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※紙面抜粋
※2022年8月20日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
案の定、カネにまみれた五輪だった。東京五輪のキーマンだった、大会組織委員会の元理事・高橋治之容疑者(78)が東京地検に逮捕されたことで、大会の「闇」が明らかになる可能性が高まっている。
高橋は、大会スポンサーだった紳士服大手「AOKIホールディングス」側から計5100万円の賄賂を受け取った受託収賄容疑で逮捕。賄賂を渡したAOKI側も、創業者で前会長の青木拡憲容疑者(83)ら3人が逮捕された。
東京地検が描く事件の構図は、古典的な贈収賄だ。東京五輪の公式スポンサーになることを望んだAOKIが、職務権限のある高橋に賄賂を贈ったというもの。高橋が代表を務めるコンサルタント会社「コモンズ」とAOKIが形式的に顧問契約を結び、AOKIが顧問料として計5100万円を振り込んだ。東京地検は、この「コンサル料」を全て賄賂と認定。「みなし公務員」である組織委の理事は、職務に関して金品を受理することを禁じられている。
そもそもの発端は、高橋がAOKIに対して、「大会スポンサーにならないか」と打診したことだった。AOKIは「料金が安ければ」と応じたという。その後、AOKIは「オフィシャルサポーター」に就任。本来、契約金は15億円程度なのに、5億円という激安だった。スポンサー企業は、五輪マークを独占的に利用できるなど、ビジネス上のメリットが大きい。
ただ、高橋はAOKIを騙していた疑いがあるという。
「どうやら高橋元理事は、AOKIに対して『契約金は7億5000万円だ』と伝えていたようです。AOKIも7億5000万円を払っている。しかし、実際の契約金は5億円で、残りの2億5000万円は“選手強化費名目”だった。高橋元理事は、その2億5000万円の中から、個人的に1億5000万円を受理したとみられています」(組織委関係者)
飛び交う大物政治家の名前
この先、捜査はどう進むか。この五輪汚職は、岸田政権を直撃する一大疑獄に発展する可能性がある。元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士はこう言う。
「“単純収賄”ではなく、刑罰の重い“受託収賄”で高橋容疑者を逮捕したのは、AOKIからの具体的な依頼(請託)内容を示す資料や文書を押さえているからでしょう。逮捕容疑となった5100万円の贈収賄を立件することは、さほど難しくないと思う。それよりも、特捜部が詰めているのは、2億5000万円の“選手強化費名目”の中から高橋容疑者に渡ったとされる1億5000万円の行方でしょう。5100万円の贈収賄だけだと執行猶予となる可能性があるが、億を超えると実刑になる確率が高まる。はたして1億5000万円は、高橋容疑者が個人的に懐に入れたのか、それとも裏金として政界の大物に渡ったのか。特捜部は詰めていくはずです。と同時に、AOKI以外の大会スポンサーからの賄賂はなかったのかも調べるでしょう。5100万円の贈収賄だけでは終わらないと思います」
そもそも、東京地検特捜部に期待されていることは政界捜査だ。
すでに永田町では、特捜部のターゲットとして、大臣経験者など複数の政治家の名前が囁かれている。岸田首相が慌てて内閣改造したのも、五輪汚職が理由だとも指摘されている。実際、名前が挙がっている議員は、要職に就いていない。高橋元理事の逮捕によって、パンドラの箱が開くのか。
口を閉ざしてきた大マスコミの大罪
五輪汚職に政治家がどう関わっていたのか、どこまで政界ルートが解明されるのか、多くの国民が期待しているに違いない。
それにしても、フザケているのは大マスコミだ。検察リークに乗っかって「腐敗の祭典だったのか」「『五輪マネー』の闇解明を」などと社説で説き、正義の味方を気取っているが、チャンチャラおかしいとは、このことだ。東京五輪がダーティーマネーにまみれていたことは、とっくに分かっていたはずだ。初めて知ったような顔をするのは、いい加減にすべきだ。
最初に「五輪とカネ」の問題が噴出したのは2016年のことだ。
20年大会を東京へ招致しようとしていた招致委員会がシンガポールのコンサルタント会社に支払った2億3000万円が、IOC委員への賄賂に使われていた疑いが浮上した。フランス検察が捜査に着手していることを公表し、英メディアが報じた。その後、当時、招致委理事長だった竹田恒和氏はIOC委員を辞任している。要するに、招致の段階からカネにまみれていたというわけだ。
さらに、ロイター通信は20年3月、「高橋氏の個人会社が招致委から約820万ドル(約9億円)を受け取り、ロビー活動をしていた」と報じている。海外メディアでさえ、高橋を疑っていたのである。なのに、日本の大手メディアだけが気付かないということがあり得るのか。
そもそも、コロナ禍に苦しむ国民が東京五輪の「中止」を求めていたのに、IOCや日本政府、組織委といった「五輪ファミリー」がなりふり構わず開催を強行したのも、カネ儲けが目的だったのは公然の秘密だ。海外メディアは「IOCが五輪開催へ強引に突き進む理由は3つ。カネ、カネ、そしてカネだ」と断じていた。
自ら進んで「闇」を隠蔽
大マスコミは腐りきった五輪の正体を知りながら、大会が始まると「メダル獲得」「勝った、勝った」とバカ騒ぎしていたのだから、どうかしている。
五輪のあり方を追及する機会はいくらでもあったはずだ。なのに、大マスコミは、ちっとも伝えようとしなかった。
むしろ、五輪の闇を隠蔽していたのが実態なのではないか。組織委が発注したスタッフ用の弁当1万食のうち4000食分が廃棄されていた問題も、ほとんど報じようとしなかった。
聖火リレーをネット中継していたNHKに至っては、沿道から上がった「オリンピック反対」という声をかき消すため、音声をカットまでしていたのだから信じられない。さながら戦前の翼賛報道だった。
「東京五輪の大罪」(ちくま新書)の著者・本間龍氏はこう言う。
「大手メディアが、『東京五輪とカネ』の問題について口を閉ざした理由は、彼ら自身が大会スポンサーに名を連ねていたからです。全国紙は全てスポンサーでした。厳しく批判できないのは当然です。なぜ揃ってスポンサーになったのか。選手や関係者に優先的に取材し、記事を充実させ販売部数を増やす、ひいては、他の大会スポンサーから広告を受注できると踏んだからでしょう。今頃になって『闇の解明を』などと主張するとは、あまりにもしらじらしい。本気でそう思うのなら、まずは自らが支払ったスポンサー料の額を明かすべきでしょう。少なくとも、自分たちがスポンサーになった問題の検証記事を出すべきではないか」
欺瞞に満ちた大マスコミを放置していたら、「五輪ファミリー」はやりたい放題だ。この国の腐敗堕落も止まらないだろう。
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