「畜産危機打開へ緊急支援を!」 子牛、豚、鶏も引き連れ…全国の畜産農家が農水省前で訴え 国は食料生産現場を守れ | 長周新聞 https://www.chosyu-journal.jp/shakai/251902022年12月8日 全国的に農畜産業の苦境が増すなかで、農民運動全国連絡会(農民連)と国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会(全国食健連)は11月30日、東京霞ヶ関の農水省前で「11・30畜産危機突破緊急中央行動」を開催し、全国各地の農家が参加した。畜産業界では今、配合飼料や輸入乾牧草などの飼料高騰をはじめ、電気代や燃料費など生産資材が値上がりしている。一方で農畜産物価格は上昇せず、生産者の赤字や借金は膨らみ、経営が圧迫され続けている。かつてない畜産危機を打開するために、農水省前には北海道から九州までの酪農・肥育・養豚・養鶏農家に加え、子牛や豚、鶏も集まった。また、会場に来られない多くの農家もオンラインで参加し、怒りのスピーチをおこなった。東京大学大学院の鈴木宣弘教授もビデオメッセージを寄せた。また、緊急行動の後には、畜産農家の要求を記した政府への第三次「緊急要望書」提出もおこなった。 最初に挨拶した農民連の長谷川敏郎会長は以下のように訴えた。 今日本の畜産は最大の危機に瀕している。この状況が続けば産業としての崩壊が始まる。まさに今が正念場だ。国民のみなさんにとっても国産の牛乳や牛肉、豚肉、卵が食べられなくなる重大な事態だ。 私たちは畜産農家を訪問し、10月には野村農水大臣宛の緊急要望書、いわば現代版の直訴状を直接大臣に手渡した。さらに第2次分300人、今日は第3回目でのべ900人をこえる農家の声を届ける。 今私たちが求めているのは農家への緊急支援だ。畜産は生き物を飼う産業で毎日のエサ代は欠かせない。だが今回の補正予算は、「牛乳が余っているから1頭15万円の補助金を出す代わりに親牛を処分せよ」というものだ。政府は「クラスター事業」で農家に対し「外国のエサは安いから規模拡大せよ」と煽動しておきながら、今度は見殺しにするのか。エサ代はコロナ前から1・5倍になり、生産者負担の増加分は全国で4000億円ともいわれている。しかし政府は800億円の補助しかせず、残りはすべて畜産農家に押しつけている。 エサの高騰は農家の自己責任ではない。EUは乳価を55%も引き上げ、アメリカも34%引き上げている。再生産可能な価格政策は政府の責任ではないか。従来の対策の延長ではまったく不十分だ。このままでは農家は年を越せない。 12月22日には第四次の提出行動を計画している。消費者のみなさんと力を合わせ、日本から畜産の火を消さないために頑張ろう。 続いて、東京大学大学院の鈴木宣弘教授が、以下のような動画メッセージを寄せた。 * * 日本の酪農家たちは本当に厳しい状況にある。一昨年に比べて肥料も飼料も価格が2倍、燃料費も3割高と、コストはどんどん上がっている。しかし在庫が多いから価格転嫁できないといって、コメも牛乳も売値がまったく上がらず赤字ばかりが膨らんでいる。このまま放置していたら半年で半分以上の酪農家がやめてしまうかもしれない大変な状況だ。 そこに追い打ちをかけているのが、「副産物収入の激減」だ。大きな肥育農家が575億円もの負債を抱えて倒産してしまったため、子牛が売れなくなってしまった。夜も寝ずに一生懸命ミルクを与えて育てた子牛が、売れずに殺されてしまう状況になっている。酪農家は精神的にも耐えられなくなり追い込まれている。 さらに、これ以上生乳を絞っても受け入れないという強制的な減産計画も加わってきている。「乳製品の在庫が多いから減らすしかない」といわれ、昨年北海道の酪農家だけでも100億円規模の負担を強いられている。潰れそうになっている酪農家に対して、乳製品在庫1`当り2円70銭などという負担を強いてさらなる追い打ちをかけている。 そもそも脱脂粉乳が余っているというのに、日本は世界に冠たる膨大な乳製品輸入枠をもうけており、これを「最低輸入義務」だといってやめずに輸入し続けている。しかしこれはあくまで「低関税で輸入すべき枠」としか決まっていない。それでもアメリカにいわれたからといって、コメも乳製品も輸入を続けている。これさえやめれば在庫は一掃されて事態は一気に改善するのにやめない。しかも、今はコメも乳製品も海外の価格の方が高くなってきている。日本に良い物があるのに、それを使わないでわざわざアメリカなどから高く買い、捌けないからそれをエサにして使ったりしている。こんな理不尽なことがあるだろうか。 普通の国ならコスト高で赤字が生じたら、まず政府は最低限の赤字補填をするが、日本にはない。きちんと他の国のように補填をすべきだ。他の国はこのような事態ではまず、政府が需給の最終調整弁を持っており、穀物も乳製品も買い上げる。そして国内の困っている消費者を助け、外国の困っている人たちも援助する。こうした政策をどの国も持っている。日本だけがそれをやめてしまった。 そもそも、乳が余っている状況を酪農家の責任のようにいうが、元を正せば「バターが足りない」などと大騒ぎし、生産者に対して国に借金までさせて牛も施設も2倍に増やさせ、どんどん増産するよう国が誘導した。それでいて在庫が増えたから「牛乳を搾るな」「牛を殺せ」という。 すでに今、有事に突入している。もうすぐ世界の乳製品需給がひっ迫して日本に物が入ってこなくなるかも知れない。そんなときに牛を殺してどうするのか。種付けから乳を搾れるようになるまで3年はかかる。目先の在庫減らしなどの近視眼的な政策によって、これまで何度需給の過剰とひっ迫をくり返してきたのか。日本の政府が他の国のように需給の最終調整弁を持ち、しっかりと生産物を買い上げて国内外の援助に回せば、国内の食料危機も回避できるし国際的にも貢献できる。なぜこのような積極的な政策に財政出動ができないのか。 国内の農家が本当に潰れそうになっており、自ら命を絶つ酪農家が後を絶たない。政府がなんのためにあるのか考えないといけない。国内の消費者も小売業界もメーカーも、考えないといけない。輸入依存をやめ、国産を使い、国産を食べるように行動しよう。今ここで国内の酪農家が急速な勢いで潰れていけば、供給できる牛乳がなくなる。台湾有事のようなことがいつ起こるかわからないなかで、本当に物が海外から入ってこなくなる。食べるものがなくなる。国民の餓死が現実に迫っている。 コメは1万2000円だったところから9000円まで値下がりしているが、主食米に対して値下がりの全差額分を支払ったとしても、3500億円だ。全酪農家に牛乳1`当り10円、牛1頭当り10万円払ったとしても750億円。食料こそ命を守るための「安全保障の要」だ。食料生産には数兆円かけてでも、国民の命を守るためには絶対に必要だ。 超党派で「食料安全保障推進法」のようなものを立法する必要がある。縛りを打破して、即刻農林水産業に投入しなければ、今の危機は乗り切れない。「お金を出せば輸入できる」ことを前提にした食料安全保障などもう通用しない。不測の事態に国民の命を守ることが安全保障だ。F35購入費だけで6・6兆円かけ、「防衛費を2倍に」などという前に、食料にこそ財源を投入しなければならない。これが国民の命を守る唯一の道だ。いざというときに食料がなくなっても、オスプレイやF35をかじることはできない。 (以下略)
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