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結論ありきの茶番劇。広島サミットのために圧力をかけた岸田政権「原発60年超運転」という恐怖シナリオ全貌
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2023.02.16 『きっこのメルマガ』 まぐまぐニュース
全会一致の議決が基本の原子力規制委員会で、異例の多数決で了承された老朽化原発の運転延長。国民の命に関わると言っても過言ではない重要な決定は、なぜこのような形でなされてしまったのでしょうか。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、その裏事情を徹底解説。今年5月に行われる広島サミットに向けて描かれた、「恐怖の岸田シナリオ」の全貌を白日の下に晒しています。
また閣議決定。原発60年超運転を規制委に認めさせた政権の手口
2月8日(水)、原子力規制委員会は臨時会を招集し、岸田文雄首相が強引に進めている「老朽化原発の60年超の運転延長」や「原発新設」などに向けた改正案についての審議を行ないました。規制委は委員長を含めて5人の委員で構成されていますが、このうち1人の委員、東北大学の教授で日本地質学会の会長をつとめる地質や地震の専門家、石渡明氏が「反対」したため、この日は「今後も議論を続けて行く」ということで、決議は先送りされました。
すると、2日後の2月10日(金)、岸田首相は「老朽化原発の60年超の運転延長」や「原発新設」などを盛り込んだ「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定してしまったのです。老朽化した原発の運転延長には「反対」の声が根強く、昨年12月から今年1月まで政府が実施したパブリックコメントでは、4,000件近く寄せられた意見の大半が「反対」だったと経産省の担当者も説明しました。しかし、西村康稔経産相は「100回を超える審議会を積み重ねて来た」として、政府や経産省に殺到した批判の声を封殺して押し切ったのです。
この突然の閣議決定には、規制委に対する圧力という政治判断が働いていました。ようするに「政府も閣議決定したのだから、お前らも先延ばしばかりしていないでトットと決めろ!」という圧力です。そして、この圧力に屈した規制委は、週が明けた13日(月)の夜、急遽、臨時会を招集し、「老朽化原発の60年超の運転延長」に向けた改正案を、8日の臨時会と同じく石渡委員が「反対」している状況なのにも関わらず、賛成4人、反対1人という多数決で強引に決定してしまったのです。規制委で何かを決定する場合は「全会一致」が基本なので、これは異例中の異例であり、初めから「結論ありき」で進められたシナリオ通りの茶番劇としか言いようがありません。
「反対」を訴える委員の声を封殺した強引な可決
現在の規制委は、石渡委員の他に、委員長が大阪大学の教授で核燃料の安全性を研究している山中伸介氏、委員は東京大学の教授で核燃料サイクルや放射性廃棄物の研究をしている田中知氏、日本原子力研究開発機構・安全研究センター副センター長の杉山智之氏、東京医療保健大学の教授で旧動力炉・核燃料開発事業団に所属する伴信彦氏がつとめています。それぞれ専門が違うのは、様々な角度から原発の安全性をチェックするためであり、1人でも「反対」する制度や法案は、基本的には認められません。
13日の臨時会では、地質や地震の専門家である石渡明委員が、8日の臨時会に引き続き「反対」したのですが、石渡委員は、審議そのものに対する「反対」と、制度案の内容に対する「反対」を訴えました。まず、石渡委員の主張は、安倍政権下の2020年に規制委が示した「原発の運転期間は利用政策側(推進側)が判断する事案であり、規制委は意見を言う立場にない」とする見解でした。
普通に考えて、これは小学生でも分かる常識でしょう。原子力規制委員会は現行の原発が安全に運用されているかどうかをチェックする機関であって、間違っても原発の運転期間を決定する組織ではありません。それなのに、その規制委に対して、時の政権が閣議決定した危険極まりない改正案を審議させ、「反対」の声を封殺して強引に可決させ、「規制委のお墨付き」を取り付けた上で改正法案を今国会に提出する。こうすれば野党も反対しにくくなりますし、毎度お馴染みの数の暴力で強行採決しても、国民からの批判を一定程度は押さえることができると見積もったのでしょう。
結論ありきの茶番劇。岸田政権が原子力規制委にかけた政治的圧力
さらに言えば、もしも老朽化原発が60年超の運転によって大事故を起こした場合、政府はその責任を規制委になすりつけることができるのです。今回、石渡委員は「われわれが自ら進んで法改正する必要はない」と述べて「反対」しましたが、これは規制委のありようから考えても、一点の曇りもないほどの正論だと思いました。
また、改正案の内容に対する石渡委員の反対意見は、「(今回の改正案は)科学的、技術的な新知見に基づくものではない。安全側への改変とは言えない」というもの。つまり、「原発の運転期間を60年超まで延長しても安全性に問題ない」という新しい科学的な知見が何ひとつ得られていないのに、何の根拠もなく「とにかく延長するのだ」という政治判断のみで強行された改正案である、と指摘したのです。
石渡委員は、「審査で停止した期間を運転期間から除外する」という開いた口がふさがらないご都合ルールに関しても、「審査に時間が掛かる高経年化(老朽化)した古い原発ほど60年を超えて運転するという、安全性に逆行する結果になる」と指摘しました。これは、背筋(せすじ)も凍るような恐ろしい改正案です。また、石渡委員は「いくら『しっかり規制する』と言っても、60年を超える運転に対して、どのような規制をするのか、具体的にはまだ何も決まっていない」と述べ、この状況下での強引な決定を批判しました。
岸田政権から急かされた議論。原子力規制委メンバーが暴露した内情
そして、今回の「結論ありき」の茶番劇については、仕方なく「賛成」に手を挙げた委員からも批判の声が出ました。日本原子力研究開発機構・安全研究センター副センター長の杉山智之委員は、「外部(岸田政権)から定められた締め切りを守らないといけないと、急(せ)かされて議論して来た」と、その内情を暴露したのです。岸田政権から「いついつまでに決めろ」と命じられたため、十分な議論もできないまま「結論ありき」の決議を余儀なくされたと言うのです。
つまり、すべては岸田首相の一世一代の晴れ舞台である5月の「広島サミット」に向けて描かれたシナリオであり、G7の首脳たちの前で大々的に発表する予定の日本のカーボンニュートラル政策、「GX実現に向けた基本方針」を、今国会ですんなりと可決させておくための布石だったのです。自分が「広島サミット」でG7のリーダーを気取るためなら、原発の運転基準を危険なものに変更するなどお構いなし。もしも将来的に大事故が起こったとしても、「老朽化原発の60年超の運転延長」を「安全」と判断したのは原子力規制委員会なのだから、政府には何の責任もない。これが今回の「岸田シナリオ」なのです。
(『きっこのメルマガ』2023年2月15日号より一部抜粋・文中敬称略)
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