこれから勢いをつけて後半戦、戦っていきたい」と話していたが、大串は地元の佐賀県議選で自民党公認候補に「必勝祈願」の為書きを送っていたことが問題になったばかり。軍師が敵の軍門に下って、どうやって戦うというのか。まったく、話にならないのだ。
11日は23日に投開票される衆院4補選の告示日。参院と合わせた5補選は、岸田政権の解散戦略に影響を与えるとみられる。与党の慢心に一矢報いることができればいいのだが、統一地方選のトピックスが維新の躍進だけでは、この先ロクでもないことになる予感しかない。
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