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※紙面抜粋
※文字起こし
異次元緩和の修正など出来るのか やるなら歴代政権と黒田日銀の断罪が先
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/318948
2023/02/18 日刊ゲンダイ
真っ先に国民に謝罪がスジ(C)共同通信社
恐らく政権サイドのリークなのだろう。4月8日に任期満了となる黒田日銀総裁の後任に、経済学者の植田和男氏をサプライズ起用した舞台裏についての報道が盛んに流されている。
昨年の夏ごろから首相官邸で候補者リストが作られ、財務省や日銀のOBら関係者と議論を繰り返す中で、学者の起用が浮上した。FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)では学者が金融トップに立つことも多く、国際派の植田氏なら「インナーサークル」に入れると判断。最後は極秘裏に首相自らが接触し、決定したというものだ。
後任総裁の条件として「金融政策について、俺と握れる(すり合わせができる)かが大事だ」と、岸田が周囲に打ち明けていたと報じた記事もあった。いずれも、10年続けてきたアベノミクスの異次元金融緩和からの「出口」を、政府と日銀が一体となって模索していくことを印象づけるもので、岸田のリーダーシップが特に強調されてもいる。
中でも17日の毎日新聞はすごかった。岸田が定期的に意見交換しているという男性や周辺に語ったという“決意”はこうだ。
「日銀の大規模金融緩和はいずれ修正する必要がある。このままではいけない」
「10年前は安倍さんのやり方で良かったんでしょう。でも今は違う。やり方を変えないと」
記事によれば、岸田が新総裁の条件として、主要国の中央銀行トップと緊密なやりとりができる「国際性」を重視したのは、英国を反面教師にしたのだという。大型減税を打ち出したトラス前首相が、マーケットの財政悪化懸念から債券・通貨・株の「トリプル安」を招き、スピード辞任に追い込まれた。「岸田首相は政権を維持するためにも、マーケットを含め海外の反応を重視している」と首相周辺は語り、記事は、<異次元緩和、そしてアベノミクスは岸田政権にとって、重い足かせとなりつつあった。それをどう修正するか。首相は着々と準備を進めていたように見える>と締めるのだ。
確かに、異次元緩和が金融市場を歪め、長期的な円安が「安いニッポン」に貶め、日本経済に多大な副作用をもたらしているのは間違いない。超低金利下で無尽蔵な国債発行による巨額予算編成を繰り返し、財政規律が失われたのも事実だろう。だが、ことさら財政悪化が強調されているのは、岸田“財務省”政権が、「だから増税が不可避なのです」と世論に刷り込む狙いでもあるのかと疑りたくなる。
「それはあるでしょう。財務省には当然、増税が視野に入っている。財務省に理解を示す記者を“育てる”ためのマスコミ対策予算も持っていますしね。今度の日銀人事は、アベノミクスからの修正を体現するための人選です」(金融ジャーナリスト・森岡英樹氏)
8割の起業が借入金利上昇を予感し狼狽
異次元緩和など早くやめなきゃダメなのは当然だが、問題は、では、本当にできるのか、だ。ひとたび手を付けたとたん、大混乱必至。ここに興味深いデータがある。
東京商工リサーチが17日発表した「金融政策に関するアンケート」調査によれば、昨年12月20日に日銀が金融政策を一部修正した後、金融機関から「金利引き上げをはっきり伝えられた」「金利引き上げの可能性を示唆された」企業が2割弱(18.5%)あったというのだ。
あの時は、日銀が政策修正でイールドカーブ・コントロール(長短金利操作=YCC)の対象となる10年国債利回りの上限を0.25%から0.5%に拡大すると発表すると、為替は一気に5円もの円高となり、株価も一時800円以上暴落した。
黒田総裁は「利上げではない」「金融緩和は継続」と強調したが、マーケットは激しく反応したのである。こうした状況を金融機関が敏感に察知し、融資を受けている企業が狼狽するのは当たり前。今後の資金調達の借入金利について「上昇する」と感じる企業は約8割(78.9%)に上っている。
「金融機関は現状のマイナス金利をとにかく正常化してほしいと願っています。金利のない世界では儲ける方法がありませんからね。黒田さんがどんなに否定しても、『いよいよ政策転換だ』という期待感が金融機関側にはある。他方、コロナ禍で傷んでいる企業はたくさん借金していますから、金利が上がれば経営が大変になる。日銀は難しい判断を迫られます」(森岡英樹氏=前出)
恐竜病の日銀に突きつけられる、難解な3次方程式
それだけじゃない。
日銀が金利の上昇容認に転じれば、膨れ上がった国債の利払い費が増加し、政府の財政をさらに圧迫する。普通国債の発行残高は昨年度末に1000兆円を超え、この10年で1.5倍に拡大。現状は、超低金利のおかげで毎年の利払い費が7兆円台で推移してきたが、財務省の試算によると、1%の金利上昇で3年後の利払い負担は、3.7兆円、2%で7.5兆円増える。いまの倍だ。
政府が国債頼みの政策を乱発し、日銀が国債を買い入れる事実上の財政ファイナンスが常態化した結果、「出口政策」はさらなる財政悪化を招き、岸田政権のクビを絞めることになるのだ。
政策転換は日銀自身にとってもジレンマだ。
黒田が残した負の遺産で、日銀の資産は736兆円にまで膨張し、バランスシートはメチャクチャ。国債保有残高は1月末時点で583兆円に達する。昨年末時点での含み損は8兆8000億円に上る。
日銀が政策金利を引き上げれば、当座預金に支払う利息が増える。保有する国債の含み損も膨らみ、債務超過になりかねない。
「日銀は、資産が異常に膨れ上がり、すっかり恐竜病に陥っています。FRBの資産はGDPの3分の1なのに、日銀の資産はGDPの1.4〜1.5倍にもなっているのです。これをどう減らしていくのか。“神ワザ”の領域です。日銀が政府の放漫財政に深くコミットしてしまっているので、政府との関係でも身動きが取れません。そして3つ目の課題が、国際金融マフィアとの関係です。これまで日銀は、欧米が金融引き締めを続ける分、その尻ぬぐいの金融緩和で副作用を吸収していた面がある。新総裁になる植田氏が彼らとどう付き合うのか。難解な3次方程式をどうやって解くのでしょうか」(経済評論家・斎藤満氏)
岸田は、安倍・黒田と自分をすっかり切り分けているようだが、岸田は安倍政権で長く閣僚を務めた。自民党で政調会長の任にもあった。失政に責任がないとは言わせない。本気でアベノミクスと決別するつもりならば、まずは黒田と歴代政権への断罪が必要だ。
異次元緩和は2年間の時限的なカンフル剤のはずだった。しかし、黒田が宣言した「2年で物価上昇率2%」に達することはできず、ズルズルと引っ張っただけでなく、マイナス金利政策やYCCまで動員。それでもアベノミクスで狙った安定的な物価上昇と賃金上昇の好循環は起きず、逆に、消費者が望まないエネルギー価格や輸入物価の急上昇で2%を達成という末路である。
岸田は、安倍派に嫌われないようアベノミクスへの評価を曖昧にしているが、ここまで日本経済を没落させ、賃金を上がらなくさせてしまったことを、真っ先に国民に謝罪するのがスジだろう。
アベノミクスの何が問題だったのかを率直に認めることをせず、異次元緩和をやめることなどできるのか。そんな岸田を持ち上げる大マスコミもつくづく無責任だと言うしかない。
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