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※紙面抜粋
※2023年3月4日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
参院予算委で質問する立憲民主党の小西洋之参院議員(右)に、高市早苗経済安保担当相は「捏造文書だ」と断言(C)共同通信社
言論弾圧の「証拠文書」なのか、それとも「第2の偽メール事件」なのか──。3日の国会は、総務省が作成したとされる「内部文書」をめぐって大荒れだった。
立憲民主党の小西洋之参院議員が入手した総務省の「内部文書」は、衝撃的なシロモノだ。
テレビ局に圧力をかけるために、当時の安倍政権が「放送法」の解釈を歪めた経緯が詳細に記載されている。「内部文書」によると、安倍官邸は“アベ政治”に批判的だったTBS系の情報番組「サンデーモーニング」を毛嫌いし、「放送法」の解釈変更に動いていた。
「内部文書」をもとに質問に立った小西議員が、「個別の番組に圧力をかける目的で放送法の解釈を変えた」と批判すると、当時、総務大臣だった高市早苗・経済安保大臣は、「内部文書」について「捏造文書だ」と色をなして反論、捏造でなかった場合は「議員辞職する」と啖呵まで切ってみせた。
小西議員が入手した「内部文書」は、A4で計78ページ。2014年から15年にかけて、首相官邸と総務官僚が「放送法」の解釈変更について協議した経緯が生々しく記録されている。日時や場所、出席者などとともに、「取扱厳重注意」といった注意書きも記されている。小西議員は、総務省の職員から提供を受けたという。
例えば15年3月6日。当時の礒崎陽輔首相補佐官は、<(報道ステーションの)古館も気に入らないが><サンデーモーニングは番組の路線と合わないゲストは呼ばない。あんなのが(番組として)成り立つのはおかしい>と、名指しで批判。総務官僚に対して<けしからん番組は取り締まるスタンスを示す必要があるだろう>とまで口にしている。また、違う日には<この件は俺と総理が2人で決める話><ただじゃあ済まない。首が飛ぶぞ>とも発言している。
「内部文書」には、高市総務大臣も登場し、安倍首相が<現在の番組にはおかしなものがあり、こうした現状はただすべきだ>と発言したことも記されている。
もし、「内部文書」に書かれていることが事実だとしたら、言論弾圧そのものだろう。気に入らない番組を取り締まるとは、狂気の沙汰だ。
この「内部文書」が見過ごせないのは、その後、「放送法」の解釈が変更されていることだ。
従来、総務省は、放送法に基づく「政治的公平」について、「一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断する」との見解を示していた。ところが、16年に公表した政府見解は「一つ一つの番組を見て全体を判断するのは当然」と百八十度、変わってしまった。
この解釈変更によって、テレビ局が萎縮したのは間違いない。安倍政権に批判的だったコメンテーターも、次々に画面から姿を消してしまった。
忖度報道に終始する大メディア
唐突に出てきた総務省の「内部文書」の信憑性は、まだハッキリしない。「捏造文書」を渡された可能性もあるだろう。
しかし、安倍政権がメディアを恫喝してきたのは紛れもない事実だ。
総務相だった高市は16年、国会で「電波停止」の可能性にまで言及している。担当大臣が「電波停止」をチラつかせてテレビ局を脅すのは、欧米先進国では考えられないことだ。その後、テレビ局は政権の顔色をうかがうようになってしまった。
総務省の「内部文書」にも、「放送法」の解釈変更を求める官邸に対して、総務省出身の首相秘書官が「どこのメディアも萎縮するだろう」と発言したと記載されている。
実際、安倍政権以降、萎縮した大メディアは、自主規制に走り、権力の嫌がることは、ほとんど報道しなくなってしまった。非政府組織「国境なき記者団」(本部・パリ)が発表した22年の「報道の自由度ランキング」では、日本は世界180カ国・地域の中で71位だった。民主党政権の10年は11位だったのに、安倍政権以降に急落。13年に53位に落ちて以降、低迷し続けている。
ニュースに対する感度もどんどん鈍くなっている。
東京五輪の大会組織委員会会長だった森元首相が「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」と女性蔑視発言をした時は、目の前で見ていたのに、海外メディアが批判報道を展開した後、ようやく動き始める鈍さだった。権力に忖度しているうちに、批判精神を失ってしまったのだろう。
この国会でも、政権を批判すべき問題がいくつも噴出しているのに、ほぼスルーしている状態だ。
野党議員が、政府が最大400発購入する米国製巡航ミサイル「トマホーク」の“ポンコツ”ぶりを暴き、中小零細企業の息の根を止めかねない「インボイス制度」の問題点を指摘しても、ほとんど報じようとしない。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。
「安倍政権の10年間で、大メディアはすっかり牙を抜かれてしまった。最悪なのは、『ムチ』を打たれる一方、幹部が総理と共に会食するなど『アメ』を与えられ、いいようにコントロールされていることです。岸田政権でも、防衛費倍増のための有識者会議のメンバーに大新聞の幹部が名を連ねていた。欧米メディアでは考えられないことです」
「内部文書」のウヤムヤ決着は許されない
大手メディアは、いいかげん目を覚ましたらどうだ。いったい、いつまで政権の顔色をうかがっているつもりなのか。
アベノミクスの失敗によって、この10年で日本経済は壊滅状態。日本全体が貧しくなり、少子化も止まらない。所得の低い非正規労働者は増える一方だ。本来なら、とっくに政権交代が起きていてもおかしくなかったはずである。
ところが、自民党はこの10年間の国政選挙で連戦連勝。それもこれも、大メディアが忖度報道に終始し、デタラメ政治を徹底追及してこなかった結果なのではないか。
ある大手メディアのOBがこう言う。
「一番の反省は、野党がだらしなかったこともあって、知らず知らずに、安倍政権の言い分を、そのまま報じてしまったことです。アベ応援団が発する『野党は批判ばかりだ』『だから国民から支持されないんだ』『いつまでモリカケ桜をやっているのか』という声を、深く考えもせず伝えていた。10年間も『悪夢の民主党政権』『野党は批判ばかりだ』と聞かされたら、さすがに国民も潜在意識に刷り込まれますよね。だからか野党はすっかり“提案型”になってしまった。でも、冷静に考えたら、野党が政権を批判するのは当たり前のこと。結果的に大手メディアが野党の足を引っ張り、自民党政権をアシストしてしまったのではないか、と考えています」
立憲民主党の小西議員が入手した総務省の「内部文書」は、政権が倒れてもおかしくない超ド級の文書だ。松本総務相は「総務省作成の資料であるかどうかの回答は控える」などと、文書の真贋について、回答を避けているが、大手メディアは絶対にこの「内部文書」の真贋をウヤムヤにしてはいけない。
「大メディアにとって、この『内部文書』の真贋は、自らの報道姿勢に関わる問題なのだから、徹底的に検証すべきです。このまま『内部文書』の真贋がウヤムヤになれば、いずれこの問題は立ち消えになってしまうでしょう。そうなれば、得するのは岸田自民です」(五十嵐仁氏=前出)
小西議員は過去、鋭い質問で大臣を立ち往生させてきた論客だ。しかも、総務省の出身である。総務省の文書は見慣れているはずだ。「内部文書」が本物かどうか、かつての同僚官僚にも確認しているに違いない。礒崎元首相補佐官は共同通信の取材に「(担当局長らとの間で)政治的公平の解釈について意見交換したのは事実だ」と認めている。ウヤムヤのまま終わらせることは許されない。
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