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https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/314217
宗教法人の解散命令を裁判所に請求する理由について、岸田文雄首相は、10月18日の衆院予算委員会で「民法(上)の不法行為は『入らない』(つまり刑法上の『犯罪だけ』だ)」と断言した。ところが、翌19日の参院予算委員会で、首相は、「民法(上)の不法行為も『入り得る』」と答弁を変更した。
首相答弁は、政府解釈の「先例」として、以後、法律と憲法(今回は20条:信教の自由と政教分離)を運用する基準になる。
旧統一教会を解散に追い込みたい野党は、解散に前向きに変更された首相答弁を歓迎しながらも、その「朝令暮改」ぶりは「法的安定性」を害するものではあるので、首相の政治姿勢の問題として批判している。
今回の首相の突然の答弁変更については、一般に、国葬決定以来、下げ止まらない支持率に焦った首相と側近集団が思考停止に陥って場当たり的な対応をしているからだと評されることが多い。
しかし、それ以上に、安倍・菅政権が壊してしまった官僚制度の機能不全が主な原因ではなかろうか。
日本の官僚制度は世界に誇り得るシンクタンクである。それは、分野別に最高・最新の科学的知見と正確な歴史的先例を蓄積した国家の知恵袋の役割を果たしてきた。
かつては、与党政治家が党派的や個人的な利害から行政府に特別な処分を求めて圧力をかけても「法令と先例」を根拠に冷静に押し返す官僚の姿があり、政治家もそれで納得していた。つまり、日本は、権力者が代わっても、国民は誰でも「法令と先例」の下で平等に扱われる「法治国家」であった。
それが、安倍政権の時代に、首相が自分と親しい者を法令と先例を無視してでも優遇せよと要求した場合に、人事権を握られた官僚が首相におもねって従うようになってしまった。官僚側の思考停止である。その結果、「首相が思いつきで法令と先例を踏み越える自由」が生まれてしまった。
「犯罪を犯さない限り」、多数派にとっては「悪趣味」であったとしても、宗教団体には法(国家)は介入しないというのが、日米の確立された最高裁判例である。
小林節慶応大名誉教授
1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著) 5月27日新刊発売「『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)
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