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※紙面抜粋
※2023年4月5日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
まともな説明何ひとつなく、前のめり(岸田首相)/(C)日刊ゲンダイ
岸田政権が前のめりになっている「防衛力強化」を巡る本格的な国会論戦がようやく始まった。
衆院本会議が4日開かれ、岸田首相が冒頭、外交や防衛の指針となる「国家安全保障戦略」、防衛の目標や達成する方法を示した「国家防衛戦略」、自衛隊の体制や2023年度から5年間で防衛費を総額43兆円に増額するとした「防衛力整備計画」の安保関連3文書について、趣旨説明。
その後、与野党議員による質疑があり、岸田は、反撃能力(敵基地攻撃能力)の行使について、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合など、武力行使の要件を満たす場合に行使し得る」と答弁。さらに「(反撃能力は)1956年に政府見解として憲法上、自衛の範囲内に含まれ、可能とした能力に当たる」「この政府見解は2015年の平和安全法制に際して示された武力行使の3要件の下で行われる自衛の措置にもそのまま当てはまる」などと説明した。
「憲法や国際法の範囲内で実施されるものであり、非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としての歩みをいささかも変えるものではない」
昨年の臨時国会閉会後の12月に突然、閣議決定された3文書について、岸田はこうも言っていたが冗談ではない。岸田が掲げる「防衛力強化」とは、戦後の日本が守ってきた平和国家の歩みを大きく方針転換するものだ。
「平和には特別な思いがある」という大嘘
岸田が反撃能力(敵基地攻撃能力)の発動が可能──との認識を示した、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合」「武力行使の要件を満たす場合」とは、いわゆる「存立危機事態」のことだ。
2015年、安倍政権は、歴代政権が「違憲」としてきた集団的自衛権の行使を容認し、米国のような密接な関係国に武力攻撃によって日本の存立が脅かされる状態を「存立危機事態」と定義した。そもそも、この定義自体が曖昧でムチャクチャなのだが、それでも当時、武力行使できる範囲の前提は主に公海上──との認識だったはずだ。
ところが、岸田政権は3文書でさらに踏み込んだ。他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有まで打ち出し、23年度予算では相手国に撃ち込むための米国製巡航ミサイル「トマホーク」を400発分取得するための費用として2113億円を計上。
さらに岸田は「(反撃能力は)ミサイル攻撃から国民を守る『盾』の能力だ」とまで言い放った。このままどんどん「拡大解釈」していけば、国際法が禁じる先制攻撃となり、専守防衛を逸脱するのも時間の問題。そのため野党が再三、武力行使の具体例を示すよう求めていたのに、岸田は他人事のように「手の内を明かすことになり控える」と繰り返すばかりだから言語道断だ。
総裁選などで「平和には特別な思いがある」と言っていたのは一体何だったのか。言っていることとやっていることが全く逆ではないか。
政治評論家の小林吉弥氏がこう言う。
「岸田首相は対米関係やロシアのウクライナ侵攻に対する世論動向を踏まえ、党内右派などに対する配慮もあって防衛力強化を掲げたものの、統一地方選や衆参補選、解散などを考えれば踏み込みたくない。そんな姿勢が透けて見えます。要するに防衛に対する自分なりの信念などはない。だから、答弁がふらふらしているのでしょう」
国民の暮らしよりも利権を重要視する岸田政権
岸田が言う「防衛力強化」とは、国の形を変えて軍拡戦時体制に突き進むための準備と言っていい。それなのにまともな説明は何もなし。23年度予算で過去最大の約6.8兆円となった防衛費を巡る前半国会の質疑を振り返ってみても、岸田の答弁はいつもノラリクラリで、野党や国民が納得するような具体的で丁寧な説明は何一つなかった。
もっとも岸田が大風呂敷を広げる政策はすべてがいい加減だ。1月の記者会見で唐突にぶち上げた目眩ましの「異次元の少子化対策」もそうだ。
国会で野党から中身や財源が幾度となく問われたにもかかわらず、岸田は「たたき台」を3月末、予算の大枠は6月の経済財政運営指針(骨太方針)までに示す──と逃げ続け、ようやく「たたき台」が示されたと思ったら、児童手当の所得制限撤廃や子育て世帯への住宅支援の強化といった雀の涙のバラマキ。「倍増」と胸を張っていた「子ども予算」の財源についても、岸田は「教育国債は安定財源、財政の信認確保の観点から慎重に検討する必要がある」と言うばかりだ。
一部報道では財源として社会保険料の引き上げも検討──とも報じられているが、少子化の原因の一つが高すぎる国民負担率と指摘されているのに、これ以上、社会保険料を上げてどうするのか。ますます少子化を加速するだけではないのか。
「先送りできない課題」とは既得権益
少子化対策の司令塔と位置付ける「こども家庭庁」だって、3日スタートしたものの、結局、長年の懸案だった「幼保一元化」は実現せず。結局、すべてがゴマカシで、これでは異次元の少子化対策など期待できるはずもない。
2022年の年間出生数が80万人を割り込むなど、国力の衰退につながる待ったなしの「国難」が目の前にあるにもかかわらず、少子化対策よりも「防衛力強化」に血道をあげ、武器を爆買いし、財源もどんどんつぎ込む。挙げ句、防衛増税まで検討というのだから狂っているとしか思えない。
昨年から問題視されてきた旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)と自民党議員との調査もウヤムヤにし、安倍政権下で放送法の「政治的公平」の解釈をねじ曲げるよう迫ったとされる総務省行政文書をめぐる高市経済安全保障担当相の「捏造発言」問題もはぐらかしたままの岸田。それでも本人がのほほんとしているのは、これまで低空飛行だった政権支持率がたまたま微増に転じたからだろう。
だが、このまま、やっているフリのからっぽ政権をのさばらせていたら国民生活は奈落の底にまっしぐらだ。詰まるところ、歴代自民党政権と同様、岸田政権が重要視しているのは国民の暮らしを守ることではない。自民党議員の利権や既得権を守ることだけ。岸田が言う「先送りできない課題」とは既得権益を守るための施策なのだ。
ジャーナリストの横田一氏がこう言う。
「岸田政権がやっていることは結局、安倍政権の焼き直し。岸田首相自身に総理総裁として、何かを絶対やり遂げたいという意思も意欲もない。とにかく総理の座に居座り続けることができれば構わないのです。有権者はそんな安倍背後霊政権とも言っていい岸田政権の姿に気付くべきです」
繰り返すが、暗愚の政権を長続きさせたら万事休す。今こそ、有権者は刮目が必要だ。
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