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政府・日銀の「矛盾政策」は英ポンド危機の二の舞にならないか 金子勝の「天下の逆襲」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/313038
2022/10/19 日刊ゲンダイ
トラス英首相の経済政策は“首相降ろし“の本格化に発展も…(C)AP=共同
9月の企業物価指数が前年同月比で9.7%の上昇となった。これで19カ月連続だ。輸入物価指数は同48%増。円安の影響もあって上昇する中で10月の値上げラッシュを迎えている。
輸入物価高を食い止めるため政府・日銀は9月22日、1ドル=145円で円買いドル売り介入したが、10月12日には146円を突破。そして、1998年の金融危機時の「日本売り」の水準148円を突破してしまった。
為替介入の効果が全くなかったことは今後の円相場を左右しうる危機的な事態だが、日本のメディアの危機感は薄い。9月22日の介入では、外貨準備が前月比540億ドル減って、そのうち外貨建て証券が同515億ドル減少した。つまり、財務省はドル売り介入で米国債を売却した可能性がある。
これは大きな矛盾だ。米国債を売れば、米国の長期金利が上昇して円安を加速させてしまう。さらに、米国の長期金利が上がれば、米国債価格は下落する。米国債を売る介入では、日本政府の損失が拡大していくばかりだ。
しかも今後、継続できるかも不透明である。米FRB(連邦準備制度理事会)の大幅利上げは継続の可能性が高まっている。米国の金利上昇によって、米国債は価格が下落するので売り手が増えて、買い手が不足することになる。そんな中、大量の米国債売りで介入しようとすることを、米当局は望まないだろう。
この事態が未来に何をもたらすか――示唆しているのが英国のポンド、国債の暴落だ。アベノミクスにシンパシーを持つとされるトラス新政権は、財源の保障もないまま減税や歳出増のバラまきを実施しようと試みた。政府がポンド安を招きかねない政策を打ち出しながら、中央銀行に当たるイングランド銀行は引き締めを実施。この矛盾が結果的にポンド、英国債の暴落を招いたのだった。
考えてみると、岸田政権のスタンスもトラス政権と似通っている。ガソリン元売りや電力会社にジャブジャブ補助金を拠出する愚策を実施。これを日銀が金融緩和で支えて円安を誘導しながら、同時に円買いドル売り介入で円安を食い止めるという矛盾。支離滅裂な政策に陥っている点で日英両政権は共通している。
すでに、10年国債の売買が成立しづらくなるなど危機の兆候は起きている。いつまで矛盾した政策を続けることができるのか。ポンド暴落と同じような経済危機がいつ来るか、我々はそういうリスクに無防備であってはならない。メディアもキチンと日本売りのリスクを直視するべきだ。
金子勝 立教大学大学院特任教授
1952年6月、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。法政大学経済学部教授、慶應義塾大学経済学部教授などを経て現職。慶応義塾大学名誉教授。文化放送「大竹まことゴールデンラジオ」などにレギュラー出演中。近著「平成経済 衰退の本質 」など著書多数。新聞、雑誌、ネットメディアにも多数寄稿している。
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