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※紙面抜粋
※2023年3月27日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
岸田首相は口を開けば常に「G7議長国」/(代表撮影)
また「G7議長国」をアピールだ。岸田首相は26日、防衛大学校の卒業式の訓示で自身のウクライナ訪問に触れ、「ロシアによる侵略の惨劇を直接、目の当たりにし、これを繰り返さないために侵略を一刻も早く止めなければならないという決意を新たにした」と語った。さらにウクライナ支援や対ロ制裁を継続する考えを表明し、こう力説してみせた。
「G7議長国として5月の広島サミットなどの機会を通じてG7の結束を主導し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を示したい」
殊更G7議長国を強調し、すっかり世界のリーダー気取り。高揚しきっている岸田に引っ張られるように、政府・自民党内では「この国のかたち」を大きく歪める議論が急ピッチで進んでいる。
ゼレンスキー大統領との会談で岸田は殺傷能力のない装備品の支援へ3000万ドル(約40億円)の拠出を約束。それにあきたらず、「防衛装備移転三原則」の緩和を話し合い、殺傷能力のある武器輸出の解禁を目指す声が高まっているのだ。
すでに岸田は今月1日の参院予算委員会で輸出ルールの緩和について、「結論を出していかなければならない」と言明。ウクライナへの軍事支援を念頭に「国際法に違反する侵略を受けた国への支援などのために重要な政策的な手段となる」と語っていた。
この表現は昨年末に岸田政権が閣議決定した「国家安全保障戦略」にも盛り込まれている。「装備品」の輸出を防衛協力の「重要な手段」と位置づけ、移転三原則の運用指針など「制度の見直しについて検討する」と記したのだ。
平和外交なんて「クソ食らえ」の発想
政権パートナーの公明党は武器輸出解禁に慎重だ。自称「平和の党」の主張により、国家安保戦略改定でも「制度の見直し」の時期を巡り「可及的速やかに」との表記が原案から削られた。
そんな「後ろ向きな姿勢はしゃらくせえ」とばかりに、自民党内は押せ押せムードだ。ウクライナへの軍事支援を主力戦車の供給まで拡大した米欧並みに武器を送らないと「日本は援助に消極的に映る」との理屈で、小野寺五典元防衛相ら「有志」が2月に武器輸出拡大を目指す議員連盟を新設。議連メンバーのひとり、「ひげの隊長」こと佐藤正久議員は今月6日の参院予算委で「台湾有事、日本有事で日本は兵器や弾薬を他の国に求めないと全然足りない」「他の国の危機の時はあげず、自分が危機の時は『くれ』というのは通じるか」と訴えた。
佐藤は「ウクライナに送るべき兵器」も具体的に提案。陸上自衛隊が2029年度までに利用をやめる多連装ロケットシステム(MLRS)の供与を政府に求めた。戦後一貫して「平和外交」を掲げてきた国の矜持なんて「クソ食らえ」という発想だが、彼らの念頭にあるのも5月の広島G7サミットである。
議長国の日本が外交のリーダーシップを発揮し、G7が足並みをそろえてウクライナへの軍事支援を打ち出す好機ととらえ、4月以降に武器輸出ルールの見直し議論を本格化。広島サミットまでに輸出解禁を一気呵成に推し進める構えだ。
G7議長国として、ロシア制裁の先頭に立とうとする岸田の陶酔と符合する自民党内のイケイケ路線。G7議長国の立場やウクライナ支援を口実に武器輸出解禁への圧力は強まるばかりだ。
紛争当事国も日本からの武器を望んでいない
殺傷能力のある武器輸出を認めれば、「専守防衛」をかなぐり捨てた敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に続く安保政策の歴史的大転換だ。平和憲法を死文化させる暴挙である。
武器輸出に関し、政府は1960〜70年代以降、憲法9条の平和主義を尊重し、国際紛争を助長しないとの理念に基づく「武器輸出三原則」の運用により、事実上の禁輸政策を続けてきた。
ところが、安倍政権が2014年に全面禁輸の方針を破棄。「防衛装備移転三原則」に改め、政府が国際平和への貢献や日本の安全保障に資すると認めた場合、輸出を許した。それでも紛争当事国は対象外で、戦闘機や戦車、ミサイルなどの兵器も共同開発国を除き、輸出を禁じている。
紛争当事国に殺傷能力のある武器を送れば、戦争に加担するも同然だ。9条で〈国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する〉とうたった憲法無視もはなはだしい。
ゼレンスキーも25日掲載の読売新聞との単独インタビューで、日本が武器を供与できないことを理解した上で、医療や復興など期待する支援を具体的に語っていた。紛争の当事者ですら望んでいないことを、憲法の理念を放棄してまでシャカリキになっている岸田たちは狂気じみている。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言った。
「どのような理由であれ、憲法9条が厳然として残っている限り、軍事援助は許されません。日本が長年、国際紛争に巻き込まれてこなかったのは平和憲法の下、国土防衛に徹し、相手国に決して脅威を与えないと伝え、国際社会にも認められてきたからこそです。敵基地攻撃能力の保有で専守防衛を捨てた上、武器輸出の解禁に踏み切れば、いよいよ日本の平和国家像は崩れてしまう。相手国に攻撃する口実を与えるだけで、間違いなく東アジアの軍拡競争につながる。日本はウクライナに対し、地雷除去やエネルギー支援などやれることはやっています。紛争当事国に非軍事分野で多大な貢献をしていることを国際社会にもっとアピールした方が、よっぽど大きな国益となります」
歯止め役を失えば「新しい戦前」へ一直線
岸田のキーウ訪問を受けた国会では、要人警護の自衛隊海外派遣も議論に上っている。自衛隊には要人警護のみを目的に海外派遣する規定はなく、それを可能にするには自衛隊法を変えるしかない。ただ、自衛隊法は「できること」を示すポジティブリスト方式。自衛隊発足時は戦前の反省から、国民の権利を極力阻害しないよう「原則禁止」を前提にしたためで、「要人警護まで認めると、自衛隊の際限のない海外派遣につながりかねない」(金子勝氏=前出)との懸念もある。
そんなことはお構いなしに、23日の参院予算委で「戦地のところであるのに警護が現地の人でよいのか」「自衛隊が総理の警護をするのは当然のことではないか」と提起したのは、日本維新の会の浅田均議員だ。いくら維新が「与党の補完勢力」とはいえ、曲がりなりにも野党議員から勇ましい声が上がることに国全体を包む「嫌な空気」の根深さを感じる。
「補完勢力の維新と野党第1党の立憲民主党が国会内で連携し、大軍拡に『絶対ノー』の共産党の孤立は深まる一方です。また、大マスコミはロシアの国際法違反の蛮行や、北朝鮮のミサイル乱発、中国の覇権主義と台湾有事など、近隣諸国の『脅威』を煽り、国民の漠とした不安を増幅させています。これでは敵基地攻撃をめぐる疑問に『ゼロ回答』を続け、なし崩し的に『GDP比2%』の異次元軍拡を急ぐ岸田政権を利するだけです。野党とメディアが歯止め役として機能しなくなれば、『いつか来た道』。国全体が『戦争をする国』にまっしぐらです」(政治評論家・本澤二郎氏)
26日の防大の訓示でも岸田は「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と決まり文句を披露したが、その言葉を自ら現実にしたいのか。この国のかたちを大きく変え、近隣諸国との対立を煽り、日本の「新しい戦前」と「ウクライナ化」を進めているのは岸田自身である。
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