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2022年9月19日 07時25分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/203280?rct=editorial
安全保障関連法の成立が強行されたのは今から七年前。今年七月に銃撃され亡くなった安倍晋三首相の政権時だった。日本を「戦争できる国」に変えた安保法。戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認を明記した憲法九条に合致するのか、問い続けなければならない。
二年に一度、米海軍主催によりハワイ周辺海域で行われる世界最大規模の海上演習「環太平洋合同演習(リムパック)」。今回は六月二十九日から八月四日まで実施され、日米両国のほか英仏豪印韓など計二十六カ国が参加した。
一九八〇年から毎回参加する海上自衛隊は今回、ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」や護衛艦「たかなみ」などを派遣したが、これまでとは異なることがあった。安保法で新たに設定された「存立危機事態」を想定した訓練が初めて行われたことである。
◆政府解釈根底から覆す
「日本政府が存立危機事態の認定を行う前提で、武力の行使を伴うシナリオ訓練」が行われたのは七月二十九日から八月三日まで。当時の岸信夫防衛相が自衛隊の参加を明らかにしたのは終了後だった。詳細は「運用にかかわる」として明らかにされていない。
存立危機事態は、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態を指す。他に適当な手段がない場合に「集団的自衛権の行使」も可能とされる。
国連憲章で認められた集団的自衛権は有しているが、その行使は必要最小限の範囲を超えるため、憲法上認められない。これが国会や政府内での長年の議論を通じて確立し、歴代内閣が踏襲してきた憲法解釈である。
この解釈を一内閣の判断で根本から覆したのが安倍内閣だ。二〇一四年に集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に踏み切り、翌一五年には行使容認を反映させた安保法の成立を強行した。
戦後日本は憲法九条の下、国連憲章で認められた自衛権のうち、個別的自衛権しか行使しない「専守防衛」に徹してきた。
平和国家という国の在り方は、国内外で多大な犠牲を強いた戦争への反省にほかならない。
訓練には、緊張が続く台湾情勢を踏まえ、軍事的圧力を強める中国に対する抑止力を示し、けん制する狙いがあるのだろう。
故安倍氏や麻生太郎元首相らから台湾有事は日本の存立危機事態に当たるとの発言が出ていた。
しかし、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、武力を行使することは、他国同士の戦争に参加することにほかならない。それでも戦争放棄や戦力不保持、交戦権の否認を明記した憲法九条に反しないと強弁できるのか。
防衛政策を抜本的に転換した安保法の検証は、安倍氏の追悼と切り離して続ける必要がある。
岸田文雄政権は「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱(防衛大綱)」「中期防衛力整備計画(中期防)」三文書の年内改定に向けた議論を始めた。中国の軍事的台頭や海洋進出の動きなど周辺情勢の変化を改定理由としている。
◆戦争可能国家への変質
文書改定の焦点は相手国の領域内で軍事拠点などを攻撃する「敵基地攻撃能力」保有の是非だ。安倍政権時代から自民党が繰り返し提言してきたものでもある。
歴代内閣は座して自滅を待つのは憲法の趣旨でないとして、ほかに方法がない場合、敵のミサイル基地を攻撃することは自衛の範囲とする一方、敵基地攻撃が可能な装備を平素から保有することは憲法の趣旨ではないとしてきた。
敵基地攻撃可能な装備が常備されれば、存立危機事態の際、日本が直接攻撃されていなくても相手国への攻撃が可能になる。戦後日本の平和国家の歩みは途絶え、戦前のような戦争可能な国家への回帰は避けられまい。
安保法は平和憲法のタガを外してしまったかのようだ。自衛隊の任務や可能とされる軍事的領域は広がり、国内総生産(GDP)比1%程度で推移してきた防衛費は倍増の2%も視野に入る。そして敵基地攻撃能力の保有である。
世界を見渡せば、力には力で対抗する緊張が続いているが、平和国家として歩んできた日本はそれに乗じて「軍備」を増強するのではなく、緊張緩和に向けた外交努力こそ尽くすべきではないか。
平和への構想力を欠く安保政策では、軍拡競争を加速させる安全保障のジレンマに陥り、地域情勢を好転させることはできまい。
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