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安倍政権の言論弾圧「放送法解釈変更」をめぐる総務省内部文書のリアルすぎる中身! 高市早苗はこれでも「捏造」と言い張るのか
https://lite-ra.com/2023/03/post-6265.html
2023.03.05 リテラ
首相官邸HPより
安倍政権下でおこなわれた報道圧力の実態がつまびらかとなる内部文書が公開され、大きな問題となっている。2日に立憲民主党の小西洋之・参院議員が公開した、約80ページにもおよぶ総務省の内部文書だ。
放送法における「政治的公平性」について、政府はそれまで「一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断する」という見解をとってきた。だが、安倍政権下の2015年5月12日、当時の高市早苗総務相が参院総務委員会で「一つの番組のみでも極端な場合は一般論として政治的に公平であることを確保していると認められない」と答弁し、突然の解釈の追加、事実上の解釈変更をおこなったのだ。
この解釈変更がテレビの番組づくりにもたらした影響は計り知れない。ご存知の通り、安倍政権下では批判的だったキャスターやコメンテーターが次々と番組から消えていった一方、政権を擁護するコメンテーターが跋扈するようになった。さらに、情報番組やワイドショーでは政権批判や不正の追及をすること自体がどんどん減っていった。こうしたいまにつづく状況をつくり出したのは、高市総務相が明言した解釈変更によって、ひとつの番組内で中立を保たなければならなくなったことが大きく影響しているのだ。
しかし、なぜ高市総務相が唐突に解釈変更を明言したのか、その背景に何があったのかはこれまで謎に包まれていた。ところが今回、公開された総務省の内部文書では、当時、安倍晋三首相の首相補佐官を務めていた礒崎陽輔氏が、おもに『サンデーモーニング』(TBS)をやり玉に挙げるかたちで、しつこく総務省に事実上の解釈変更を要求していたことが判明。さらに、安倍首相の“鶴の一声”によって、高市答弁に至っていたことがわかったのだ。
当の高市氏は、この内部文書を「捏造文書だ」「非常に悪意をもってつくられた文書」と主張し、「捏造文書でなかった場合には議員辞職するか」という質問にも「結構ですよ」と応答。森友公文書改ざん問題のきっかけとなった安倍首相の「私や妻が関係していたということになれば総理大臣も国会議員もやめる」を想起させる展開となってきている。
いかに高市氏の主張が苦しいものなのかについては後述するが、そもそもこの内部文書を総務省が「捏造」する理由がない上、礒崎氏本人も「総理補佐官在任中に放送法で定める政治的公平性の解釈について総務省と意見交換をしたのは事実」だと認めている。そして、実際に解釈変更がおこなわれたのも事実なのだ。
それでは、政権への忖度と擁護に溢れかえるいまのテレビ番組の状況を生み出すことになった放送法の解釈変更は、いったい、どのようなやりとりのなかで実行されるにいたったのか。公開された約80ページにもおよぶ内部文書から、紐解いていきたい。
■『サンモニ』批判を繰り返していた磯崎 そして“安倍首相『NEWS23』で逆ギレ事件”の直後…
はじまりは2014年11月26日、元総務官僚である当時の礒崎首相補佐官が総務省放送政策課に電話をかけたことからはじまる。「厳重取扱注意」と記された「「政治的公平」に関する放送法の解釈について(礒崎補佐官関連)」という文書によると、この日、礒崎首相補佐官は「コメンテーター全員が同じ主張の番組(TBSサンデーモーニング)は偏っているのではないか」という問題意識を総務省側に伝え、「「政治的公平」の解釈や運用、違反事例を説明してほしい」と迫った。
じつは礒崎首相補佐官は、自身のTwitter上で以前から『サンデーモーニング』への批判を繰り返しおこなっていたのだが、直前の11月23日・24日にも同番組に対して猛批判を展開していた。
〈日曜日恒例の不公平番組が、今日も、放送されています。仲間内だけで勝手なことを言い、反論を許さない報道番組には、法律上も疑問があります。特定秘密保護法でも、集団的自衛権でも、番組に呼んでいただければ、いつでもきちんと御説明します。〉
〈偏向した報道番組はたくさんありますが、相手側ゲストを呼ばず、一切の反論権を認めない番組は、最悪です。仲良しグループだけが集まって政治的に好き放題言うような番組が、放送法上許されるはずがありません。今の立場では余り動けませんが、黙って見過ごすわけにはいきません。〉
〈女性のO・Eさん(編集部注:大宅映子氏を指していると思われる)がレギュラーで出演している頃には、それほど違和感がなかったのですが、最近傾きが大きくなってきました。間違ったことを本当のように言われるのが、一番困ります。〉
また、ここで注意したいのは、礒崎首相補佐官が動き出したタイミングについてだ。礒崎首相補佐官が総務省側に電話をかける約1週間前にあたる11月18日、安倍首相は『NEWS23』(TBS)に生出演したのだが、このとき安倍首相は放送された街頭インタビューのVTR内にアベノミクス批判をする声が入っていたことに対し、“厳しい意見を意図的に選んでいる”と逆ギレ。さらにその2日後の11月20日に自民党は、在京テレビキー局の編成局長、報道局長宛てに「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」と題した“報道圧力文書”を送りつけている。この文書の差出人は、当時、自民党筆頭副幹事長だった萩生田光一・現政調会長と報道局長だった福井照氏(2021年衆院選で落選)だ。
つまり、礒崎氏による総務省への働きかけは、安倍首相が『NEWS23』に逆ギレを起こしたことをきっかけに安倍首相の子飼い議員である萩生田氏が自民党としてテレビ局に圧力をかけたタイミングと同時期におこなわれたのだ。これらの客観的事実からも、内部文書に記された礒崎首相補佐官の言動に齟齬はなく、信憑性が高いと考えられるだろう。
■磯崎首相補佐官のゴリ押し要求に高市早苗総務相は「この答弁は苦しいのではないか?」と疑問
話を内部文書に戻そう。2014年11月26日に礒崎首相補佐官から放送法が規定する「政治的公平」についての説明を求められた総務省側は、2日後の11月28日に官邸の礒崎総理補佐官室を訪問。そこで礒崎氏は「一つの番組でも明らかにおかしい場合があるのではないか」「絶対おかしい番組、極端な事例というのがあるのではないか。これについても考えて欲しい」と述べ、事実上の解釈の変更に向けて検討するよう迫っている。
首相補佐官が官僚を呼び出し、当たり前の政権批判をおこなう特定の番組をやり玉に挙げて法の解釈変更を要求する──。政権にとって目障りな番組を潰すために法を捻じ曲げさせようとは言語道断の行為であり、安倍官邸の報道圧力体質が浮き彫りになっていると言えるだろう。
一方、礒崎氏に無理難題をふっかけられた総務省側は、あきらかに困惑。しかし、磯崎首相補佐官の要求は再三にわたっておこなわれ、2015年1月15日には総務省側が提出した説明資料に「激高」したことも記述されている。こうしたやりとりの結果、2015年1月29日には、高市総務相と安倍首相に了解を得た上で、国会で「(磯崎氏が)きちんとコントロールできる議員」が質疑をおこなう方向性が確認されている。
そして、礒崎首相補佐官が押し進めてきた事実上の解釈変更をめぐる国会答弁について、2015年2月13日、総務省の担当局長らが高市総務相にレクをおこなう。この場で高市総務相は、総務省が作成した整理ペーパーに記された答弁案に対し「この答弁は苦しいのではないか?」と疑問を呈しつつ、このように発言している。
「そもそもテレビ朝日に公平な番組なんてある?どの番組も「極端」な印象。関西の朝日放送は維新一色」
「苦しくない答弁の形にするか、それとも民放相手に徹底抗戦するか。TBSとテレビ朝日よね」
「官邸には「総務大臣は準備をしておきます」と伝えてください」
「総理も思いがあるでしょうから、ゴーサインが出るのではないかと思う」
つまり、高市総務相は「答弁としては苦しい」部分があると認識しながらも、安倍首相の判断の上で話を前進させることを了承したのである。
ところが、ここで思わぬ人物からの横やりが入る。その人物とは、2013年から2015年まで安倍官邸で広報担当の首相秘書官を務めていた山田真貴子氏だ。
■NHKに言論弾圧電話をかけたあの側近の意外な反応 磯崎首相補佐官を「変なヤクザ」と
山田首相秘書官は礒崎氏と同じ総務省出身で、菅義偉政権の発足で菅氏が官邸に呼び戻し、内閣広報官に据えた人物。菅首相の息子が絡んだ東北新社の接待問題で辞職に追い込まれたことは記憶に新しいが、2020年には菅首相が生出演したNHK『ニュースウオッチ9』において、有馬嘉男キャスターが日本学術会議問題の追及をおこなったことに対し、「総理、怒っていますよ」「あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う。どうかと思います」とNHKの政治部長に怒りの電話をかけたと報じられ、その後、有馬キャスターが降板するきっかけにもなったと見られている。
ようするに、山田氏自身も、菅首相の子飼いらしい報道圧力体質を持った人物なのだが、しかし、このときは逆の動きを見せていた。
2015年2月18日、総務省側が放送法の解釈変更について安倍首相の首相秘書官である山田氏にお伺いを立てたところ、山田氏はこう難色を示したのだ。
「今回の整理は法制局に相談しているのか?今まで「番組全体で」としてきたものに「個別の番組」の(政治的公平の)整理を行うのであれば、放送法の根幹に関わる話ではないか。本来であれば審議会等をきちんと回した上で行うか、そうでなければ(放送)法改正となる話ではないのか」
意外にもまっとうな指摘だが、ここから山田首相秘書官による礒崎首相補佐官の批判がつづく。
「礒崎補佐官は官邸内で影響力はない(長谷川補佐官は影響力あるとの言)。総務省としてここまで丁寧にお付き合いする必要があるのか疑問」
「今回の話は変なヤクザに絡まれたって話ではないか」
「礒崎補佐官からすれば、前回衆院選の時の萩生田(議員名の要請)文書と同じ考えで、よかれと思って安保法制の議論をする前に民放にジャブを入れる趣旨なんだろうが、(山田秘書官からすれば)視野の狭い話。党がやっているうちはいいだろうし、それなりの効果もあったのだろうが、政府がこんなことしてどうするつもりなのか。礒崎補佐官はそれを狙っているんだろうが、どこのメディアも萎縮するだろう。言論弾圧ではないか」
まさかの礒崎氏を「変なヤクザ」呼ばわり……。この物言いからも官邸内のパワーバランスが透けて見えるようだが、重要なのは、礒崎首相補佐官が進めようとしている放送法の解釈変更に対し、首相秘書官からしっかりと「言論弾圧」だという認識が示されていたことだ。
さらに山田首相秘書官は、こうもつづけている。
「総理はよくテレビに取り上げてもらっており、せっかく上手くいっているものを民主党の岡田代表の時間が足りない等言い出したら困る」
「だいたい問題になるのは「サンデーモーニング」「ニュース23」「報道ステーション」だろうが、国民だってそこまで馬鹿ではない。今回の件は民放を攻める形になっているが、結果的に官邸に「ブーメラン」として返ってくる話であり、官邸にとってはマイナスな話」
ようするに山田氏は、「一つの番組」で政治的公平を言い出せば、逆に「安倍首相だけ取り上げられているのはおかしい!」と野党からつけ込まれること、さらには政権に批判的な番組を露骨に狙い撃ちすれば国民から反発が巻き起こることを懸念したのだ。ある意味、冷静な判断だとも言えるだろう。
■磯崎首相補佐官「俺と総理が二人で決める話」「ただじゃあ済まないぞ」「首が飛ぶぞ」と総務官僚を恫喝
このように、言論弾圧をしたい首相補佐官vsそれを阻止しようとする首相秘書官の対立構図となった放送法の解釈変更問題だったが、困り果てたのが、両者の板挟みとなってしまった総務省だった。山田首相秘書官のレクから約1週間後の2015年2月24日、総務省側は礒崎首相補佐官と面談し、「総理にお話される前に官房長官にお話し頂くことも考えられるかと思いますが」と提案。つまり、礒崎・山田両氏の頭が上がらない菅官房長官にジャッジしてもらおうと考えたらしい。
だが、この提案に礒崎首相補佐官は怒り心頭。総務省の官僚たちをこう恫喝しはじめるのだ。
「何を言っているのか分かっているのか。これは高度に政治的な話。官房長官に話すかどうかは俺が決める話。局長ごときが言う話では無い。総理が(官房長官に相談しろと)仰るなら勿論話をする。この件は俺と総理が二人で決める話」
「俺の顔をつぶすようなことになれば、ただじゃあ済まないぞ。首が飛ぶぞ。もうここにも来ることができないからな」
「俺を信頼しろ。役所のOBなんだし、ちゃんとやってくれれば、役所の悪いようにはしない。そちらも、官邸の構造論を分かっておくように」
「俺と総理が二人で決める話」「ただじゃあ済まないぞ」「首が飛ぶぞ」……。事態が一筋縄ではいかなくなったなか、ついに2015年3月5日、礒崎首相補佐官と山田首相秘書官、さらには今井尚哉首相秘書官が同席するもとで、安倍首相に意向を確認することとなったのだ。
このとき、山田氏のみならず今井首相秘書官も「総理単独の報道が萎縮する」「メディアとの関係で官邸にプラスになる話ではない」などと説明。
ところが、マイナス面を説明したというのに、ここで安倍首相が「前向きな反応」を示すのだ。
山田首相秘書官が総務省側に伝えた安倍首相の反応をまとめた「総理レクの結果について(放送番組の政治的公平について)」という文書には、安倍首相の発言がこのようにまとめられている。
「政治的公平という観点からみて、現在の放送番組にはおかしいものもあり、こうした現状は正すべき」
「(放送番組全体で見ることについて)「JAPANデビュー」は明らかにおかしい、どこでバランスを取っているのか」
安倍首相が具体名を挙げた『JAPANデビュー』とは、2009年に放送された全4回のNHKスペシャルのシリーズだ。このシリーズ第1回目で日本の台湾統治を取り上げた「アジアの“一等国”」をめぐっては、当時、安倍氏は「番組はひどすぎる」「『反日』で貫かれています」「イメージ操作を行い、これでもかと日本を貶めています」と猛批判。安倍氏や中川昭一氏らを含む自民党国会議員有志で「公共放送の公平性を考える議員の会」を発足させたほどだった。つまり、こうした「反日」番組を取り締まるためにも、放送法の解釈変更はありではないか、と安倍首相は前のめりになったのだ。
さらに、ここで礒崎首相補佐官が追い打ちをかける。礒崎氏が「サンデーモーニングはコメンテーター全員が同じことを述べている」「明らかにおかしい」と発言すると、安倍首相はこう呼応したというのである。
「放送番組全体で見る」とするこれまでの解釈は了解(一応OKと)するが、極端な例をダメだと言うのは良いのではないか」
再度、山田首相秘書官がマイナス点を説明しても、もはや暖簾に腕押し。安倍首相は「有利不利ではない」「全部が全部とは言わないが、正すべきは正す」と引かなくなってしまったのである。
■“安倍首相もサンデーモーニングを問題視”と磯崎首相補佐官 一方高市総務相は「本当にやるの?」
上記は山田首相秘書官が総務省側に伝えた安倍首相の反応についての報告だが、一方の礒崎首相補佐官が総務省側に伝えた安倍首相の反応をまとめた「礒崎総理補佐官からの連絡(総理レクの結果について)」という文書には、礒崎氏の発言として、こうも書かれている。
「総理がいちばん問題意識を持っているのはNHKの「JAPANデビュ―」だが、これはもう過去の話。今はサンデーモーニングには問題意識を持っている。(報道ステーションの)古舘も気に入らないが、古舘はゲストを呼ぶ。ゲストが弱くて負けるのはしょうがないが、この違いは大きい。サンデーモーニングは番組の路線と合わないゲストを呼ばない。あんなのが(番組として)成り立つのはおかしい」
「とにかくサンデーモーニング。番記者にもいろいろ言っているが、総務省もウォッチしておかなきゃだめだろう」
「古舘は番組には出演させる。総理が呼ばれれば総理はけんかするだろう。その意味でもサンデーモーニングは構造的におかしいのではないかということ。皆さんもこうした意識は頭に入れておいていただきたい。(笑いながら)あんまり無駄な抵抗はするなよ」
つまり、礒崎氏の弁によれば、安倍首相自身も『サンデーモーニング』が問題だという認識を持っていた、というのである。
このように、ついに安倍首相が乗り気となってしまったことで、法解釈の変更を国会質疑でおこなうという方向がいよいよ現実化する。
「大臣レクの結果についての安藤局長(編集部注:安藤友裕・総務省情報流通行政局長)からのデブリ模様」と題された文書によると、総務省は礒崎首相補佐官から受けた安倍首相の反応などを高市総務相に報告するが、高市氏は〈あまり記憶がなかった様子〉だったらしく、第一声は「本当にやるの?」。その後、この問題の内容を思い出してくると、「これから安保法制とかやるのに大丈夫か」「民放と全面戦争になるのではないか」「(前回衆院選の)要請文書のように、背後で動いている人間がいるのだろう」と懸念などを口にし、最終的には「一度総理に直接話をしたい」と発言。高市氏は〈平川参事官(編集部注:平川薫・総務省大臣官房参事官のこと)に今井総理秘書官経由で総理とお話できる時間を確保するようその場で指示〉したという。
この結果、高市総務相は安倍首相と電話会談を実施。その内容を2015年3月9日に平川参事官が安藤局長に報告した内容をまとめた「高市大臣と総理の電話会談の結果」という文書によると、高市氏が安倍首相に電話をしたとあり(日時不明)、こう綴られている。
〈総理からは、「今までの放送法の解釈がおかしい」旨の発言。実際に問題意識を持っている番組を複数例示?(サンデーモーニング他)〉
〈国会答弁の時期については、総理から、「一連のものが終わってから」とのご発言があったとのこと。〉
こうした流れを経て、礒崎首相補佐官が放送法の解釈変更について、国会における「質問」を総務省側に送付。〈NHK予算が終わった後のタイミングで、参・総務委員会の一般質疑で質問する〉方向性が示され、実際、2015年5月12日の同委員会で、自民党・藤川政人・参院議員の質問に答えるかたちで、高市総務相が「一つの番組のみでも極端な場合は一般論として政治的に公平であることを確保していると認められない」という解釈変更を明言するにいたったのである。
■「捏造文書でなければ議員辞職する」と啖呵を切った高市早苗大臣だが…
──以上、今回公表された総務省の内部文書約80ページをざっくりと追ってみた。ここからは、少なくともこの放送法の解釈変更が「言論弾圧」(山田首相秘書官)という大きな危険を孕んだものであり、審議会に諮ることや法改正が必要であるという認識が示されながらも、『サンデーモーニング』を異常なまでに目の敵にしている礒崎首相補佐官の執念と恫喝、さらには礒崎氏に同調した、安倍首相による絶対的な「天の声」があって実行に移されたことがよくわかる。
また、総務省も結果的に政治に振り回されるだけで、問題があることを理解しながら唯々諾々と従ってしまっている。まさに安倍政権の官邸支配の構図が浮かび上がる内容だと言えるが、こうした文書を総務省が「捏造」する理由など、どこにもないだろう。
しかも、現在、「捏造文書だ」と主張している高市大臣は、法解釈の変更を答弁した張本人であるわけだが、その答弁にいたった経緯について問われると「質問通告があったからじゃないか。答弁書の案を私が見たのは前日。その経緯は知らない」などと発言。しかし、とてもじゃないが従来の政府解釈を変更するという重大な答弁書を、経緯も知ろうとせずにそのまま読み上げたというのはおかしい。むしろ、内部文書にあるように「本当にやるの?」「一度総理に直接話をしたい」という反応こそリアリティがあるだろう。
さらに高市大臣といえば、いま刑事告発されている政治資金規正法違反問題で、疑惑隠蔽のために「虚偽の領収書」を発行したという“証拠の捏造”疑惑が浮上。高市大臣は「捏造文書だ」と決めつける前に、自身の事務所の“証拠の捏造”疑惑について説明すべきではないのか。
その上、高市大臣が「捏造文書でなければ議員辞職する」と啖呵を切ったばかりに、今後、総務省が事実の隠蔽に走り、万が一、関係官僚が命の危険にさらされるような事態へと発展しないか、不安は大きい。いや、高市大臣のみならず、3日の参院予算委員会で岸田文雄首相は「(内部文書について)正確性が定かでない」と答弁し、松本剛明総務相も「発言者に内容の確認を取っておらず、文書の記載について、かなりの方々が認識が異なると言っていることが判明した」などと発言しているように、すでに逃げの一手に出ている。国民の「知る権利」を侵害するかたちでこのまま「真偽不明」で闇に葬られる可能性は高い。
だが、それでいいはずがあるまい。繰り返すが、この解釈変更は、政権批判が封じられ、かたや擁護で溢れかえるといういまのテレビ番組の状況をつくり出した元凶ともいえるものだ。そして、政権批判を厭わずおこなう『サンデーモーニング』のような番組を狙い撃ちにし、時の権力が恣意的に解釈を変更させていたのである。解釈変更の見直しの議論は当然のこと、テレビ番組における報道のあり方を問い直すためにも、この内部文書をなかったものにするわけにはいかないのだ。
(編集部)
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