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※紙面抜粋
※2022年9月9日 日刊ゲンダイ2面
【このままでは できっこない】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) September 9, 2022
安倍国葬 無理を通せば未曽有の混乱になる恐れ
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/XVLQKEu5z0
※文字起こし
衆参両院で8日開かれた安倍元首相の国葬に関する閉会中審査。内閣支持率急落で追い込まれ、この期に及んで説明を余儀なくされたわけだが、予想された通り、岸田首相の答弁は酷かった。先月31日の記者会見で「正面からお答えする」「初心に返って丁寧に説明する」と大見えを切っていたのに、壊れたレコードのようにこれまでと同じ説明を繰り返すだけ。審議時間も短すぎる。4野党で衆参それぞれたった1時間では消化不良だ。「なぜ安倍だけが特別なのか」の疑問はクリアされず、納得した国民は皆無だろう。
岸田の言う「国葬」の理由は、@憲政史上最長の在任期間A経済再生や外交などさまざまな功績B諸外国から弔意が届くなど国際社会の評価C民主主義の根幹である非業の死、という相変わらずの4本柱しかない。
国葬の「根拠法」がないから無理やり「内閣府設置法」を引っ張りだしてきたことについても、野党議員から「内閣府設置法をよく読むと、国の儀式の事務を司るとなっている」と指摘されてしまった。内閣の権限が及ぶのはあくまで「事務」。国権の最高機関である国会を無視して、内閣単独で「国の儀式」を決定する権限があるとは読めない。つまり「安倍国葬」は、法治国家を否定する内閣の独断であり、暴走だ。岸田は「内閣法制局とも確認の上で」と言い訳するだけで、マトモに反論できなかった。
「ようやく開かれた国会審議ですが、デタラメでいい加減でしたね。説明できないのは、『国葬』は戦前の明治憲法下のもので、民主主義の日本国憲法では想定されていないから。法律も法的根拠もあるわけがないので、説明なんてできっこない。だからチャランポランの答弁でごまかすしかないのです」(政治評論家・本澤二郎氏)
総額16億6000万円程度とした費用についても、式典経費に2.5億円、警備費に8億円、海外要人の接遇費に6億円というこれまでの説明の域を出なかった。さらに膨らむ可能性があるのに、「過去のさまざまな行事との比較においても妥当な水準だ」と強弁。挙げ句には、「従来は(費用の項目を)切り分けて説明してこなかったが、より丁寧な説明を行うべきとの指摘を受けて出した」と開き直るのだから始末に負えない。
「弔問外交」は後付け、「礼節を持って」は詭弁
「安倍国葬」を是とする理由の4本柱で、岸田がことさら強調していたのが、「諸外国からの弔意」だった。安倍の死去に対し約260の国・地域と機関から1700件以上の追悼メッセージが届いたと説明し、「多くの国が議会で追悼決議した」「政府として服喪を決定した」「国によってはランドマークを赤と白でライトアップした」とズラズラ事例を並べたてていた。
岸田いわく、「安倍元総理に対してだけでなく、日本政府ならびに日本国民全体に哀悼の意を表すもの」になっているから、「日本国として礼節をもって丁寧にお応えするためには、国の儀式である国葬で海外の要人を迎えることが適切」という理屈らしい。だが、これは詭弁の類いだ。
元外務省国際情報局長の孫崎享氏が言う。
「元首相を選んだのは国民であり、その人を失った国民に対して、各国が哀悼の意を示すのは当たり前です。その気持ちに応えるのに、なぜ国葬でなければならないのか。2000年に行われた小渕元首相の葬儀は内閣・自民党合同葬でしたが、米国からは現職のクリントン大統領、韓国から金大中大統領、ASEAN諸国からも多数の大統領や首相が訪れました。合同葬でも十分、哀悼の意を表す場になる。『海外要人に礼節をもって』という理屈は後付けでしかありません」
そこまで安倍の横死に心を痛めてくれているのなら、小渕の時より多くの首脳の出席表明があってしかるべきだが、むしろ当初の想定よりどんどん減っているのが現実だ。バイデン米大統領は早々に「欠席」が伝えられ、マクロン仏大統領も参列を見送り、G7の現役トップの参列は現状、カナダのトルドー首相だけ。メルケル前独首相も来ないという寂しさだ。元首級は一握りで、岸田が国葬の理由とする「弔問外交」はお寒い限り。その分、国民の血税から支出される警備費や接遇費が減るという“皮肉”は笑えない。
そんな中で、8日ようやく米国政府がハリス副大統領の参列を正式発表し、岸田官邸はさぞ胸をなでおろしたことだろう。閉会中審査で岸田が、「ハリス副大統領、インドのモディ首相、豪のアルバニージー首相……」などと、ハリスを筆頭に参列予定の要人名を何度も挙げていたのは、逆にビッグネーム不在の悲哀を感じさせるものだった。
「元首級の参列が少なくなりそうなのは、2つの理由があります。ひとつは、日本という国の発言力の低下。経済力が落ちていますし、外交的には米国に追随する以外の価値観を持っていない国と判断され、訪日する意味がないと思われている。もうひとつは、9.27という日程があまりにも悪すぎること。国連総会の時期とダブっているので、各国代表と対話したいならニューヨークに残っていた方が有益なのです。つまり、岸田首相は『弔問外交』を国葬の理由にしていますが、日程の矛盾から、『外交』が後付けであることがバレてしまっています」(孫崎享氏=前出)
先週の野党合同ヒアリングで、外務省の担当者が「現時点でまだ多くの国から返事を頂いていない」「とにかく早く教えて欲しいということで、働きかけを続けている」と内情を明かしていた。出足が悪くて、事務方も混乱している。
国葬当日までデモは続く
結局、国民が国葬に納得せず、すべての世論調査で「反対」多数となっているのは、手続きや法律論のおかしさに加え、旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)とのズブズブ癒着が明らかになった安倍を、なぜ特別扱いしなければならないのか、という怒りがおさまらないからでもある。すでに各地で行われている反対デモや集会、シンポジウムは、27日まで、この先2週間以上、続けられる見通しだ。国葬前日には、衆院議員会館の大会議室で「国葬反対大集会」が予定されているし、当日は日本武道館で国葬が始まる午後2時に、国会正門前で「国葬反対大行動」と銘打ったデモも予定されている。
来日した海外要人がこうした混乱した状況に接したら何と思うのか。国民の一致した支持を得ていない国葬の実態をさらけ出し、岸田内閣は赤っ恥だ。弔問外交どころじゃない。
もっともそれで済めば御の字で、元首相が白昼堂々、射殺されるような警備のお粗末な国だ。不測の事態を懸念して、参列を決めかねている国もあるだろう。
8日は、交代したばかりの警察庁長官が全国の警察の本部長らを集めて開いた会議の場で、「国葬警備に警察の威信をかけて取り組む」と檄を飛ばしたという。しかし、ただでさえ時間がないのに、いまだ国葬の開催自体がこれだけモメていては、落ち着いて警備体制が組めるのか疑問。訪日要人のために、首都高速道路など都内はあちこちで交通規制が実施される。望まない国葬によって不便を強いられる国民の不満は高まり、ますます支持率が下がる。岸田政権にとっても百害あって一利なし。無理を通せば、未曽有の大混乱だ。それでもこのまま突入するのか。
「旧統一教会のための国葬になるんじゃないかと思っている人も少なくありません。実施すれば政治不信がさらに拡大し、岸田首相は踏んだり蹴ったりでしょう。右派の支持を得ようと、勇み足で国葬を決めたことを、今ごろ後悔していますよ」(本澤二郎氏=前出)
独断で国葬を決めたように、内閣・自民党合同葬への変更を“政治決断”したらどうか。今からでも遅くはない。
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