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※紙面抜粋
※2023年3月28日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
元首相とシンクロしてきた(岸田首相)/(C)日刊ゲンダイ
通常国会はなんだかんだで政府与党ペースで進み、アッと言う間に折り返しだ。
参院で審議中の2023年度予算案をめぐっては、28日の予算委員会での締めくくり質疑と採決を実施。本会議に緊急上程され、与党の賛成多数で可決、成立する見通しだ。一般会計の歳出総額は過去最大の114兆3812億円に膨張したが、物価高に苦しむ国民に新たに振り向けられるカネは積まれていない。岸田首相が昨年末に閣議決定した安保関連3文書に沿った防衛力強化に向けて6兆8219億円に膨らませた防衛費や、急速な高齢化により増大する一方の社会保障費などが増加要因だ。
国会審議を経ずに、閣議決定だけで支出できる予備費も3年連続で5兆円計上された。政府予算の本来の予備費は5000億円だった。衆院の解散・総選挙や自然災害に見舞われた被災地支援などを想定し、3500億円規模の時代が長く続いたが、災害に迅速対応するとして19年度に5000億円に増額。
コロナ禍を受けて21年度に5兆円へ一気に引き上げられた。新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けは、ゴールデンウイーク明けの5月8日に季節性インフルエンザと同等の5類に引き下げられる。なのになぜ5兆円も組んだかと言えば、政府にとって極めて都合の良いつかみ金だからである。
岸田政権は先週、LPガス利用者支援や低所得世帯に一律3万円と子ども1人あたり5万円を支給する追加の物価高対策を打ち出したが、統一地方選の前半戦がスタートする前日の決定だった。原資は22年度予算の予備費で、ここから2兆円超を用立てする。
全国で1カ月にわたって行われる統一選、岸田の政権運営に中間評価を下す衆参5補選の同時実施に向けたあからさまな人気取り。だが、バラマキというにはショボい。小出しにエサをまくようなやり方は、生かさず殺さずの多頭飼育を想起させる不快感がある。
NATOとの共闘を鮮明に
軍拡予算はどんどこ積み増し、政権の体力を奪う増税も何のそのの勢いだが、国民の暮らしには目もくれない。いまや懐かしい岸田の「聞く耳」は首相の座をモノにするためのつかみに過ぎず、方便だったことがよく分かる。弱肉強食の新自由主義と決別し、再分配を強化するとブチ上げた「新しい資本主義」はいまだに姿かたちが見えない。
自民党と統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の半世紀を超える癒着が露見しても、メスを入れることはなく、徹底して頬かむり。ズルズルと踏襲したアベノミクスの異次元緩和が41年ぶりの物価高騰を引き起こし、国民生活を逼迫させても、なす術なし。自民党最大派閥の安倍派や岩盤保守層の顔色をうかがい、国民は見殺しだ。
政治信条なき軽薄な世襲政治屋のどうしようもない政権運営には、ほとほとウンザリ。だからこそ、内閣支持率は昨夏以降、下落の一途をたどり、政権維持の「危険水域」に沈み込んでいた。それが、どういうわけか底を打ち、微増に転じている。
日経新聞とテレビ東京の世論調査(24〜26日実施)では支持率は48%。前回2月調査と比べ、5ポイント上昇した。不支持率は5ポイント減の44%で、7カ月ぶりに支持が不支持を上回った。日経は〈首相のウクライナ訪問や日韓首脳会談などが支持率を押し上げた〉と解説しているが、ホンマかいな、である。
停戦に向けた知恵を出すでもなく、汗をかいたわけでもない。持ち回りのG7議長国にめぐり合わせたのをいいことに、地元・広島にサミットを引っ張ったものの、1人だけキーウ入りしていないのは格好がつかないからと、泡を食って押しかけたのが真相だ。
日露戦争とゆかりのある広島の名産「必勝しゃもじ」を贈呈されたゼレンスキー大統領はその話題に一切言及せず、ロシア人にとって屈辱の歴史を蒸し返されたプーチン大統領は怒り狂っている。「Youは何しにウクライナへ?」とにじり寄らなければおかしい。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。
「日本は戦争放棄をうたう憲法9条を掲げているのですから、戦地入りしない選択肢はありますし、国際社会の理解も得られたでしょう。岸田首相がキーウ訪問を断行したことで、平和国家としての日本のあり方をアピールする絶好の機会をフイにした。そればかりでなく、世界最大の軍事同盟のNATO(北大西洋条約機構)と同じ立場に立つことを鮮明にしてしまったと言っていい」
安保3文書で既定路線「死の商人」への道
超が付く楽観主義の岸田は支持率好転にも気を良くし、軍拡を一気呵成に進めようとしている。
27日の参院本会議では、防衛装備品の輸出ルールを定める「防衛装備移転三原則」や運用指針の見直しについて「議論を進める」と答弁。「わが国にとって望ましい安全保障環境の創出や、侵略を受けている国への支援などのために重要な政策的手段だ。結論を出していかなければならない課題だ」と強調していた。
しかしながら、ウクライナ支援の強化はあくまで口実。武器輸出解禁は岸田政権の既定路線だ。安保3文書では、防衛産業から撤退する企業が出ていることを踏まえ、「適正な利益を確保するための新たな利益率の算定方式を導入する」と打ち出し、「防衛装備移転三原則や運用指針をはじめとする制度の見直しについて検討する」と言及し、輸出促進を見据え、チャンスをうかがってきた。
殺傷能力のある武器輸出に道を開けば、「専守防衛」をかなぐり捨てた敵基地攻撃能力の保有に続く安保政策の歴史的大転換だ。平和憲法を死文化させる暴挙をボンクラ首相に期待する国民がどれほどいるのか。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言った。
「軽武装・経済重視を基本理念として掲げる宏池会の領袖で、ハト派であるはずの岸田首相が『死の商人』になりたがっているとは、国民の大半が夢にも思わなかったんじゃないか。防衛大学校の卒業式の訓示でキーウ訪問に触れ、〈今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない〉と力んでいましたが、最近は口を開けばそればかり。印象操作があまりに過ぎる。唯一の被爆国である日本が核を保有する選択肢はあり得ないのに、軍拡競争に突っ込み、武器輸出にまで舵を切ったら、どんな事態を招くか。極東の地政学が頭に入っているとはとても思えません」
LGBT法案は「恥ずかしい」まま
岸田が血道を上げているのは戦争回避ではなく、戦争準備の加速。背景にある邪な動機は、改憲を悲願とした安倍元首相と同じだ。同盟国の米国のお墨付きを確かなものとするため、いつ何時もお先棒を担ぐ構えを取るため。戦後最悪とまで言われた日韓関係が雪解けに向かったのも同じ文脈で、対中牽制を強める米国の圧力ゆえんだ。
ハト派のふりをした「安倍晋三」。「岸田文雄」の食えない正体が見えてきた。米国の意向を丸のみした安保3文書を手土産に訪米した岸田は、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)で高揚感たっぷりに講演し、「吉田茂元首相による日米安保条約の締結、岸信介元首相による安保条約の改定、安倍晋三元首相による平和安全法制の策定に続き、歴史上最も重要な決定のひとつであると確信している」と自画自賛していたものだ。
「安倍路線の深掘りは紛争にコミットするリスクを増大させ、平和国家として歩んできた日本のありようを変えてしまう」(五十嵐仁氏=前出)
第2次安倍政権で放送法の政治的公平をめぐる解釈が変更され、言論統制が強まった。結果、テレビ局などの大手メディアは骨抜きにされ、岸田の危険な本質は国民になかなか伝わらない。
「G7とEUの駐日大使が連名でLGBTQの権利を守る法整備を促す書簡を岸田首相に宛てたはずですが、自民党は差別禁止法から何歩も後退したLGBT理解増進法案ですらまとめられない。経団連会長から『恥ずかしい』とまで言われるほど世界の常識とズレているのですから、メディアが尻を叩くべきなのですが、そうはならない。このあたりも含め、故ジャニー喜多川氏の性加害疑惑に切り込んだ英BBCなどの海外メディアにまっとうな報道を期待するほかなくなっています」(角谷浩一氏=前出)
岸田が国会で解釈変更をハッキリ否定しない理由も、ここにある。
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